JR室蘭本線は、函館本線・長万部~岩見沢までの本線211.0㎞と、東室蘭~室蘭まで7.0kmの支線で構成する路線です。沼ノ端~長万部及び沼ノ端~室蘭は特急が走るなど、札幌圏と道央・道南を結ぶ幹線として位置づけられていますが、岩見沢~沼ノ端は本数が少なく、ローカル線のイメージを色濃く残しています。のどかな沿線の情景を全6回に分けて紹介します。

のどかな風景にたたずむ 「安平駅」

無人駅ながら保線事務室を併設

安平駅は1902年10月11日に、北海道炭礦鉄道の新設駅として開業しました。地名の由来はアイヌ語のアㇻピラペッ(一面・崖の・川)、アㇻピラ(片側・崖)など諸説あると言われています。追分町と早来町が合併して安平町となるなど、町名の由来となっているにも関わらず、駅は民家が点在する静かな環境にあります。「何もないじゃないか」と思った方は、駅前通りを国道に向かって歩いてください。100mほど歩くと地元で人気のたこ焼き屋さんが見えてきます。

すべての味を食べてみたくなる

たこ焼きが10個300円という安さだけでなく、「みそ味」「しお味」というラーメンのようなラインアップにも驚かされます。「昔から3つの味を販売しているので、特別とは思わない」とご主人。北海道産小麦粉や北海道産煮ダコを使うなど、素材もこだわっています。

しお味

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しお味はソースの代わりに塩だれで味付けされ、上に黒コショウが乗っています。柔らかい触感で、あっさりとした味。これまで食べたことがない感覚です。

みそ味

みそ味は味噌ダレに胡麻がトッピングされています。味噌田楽のような味かと思いきや、まったくの別モノで「味噌味のたこ焼き」としか表現しようがありません。思わぬ発見に駅ブラの楽しさを再確認しました。

サラブレットとチーズの里の玄関口 「早来駅」

まるで洋館のような早来駅

早来駅は1894年8月1日に開業しました。アイヌ語のサㇰルペㇱペ(夏・越える沢道)、あるいはサㇰル(夏・道)と呼ばれていたものに字を当て「早来(さっくる)」と読ませたものが語源という説が有力ですが、「北海道炭礦鉄道の列車が予定より早く来たから」など、信じがたい都市伝説も語り継がれています。駅には観光協会が併設されており、この地で育ったサラブレッドの活躍や特産品の紹介・販売などが行われています。

早来駅近くにある夢民舎(ムーミン)は、「美味しい」と評判のチーズ工房です。早来には大手のチーズ工場がありましたが別の場所に移転したため、「チーズの町を復活させよう」と1990年に有志7人により創設されました。「レストランみやもと」ではチーズを販売するほか、チーズを使った料理を提供しています。ソフトクリームも美味しいと評判で、遠方から買いに来る人がいるほど。ぜひ立ち寄りたいお店です。

貨物の取り扱い時代の面影を今もとどめる 「遠浅駅」

駅前には住宅が広がる

遠浅駅は、北海道炭礦鉄道によって1902年9月21日に開業しました。地名はアイヌ語のトワ・サ(羊歯の原)あるいはト・アサム(沼の奥)、「ト・サム」(沼の端)に由来しているなど諸説あります。

かつての引き込み線も残されたまま

1972年3月16日に貨物の取扱いが廃止されていますが、駅舎近くの引き込み線に当時の面影が残されています。傍らに基礎が残されているので、当時の様子を想像してみてください。

未来に向かってリニューアルされた 「沼ノ端駅」

近代的な高架駅に生まれ変わった沼ノ端駅

列車は苫小牧まで運行されていますが、この旅は沼ノ端駅を終点とします。1898年2月1日に開業。2007年12月に近代的な新駅舎が完成しました。苫小牧駅管理の無人駅ながら自動券売機・簡易Kitaca改札機を設置するなど、これまで紹介した室蘭本線の駅舎とは力の入り方が違います。突然夢から現実に引き戻されたような気分になりました。

今回紹介した岩見沢~沼ノ端は、JR北海道が「自社単独では老朽土木構造物の更新も含め安全な鉄道サービスを持続的に維持するための費用を確保できない線区」として位置づけており、将来的な存続は難しいと言われています。ぜひ一度、岩見沢~沼ノ端に乗り、今の姿を脳裏に焼き付けてください。

文/写真:吉田匡和