緊急事態宣言解除後、鉄道利用客は増えていますがリモートワーク普及などで、完全に戻ることはないというのが大勢の見解です。 イメージ写真:PIXTA

感染拡大防止と経済活動再開という相反する課題を突き付ける新型コロナウィルス感染症。ウィズコロナ時代のニューノーマルでは、鉄道利用にも新しいニーズが生まれるようです。それは一言に集約すれば「混んだ列車に乗りたくない」。鉄道事業者は、駅や列車の混雑情報を発信して空いた列車に誘導します。

駅混雑予測をスマホに

駅や列車の混雑情報発信に積極的なのはJR東日本。5月以降、本社レベルで4件の新サービスをアナウンスしました。7月下旬から始めた山手線内27駅の駅混雑予測は、深澤祐二社長自らが定例会見で発表しました。

駅混雑予測は、自社アプリ「JR東日本アプリ」で発信します。当日から2日後までの予測が確認可能で、鉄道利用時間帯の判断材料となります。混雑度は駅構内の映像や自動改札機の通過人員、列車の乗車人員、列車走行位置といった情報をAI(人工知能)の活用で総合判断します。

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列車は1本ずつの混み具合確認が可能。混雑レベルは、「混雑なし」「やや混雑」「混雑」「大変混雑」4段階で色分け表示されます。

東京都心部以外では、ZOZOマリンスタジアムや幕張メッセの最寄り駅・京葉線海浜幕張駅の混雑情報提供が7月から始まりました。JR東日本と、NTTコムウェアをはじめIT系企業を中心とした6社の協業で、5分後、15分後、30分後の駅改札の混雑が予測表示されます。スマホのほか、スタジアムやメッセに設置するデジタルサイネージで確認できます。

海浜幕張駅のデジタルサイネージ。通常は交通広告媒体として使用しています。 写真提供:VAインターナショナル

100路線以上を確認できる混雑トレンド機能

鉄道事業者以外で注目したいのが、ヤフーが6月から提供を始めた「混雑トレンド機能」。スタート時の64路線に、7月13日から50路線が加わりました。提供するのは東海道・山陽、東北・北海道をはじめとするすべての新幹線、在来線はJR総武線、JR京都・神戸線など。私鉄も京王、東急東横、阪急京都の各線をはじめ主要路線を網羅します。情報源は自社乗換案内の検索状況のAI解析データ。同社は「混雑を極力避けながら移動できるよう支援したい」と説明します。

さらに、多くの鉄道事業者が混雑情報を提供します。時間帯別の混雑率を事前に調査して、例えば「8時~8時30分の○○方面は混雑する」といった傾向を紹介します。有用性は高いものの、列車1本ごとの混雑度が分かる事業者はまだ少ないようです。

通勤者は乗車方法にポリシー

そもそも「空いた列車に乗りたい」というニーズは、どの程度あるのでしょうか。日々鉄道を使う通勤者は、「朝はぎりぎりまで寝ていて、どんなに混んでも最速列車に乗る」「出勤時は急行、帰りは空いている緩行(各駅停車)」とポリシーを持つものです。

そうした点を考えると、普段鉄道を利用しない主婦やシニアにこそ混雑情報の必要性があるようにも思えます。利用客全員がスマホを持たないことを考えれば、駅の発車標やポスターでの案内も有効性があるように思えます。

最後にインターネットで見付けた、バス混雑情報提供に向けた自治体施策をご紹介。群馬県はバス1本ごとの混雑情報のスマホ配信を目指し、国の2次補正予算でバス事業者への導入経費助成を用意しています。同県県土整備部交通政策課への電話取材では、混雑度の自動判定には乗降口に取り付けたセンサーの利用を想定します。鉄道では、地方鉄道やローカル線への応用が考えられそうですね。

文:上里夏生