「大垣駅を知らない鉄道ファン、いますか?」

そう問いかければ。恐らくほぼ全ての方が「聞いたことがある」「乗り換えに使った」と答えるのではないでしょうか。大垣駅にはJR東海道線のほか樽見鉄道と養老鉄道が乗り入れており、大垣市の鉄道拠点として存在感を放っています。

有名な理由の一つが「青春18きっぷ」。東海道線経由で東阪間を移動する場合、ここで列車を乗り換えることが多いためです。跨線橋を渡って別のホームへ急いで乗り換える様は「大垣ダッシュ」とも称され、これを控えてもらうため、「構内10Km/H以下」というポスターが掲出されていたこともあります(※)。すでに運行をやめてしまいましたが「ムーンライトながら」やその前身「大垣夜行」の終点でもあり、お世話になった鉄道ファンも多いでしょう。

※このポスターをモチーフにしたスポーツタオルも販売されています。詳しくは2024年7月掲載記事「青春18きっぷでおなじみ東海道本線大垣駅のグッズが登場 歴代「ムーンライトながら」クリアファイルなど」をご覧ください。

青春18きっぷでおなじみ東海道本線大垣駅のグッズが登場 歴代「ムーンライトながら」クリアファイルなど

そんな大垣ですが、実際に降りて街を歩いたという方はどのくらいの数に上るのでしょうか。「大垣を知らない」鉄道ファンはほぼいないと思いますが、実は筆者自身「青春18きっぷ」で移動しているときに乗り換えに使った程度で、実際に電車を下りて歩いてみたことはありませんでした。

いろいろな路線を回っていると「通過しただけ」「乗り換えただけ」という駅も増えていくものですが、そうやってスルーするのがもったいない素敵な街はたくさんあります。「水の都」大垣もその一つということで、旅で見つけた素敵なものをご紹介します。

石田三成が本拠地を構えた水陸の要衝「大垣城」

岐阜県のお城といえば、最も有名なのは金華山にそびえる「岐阜城」でしょうか。織田信長が手に入れた稲葉山城を改修した絶景のお城で、ぎふ金華山ロープウェーで上れば岐阜市の街並みが一望できます。動物好きなら「ぎふ金華山リス村」もおススメです。

一方、大垣駅から徒歩で行ける「大垣城」は、天下分け目の合戦「関ケ原の戦い」で、西軍を率いた石田三成が入城して西軍の本拠地としたことで知られています。

珍しい四層四階の天守を備える大垣城

同じ岐阜県内の城ですが、山城である岐阜城とはだいぶ性格が異なっており、江戸時代には「四重の広い水堀が囲む堅固な城だったとされる」(「岐阜の城百景」)とも。大垣城は1535(天文4)年、宮川安定によって創建されたと伝えられますが、当時はまだ小規模なお城であり、天守が造営されたのはのちの時代になってから。江戸時代に入ると更なる改修が行われ、現在のような四層四階の天守となりました。

水の都・大垣は水害に悩まされた土地でもあります。写真は過去の大水害の最高浸水点の説明をする高木館長

城内には本物の刀や甲冑が展示されており、関ケ原の戦いの前日に島左近の奇策によって西軍が勝利した「杭瀬川の戦い」のジオラマなども。山田去暦(徳川家康のかつての家庭教師)の娘「おあむ」がたらいに乗って大垣城を脱出したという「おあむ物語」に関する展示も充実しています。

「杭瀬川の戦い」のジオラマ

余談ですが、GW頃に行われる「水の都おおがきたらい舟」は、この「おあむ物語」から生まれた大垣の風物詩です。毎年開催時期が近づくと大垣市観光協会で事前予約を受け付けていますが、大変な人気があるようですぐに予約が埋まってしまうのだとか。

一晩で建てたわけではない?「墨俣一夜城」

墨俣一夜城の手前は犀川にかかる「太閤出世橋」。渡った先には豊臣秀吉の像が設置されています

大垣にあるお城ということで忘れてはならないのが、織田信長の美濃攻略において築かれた重要拠点「墨俣一夜城」です。豊臣秀吉(当時は木下藤吉郎)が築いたと伝えられ、名前には「一夜城」とありますが、実際には数日かけて完成させたという逸話が残っています。

現在の墨俣一夜城は歴史資料館になっており、館内では墨俣の歴史や輪中地域の暮らしなどを写真やパネルで紹介しています。また常設展示室では稲葉山城攻略や秀吉の天下取りの軌跡などを辿っており、戦国好きなら是非とも訪れたい場所と言えるでしょう。

5階に上れば墨俣の絶景も。東は岐阜城や御嶽山、西は伊吹山や養老山脈が存在感を放っていますが、雄大な川の流れもまた美しい絶景として心に残ります。墨俣一夜城の南にはソメイヨシノの桜並木が植えられており、春にはその咲き誇る様子を一望することもできます。

墨俣一夜城 5階からの眺望

大垣は芭蕉ゆかりの地「奥の細道むすびの地記念館」

奥の細道むすびの地記念館

江戸時代の俳人・松尾芭蕉が残した「奥の細道」――弟子の曾良と共に江戸を発ち、奥羽・北陸を巡りながら大垣へ辿り着きます。「夏草や 兵どもが 夢の跡」など、誰しも聞いたことのある有名な俳句を生み出した旅、その終点がここ大垣でした。

記念館は大垣船町川湊のすぐそばにあり、松尾芭蕉や「奥の細道」に関する資料が展示されています。このほかにも「文教のまち・大垣」の基礎を築いた賢人を紹介する「先賢館」、大垣藩の重鎮・小原鉄心の別荘「無何有荘大醒榭」を移築しています。

小原鉄心の別荘「無何有荘大醒榭」

夏は涼やかなスイーツを……銘菓「水まんじゅう」

大垣に来たら欠かせないのがこちら、水まんじゅう。「水の都大垣」の夏の風物詩ですが、必ずしも暑い時期でないと買えないということはありません。筆者は9月半ばに大垣の金蝶園総本家を訪れ、水まんじゅうを購入しました。同店では4月下旬から9月下旬にかけて販売しているようです。

涼しげに冷やされる水まんじゅう

水まんじゅうが世に出たのは明治初期。葛とわらび粉のつるりとした生地であっさりとした餡を包みます。中には季節のフルーツ餡などもあり、カラフルな水まんじゅうは見ているだけでも幸せになれそう。暑い夏の休憩にぴったりのスイーツです。

良質な地下水が湧き出る井戸が多いのも大垣らしいポイントです

長年にわたる水害との戦いという苦難の歴史もあるものの、その豊かな水資源の上に築き上げられた街の姿や文化はまさに「水の都」に相応しいものです。大垣を訪れた際は、ぜひ途中下車を。街を楽しんだあとは、養老鉄道や樽見鉄道へ乗り換えてローカル線の旅に出てみるのもおススメです。

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