発表会で鉄印帳の旅をアピールする堀坂明弘日旅、中村一郎三鉄、坂元隆読売旅行の各社長=右から= 写真提供:日本旅行

本サイトで紹介した「鉄印帳の旅」(6月23日)はユニークな地方ローカル線の利用促進作戦です。お遍路の旅として日本人の心に広く定着する四国八十八ケ所巡りの手法を援用。鉄道名やマークをデザインした鉄印は寺院の御朱印、豪華本仕様の鉄印帳は御朱印帳に思えます。鉄印というスタンプの記帳(収集)自体を目的化したのが目新しい点といえそうです。

地方交通線と並行在来線が主要メンバー

鉄印帳の旅は三セク鉄道40社が加盟する第三セクター鉄道等協議会(三セク協)が、日本旅行、読売旅行の旅行2社と共同で企画しました。

三セク協の主なメンバーは、国鉄改革でJRに引き継がれなかった真岡鐵道や明知鉄道などの地方交通線鉄道と、整備新幹線開業でJRから経営分離された道南いさりび鉄道や肥薩おれんじ鉄道といった並行在来線を運営するローカル鉄道です。

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沿線住民減少で利用客は漸減が続き、新型コロナウィルス感染症が追い打ちを掛けて経営環境は厳しさを増します。

鉄道ファンに受け入れられる鉄道ツアー

旅行2社のうち日旅は鉄道旅行を得意分野とし、社内チームの鉄道プロジェクトは多くのユニークなツアーを送り出し、鉄道ファンの支持を得ています。

乗り鉄や撮り鉄だけならきっぷを買って乗車すればいいわけですから、旅行会社のツアーは珍しい車両に乗れるとか、普段は立ち入れないバックヤードを見学できるとか、付加価値を求められます。日旅は三セク鉄道絡みで、道南いさりび鉄道の観光列車「ながまれ海峡号」のプロデュースも手掛けています。

読売旅行も同じく鉄道ツアーに力を入れます。系列に月刊旅行誌「旅行読売」を発行する旅行読売出版社があり、定期購読者にシニアの多い活字媒体を持ち、出版ノウハウも持つ点も強みです。

旅行業界はインターネットによる直接予約の普及で事業改革を迫られており、日旅と読売旅行は昨年9月に会社の枠を超えて包括業務提携。両社は優れた鉄道ツアーを顕彰する「鉄旅オブザイヤー」でも上位入賞の常連で、初めての連携事業として「鉄印帳の旅」を商品化しました。

鉄道ファンにとっての修行の場!?

鉄印帳の旅の手法は、鉄道会社の誘客策定石のスタンプラリーと同じ。鉄印帳がスタンプ帳(台紙)、三セク各社で記帳してもらう鉄印がスタンプです。普通のスタンプラリーはスタンプ帳やスタンプが無料なのに対し、鉄印帳の旅は鉄印帳2200円、鉄印の記帳300円からと有料なのが大きな違い。

スタンプラリーが鉄道に乗車してもらうツールなのに対し、鉄印帳の旅は鉄印の収集そのものを目的化した点が知恵の絞りどころといえます。

鉄印帳の旅の原点は、四国八十八ケ所巡りにあります。八十八ケ所巡りを調べてみたところ、特定のご利益があるわけでなく、空海の足跡をたどる「修行」のニュアンスが強いようです。

そういえばスタンプラリーは達成すると、ノートやクリアファイルをもらえますが、鉄印帳の旅の達成者特典はシリアルナンバー入り「鉄印帳マイスターカード」(1000円)の購入権だけ。若干のジョークを交えれば、やはり鉄道という道場を舞台にした「修行」なのかもしれません。

最後に一言、四国八十八ケ所はお接待という沿道の人たちのもてなしがお遍路を支え、再訪を促します。鉄印帳の旅も三セク各社がホスピタリティー(もてなし)精神で歓迎すれば参加者の心に好印象を残し、再び訪れてもらえるはずです。

朝の連続テレビ小説「あまちゃん」に北三陸鉄道として登場した三鉄はロケツーリズムの来訪客も多い。 写真:Pixta

記事:上里夏生