【鉄道を考える 06】JR北海道 当社単独では維持することが困難な線区について 平成28年11月18日発表

2016.11.19

『持続可能な交通体系のあり方について』
※写真はJR北海道発表の資料『「持続可能な交通体系のあり方」について』の23ページ。今年7月に発表されたものだ。

JR北海道が今回発したメッセージは地上波テレビのニュースにも取り上げられるなど広く社会的な関心を集めた。

しかし、多くは焦点の曖昧な報道内容に終始していた様に思う。理由はおそらくこの問題の単純過ぎる構造にあるのだろう。以下に簡単に書いてみると。

JR北海道(の或る線区)の赤字が増え維持が困難になった。

①原因はJR北海道を利用する人が減ったからだ。

その理由は

②-a北海道全体で(札幌周辺の極一部を除き)全国平均とは比較にならない速さで人口減少が進んでいる。※トップ画像参照

②-b北海道は基本的に寒冷地である。それ故に明治維新までは人口希薄地帯だったが、日本の近代化の過程で石炭産業やニシン漁、農業開拓民の移住などによる人口の制度的・人為的な膨張が図られた。しかしエネルギー構造転換や経済グローバル化などの進行で過去100年間に増加した人口を維持する経済基盤の多くが北海道から失われた。

③工業製品としての自動車の価格が相対的に下がったことでマイカー普及が劇的に進行した(一家に1台→1人1台)。

④北海道庁などが高規格道路を含め道路整備を進めており自動車による移動が便利になった。

『持続可能な交通体系のあり方について』5
※写真はJR北海道発表の資料より

⑤高度成長時代を経て「日本人の時間意識が変化した」。その背景にはテレビの普及で都会的価値観が全日本人に定常的に投与され続けたことがある。

それは「マイペース」の基本ピッチが上がったことに象徴される。

ローカル線の少ない本数の列車を待って「ゆっくり・のんびり移動する」ということが「罪悪視」される風潮が生じたのである。言い換えれば、「すぐに、その場で移動が開始できる」自動車の利便性に対する評価が高まった。

この価値観を変更することはほぼ不可能である。

以上は不可逆的で「コントロールができない現象」である。

論より証拠に「速く大量に移動」という鉄道の特性が活かされる札幌周辺エリア(人口増加エリア)では逆に輸送密度が上昇している。

報道などでは上記事象のパーツを取り上げて分析・解説をする。しかし「解決策」を提案することは全く容易ではない。あるいは「他責的に犯人を捜す=誰のせいでこうなった」的な言説で問題をすり替えてしまう。今さら国鉄分割民営化の罪業を言い立てても問題は解決しない。

さらに

⑥JR北海道が旧国鉄から引き継いだインフラが老朽化しメンテナンス費用がかかる。JR北海道は現状維持に汲々としていて、それだけの余裕がない。

JR北海道老朽化
JR北海道老朽化
※写真はJR北海道発表の資料より

上記のパーツを見ても

①JR北海道が利用促進策を放棄しているとは思えない。駅などには様々な優待を含めた利用促進メッセージを見かける。例えばJR北海道の幹線では普通列車の運転本数が抑制されているので優等列車を使う定期券がリーズナブルに提供されている。

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②-a人口減少(社会)をコントロールする術はほとんどない。少なくとも「JR北海道単独」でどうにかできる問題ではない。

②-b北海道の歴史を否定することは出来ない。

③安く快適で安全な自動車は日本の実力が産み出す宝である。

④これは政治の問題だ。北海道民の民意が基本にある。

⑤これも社会学的な分析は可能でも実際的な処方箋は困難だろう。個々人の価値意識は多様な文化全体の中で醸成され、同時に文化を合成する要素でもあって人為的にコントロールが可能か否かは議論が分かれる。

⑥インフラの維持・管理は誰のために誰が行うのか、それを決めるのを一私企業JR北海道に全面的に負わせるのは酷だという気がする。例えば地方自治体での水道管理などが問題となっているが、結局はユーザーの負担ということになるのだろう。しかし、JR北海道の場合、ユーザーの減少がそもそもの問題の発端なのだから話は簡単ではない。

その点、今回JR北海道が提案している上下分離方式は第三セクターなどにも導入されている方式である。このやり方は負担の判断が住民の選択に委ねられる点でハッキリして良いとも考えるが、北海道民、特に今回問題になっている線区は人口減少エリアにあり、言い換えれば経済基盤が脆弱なエリアなので負担に耐えられない懸念がある。

以上、今回のJR北海道発表から簡単過ぎる梗概を書いてみたが、いずれにしても簡単な解決はないだろう。

ただし、⑥に関連するのだが、上記には「公共性」という視点が抜けている。経済学用語で言うところの「外部効果」「外部経済」である。つまり利用者が直接的に享受する便益だけでは判断できない部分のことだ。鉄道によって「安く速い移動」という直接的な便益を受けるのは利用者だが、その利用者が移動することで「就労エリア」と「居住エリア」が確立され、「商業地域」なども成立することで「自治体」が機能する。つまり鉄道がインフラとして社会に寄与する部分をどのように考えるか、という視座である。

もちろん廃止されてきた線区の場合、自治体・住民が主となって鉄道の「外部利益」を議論してきた。高度成長期には鉄道が敷設されることで新たな自治体が誕生してきたのだ。しかし、例えば東京郊外の多摩ニュータウンなどを典型とする様な、住民減少が地域経済の基盤を脅かす事態が特に都市周辺部で増えている。これらの現象と今回のJR北海道の事象との比較研究が必要なのではないだろうか。

今年7月にJR北海道が発表した『「持続可能な交通体系のあり方」について』の時に書いたコラムも参照していただければ、と思う。

http://tetsudo-ch.com/7394.html

大人の休日倶楽部などでJR北海道はJR東日本と共同しているが、例えばJR北海道が新型車両の調達に困っているなら適当な車両を都合するなど、JR各社がJR北海道の窮状に救いの手をさしのべるのが最も美しい姿かもしれない。

(写真・記事/住田至朗)


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