幕末維新号のお見送り 2019年11月30日(土) 日高村にて

2019年11月30日(土)、「志国高知 幕末維新号」がラストランを迎えました。

「幕末維新号」は2017年9月23日に運行を開始したJR四国の観光列車です。坂本龍馬を始めとする土佐の志士たちをラッピングしたキクハ32形トロッコ車両とキハ185系気動車の2両編成で、土休日を中心に土讃線の高知〜窪川間を1日1往復。仁淀川など沿線の景色を気軽に楽しめるリーズナブルな観光列車として、およそ2年間にわたり親しまれていました。

※……キハ185系気動車をさらに増結して3両編成で運転することもあります。

運行開始から2年間の平均乗車率は67.7%。JR四国のトロッコ列車としては高い乗車率を誇り、今年11月に至っては88%もの乗車率を叩き出しました。ラストランのきっぷは発売開始からわずか30秒で売り切れてしまったとのこと。

記者も密かに気にしてはいたのですが、四国を訪れる機会もなかなか来ないうちに引退の報が流れ、これは乗れないだろうな……と半ば諦めていたところJR四国さんから「ラストランの取材に来ませんか?」とご提案をいただき、「龍馬立志の巻」スタッフ用のスペースに乗車させていただくことになりました。

というわけで。やや遅くなってしまいましたが、ラストランや高知駅で行われた「幕末維新号ラストラン記念式典」のリポートをお届けし、高い乗車率を誇る「幕末維新号」の魅力に迫ります。

幕末維新号ラストラン乗車リポート

11月30日(土)10時過ぎ、高知駅コンコースではプラレールの組み立てやミニ列車のための路線敷設など、幕末維新号ラストラン記念式典に向けた準備が行われていました。2016年に登場したJR四国のイメージキャラクター「すまいる えきちゃん」もスタンバイ。アテンダントとして乗り込む伊野商業高校ツーリズムコースの皆さんもラストランに向けてミーティング中でした。

ラストラン記念式典準備中の高知駅へ現れた「すまいる えきちゃん」 JR四国社員が発案したキャラクターで、日々熱心にPR活動を行っています

3番のりばへ向かうとそこにはもう「幕末維新号」が。トロッコ列車の偉人ラッピング(?)は坂本龍馬だけではなく岩崎彌太郎やジョン万次郎などの姿もあり、想像以上にバリエーションに富んでいます。

幕末維新号に使われるキクハ32形
車体には土佐出身の偉人の姿が
スタッフ用のキハ185系が増結されている

駅ホームの発車標には「臨時 志国高知」「2年間のご愛顧ありがとうございました」――運行開始時から乗っている人にはジーンとくる計らいではないでしょうか。

「2年間のご愛顧ありがとうございました。」の文字がスクロールする

さて、列車は定刻通り10:14に高知駅を発車。ホームの方々のお見送りに手を振り返し、窪川へ向かいます。

10:37頃に伊野駅に到着。幕末維新号が本領を発揮するのはここからです。乗客は185系からトロッコ列車に移動し、土讃線の景色を眺めながら旅を続けることになります。185系の座席もいいものですが、窓のないトロッコ列車の開放感はやはり別格。この日は快晴だったこともあり、川面や海原のきらめきが映えました。

185系の座席から眺める仁淀川 伊野~波川間
この開放感はトロッコ列車ならでは 安和~土佐久礼間

乗車中はアテンダントによる沿線地域の紹介やジャンケン大会などが行われました。アテンダントが地元の高校の生徒さんだからという理由もあるのでしょうが、単なる景色の解説だけではなく路線脇の喫茶店などにも触れており、この距離の近さが新鮮でした。

10:50頃に日下駅に到着し、手作りの記念乗車証を配布。10:54頃、日下〜岡花間の日高村でお見送り。日高村といえば特産のシュガートマトや国道33号周辺の「オムライス街道」が有名ですが、昔から熱心に地元のアピールをされているとのことで、過去にはオムライス帽子をかぶって列車に手を振るなど、様々なアイデアを駆使して歓迎が行われていたそうです。

11:00頃土佐加茂駅着、トロッコ列車の外からアテンダントによる記念撮影が行われました。車内では実物大ヘッドマークステッカー販売なども実施。11:15頃に西佐川駅を通過した際にもお見送り。ここで手を振っていただいたのは四国鉄道OB会の皆さん。この日はラストランということで大勢の方がおいでになりました。

記念乗車証配布
実物大ヘッドマークステッカー 皆さん列をなして購入されていました

11:28頃には斗賀野駅着。進行方向右手を眺めると白石工業(株)の炭酸カルシウム工場が登場します。取材の関係でトロッコ列車から離れていたので185系の車窓にiPhoneを張り付けて無理やり撮影したのですが、山の中に突如として繊細に入り組んだ工場が現れるのが面白い。高知県でも有名なフォトスポットになっています。

11:47頃に須崎駅着、沿線の方々からお見送りを受けて11:53土佐新荘駅を通過し、安和までの間を最徐行。この土佐新庄から安和に至る区間は太平洋が綺麗に見渡せる絶景スポットでした。もし土讃線に乗る機会があれば、その際は海側の座席を確保しましょう。走行音の響く暗いトンネルを抜けて、ぶわっと眺望が開ける瞬間はきっと記憶に残るはずです。

細いパイプが複雑に入り組む炭酸カルシウム工場が山の中に佇んでいる
トンネルを抜けると白く照り輝く太平洋が姿を現す
安和駅でのお見送り。ラストランということもあってか、手厚いおもてなしばかりだった

安和の絶景を越えて12:10土佐久礼駅に着くと、窪川方面からやってくる2700系気動車とすれ違いました。2700系が土讃線に投入されることは今夏のプレスにて発表がありましたので、このタイミングで幕末維新号と一緒に撮ろうと考えていた方もいらっしゃったかもしれません。

特急あしずり6号高知行き
引退する幕末維新号と新型の2700系、かなり珍しい光景かも?

トロッコ乗車区間はここまで。乗客は再び185系に移動し、窪川へと向かいます。

誰もいなくなったトロッコがトンネルを抜ける

12:30頃に影野でお見送りを受け、12:39頃に予定通り窪川へ到着。こうして2時間ちょっとの短い旅路が終わりました。2時間を”短い”と表現するのは現在の列車事情に鑑みると適切ではないかもしれませんが、「幕末維新号」はそれだけ退屈しない観光列車であったように思います。

アンパンマン列車も停車 窪川駅では出張販売も

窪川駅外観 すぐそばには土佐くろしお鉄道の窪川駅も

窪川駅では「かっぱうようよ号」など様々な列車が停車していました。降車後、ホームでしばし待っているとアンパンマン列車も登場。JR四国の多彩な列車が続々と集結していきます。

右手奥が3代目海洋堂ホビートレイン「かっぱうようよ号」
高知はやなせたかしさんの出身地 至る所にアンパンマンがいる

窪川駅では周辺のお店の方々がラストランに合わせて出張販売に来ていました。記者は肉まんとジンジャーエールを昼食代わりに購入。帰りの電車まで少し時間があったので、駅から五分ほど歩いた先にある古民家カフェ「半平」で幕末維新号ラストランの日限定のスイーツをいただくことにしました。

道の駅「あぐり窪川」の出張販売 高知は生姜の生産量日本一 ジンジャーエールは辛いが芯から温まる
ラストランの日限定販売「車窓から〜秋の沈下橋〜」 葛を四万十川に見立て、沈下橋をモチーフとした餅を巻いた和菓子。アクセントの葉は練り切り。ドリンクセットで650円。

ラストラン記念式典、「時代の夜明けのものがたり」へ

幕末維新号の本当のラストランは窪川駅14:15発の「日本の夜明けの巻」ですが、高知駅ではこの日、列車をお出迎えする記念式典および引継式が行われるとのことで、記者は14:02発特急あしずり8号で一足先に戻りました。

「志国高知 幕末維新号」ラストラン記念式典および「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」運行引継ぎ式では、「幕末維新号」のラストランイメージムービーや「志国土佐 時代の夜明けのものがたり」プロモーションムービーが上映されました。幕末維新号は引退しますが、同列車が切り開いた土讃線観光列車のイメージは時代の夜明けのものがたりが引き継ぎ、来春より運行を開始します。

ムービー上映後は「時代の夜明けのものがたり」アテンダントの制服お披露目も行われました。これまでの観光列車ではワンピーススタイルの制服が着用されていましたが、次は「クラシカルモダンスタイル」をコンセプトとするブラウス・スカート・ベストスタイルに。土佐の伝統的なモチーフ「土佐和紙」の模様をエプロンと袖元に取り入れたデザインとなっています。

「時代の夜明けのものがたり」アテンダント制服のお披露目

制服のお披露目が行われた後は高知駅のホームへ移動。JR四国半井真司代表取締役社長はこれまでの「幕末維新号」の運行や地域の方々の支援に触れ、高知県観光振興部長である吉村大さんは「見慣れた土讃線の風景が観光資源に変わるとは」と幕末維新号の貢献ぶりについて語りました。

来賓挨拶の後は歓迎の演奏やヘッドマークの贈呈が行われ、最後は帰ってきた幕末維新号の車庫入りを見送りました。

くす玉開花の瞬間
車庫に向かう「幕末維新号」

「幕末維新号」に実際に乗ってみた感想として、やはり「乗車券に座席指定券を付けるだけでふらっと乗れる気軽さ」「仁淀川や太平洋、高知の田園風景をゆっくり眺める楽しさ」「地元との距離感の近さ」といった要素は間違いなくこの観光列車の魅力であった、と感じられました。

取材中にJR四国の方々や関係者の方々に聞いて回っている中で、”土讃線は「伊予灘ものがたり」が走る区間のような景観に恵まれた路線ではない”という共通認識があるのではないかという印象を受けましたが(私自身はそうは思いませんでしたが)、そのぶん関係者全員で盛り上げようという思いがこもっていたように思います。

JR高知駅での取材中には「今度の(観光)列車はずいぶん贅沢になった」と懸念する声もありましたが、JR四国側もその点は認識しているようで、敷居の高さを感じさせないような工夫を意識されているようです。「時代の夜明けのものがたり」は幕末維新号が切り開いた観光資源としての土讃線沿線の魅力をどのように継承していくか、注目していきたいですね。

トロッコ車両は今後も四国のどこかを走るようです。土讃線を開拓したように、また他の路線を活性化していくのでしょうか。なにはともあれ2年間の運行、お疲れさまでした。

記事/写真:一橋正浩