旅客輸送だけでなく生鮮品輸送にも活躍する山形新幹線「つばさ」イメージ。新在直通運転で東京駅と山形、新庄駅を直結します。 写真:K@zuTa / PIXTA

最近、「営業列車で○○を運ぶ」のニュースを良く見掛けます。○○に入るのは宅配便、鮮魚、果物など。一般には貨物・荷物でくくれそうですが、私は「商品」と呼ぶのが適切なように思えます。輸送時間を争う荷物にとって、新幹線や特急列車のスピードは商品の付加価値を高める強力な武器になります。

もう一つ、地方圏で始まっているのが定期列車や路線バスを活用した貨物・荷物輸送。宅配便会社などは物流手段をトラックから列車やバスに切り替え、地方圏でも確実に荷物を配送する。鉄道シフトは生活インフラの維持につながります。事例のいくつかを紹介するとともに、国の支援策、そして戦前にさかのぼる「旅客列車で荷物を運ぶ」の歴史をたどってみたいと思います。

当初の呼び名は「電車モーダルシフト」

渋滞回避と環境負荷低減の効果をアピールする国交省の物流政策資料。左下写真は京福電鉄によるヤマト運輸の宅急便輸送です。画像は国交省の2016年度予算概算要求資料から

国土交通省の呼称は「貨客混載」。確かにその通りですが、2016年度に国の支援制度が創設された当初は「電車モーダルシフト」の通称も使われていました。バスやタクシーは電車じゃない、非電化線区は「気動車モーダルシフト」とあれこれあって貨客混載になったのですが、輸送手段(モーダル)を変更(シフト)する点では、一般的なトラックから鉄道へのモーダルシフトと変わりません。

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最近のニュースを3題紹介します。山形県産の西洋なし「ラ・フランス」180kgが2020年11月5日、山形新幹線で初めて山形駅から東京駅に輸送されました。JR東日本仙台支社と山形県が連携を深める中で実現に至ったもので、JR東日本とグループ3社が協力。東京駅構内の地域産品販売店で売り出されました。完熟間際の西洋なしを新幹線でスピーディーに運ぶことで、商品価値が高まるそうです。

JR九州と佐川急便は2020年8月26日、宅配貨物を九州新幹線で運ぶ貨客混載事業に基本合意しました。佐川は集配効率向上、JR九州は新幹線の余剰スペース活用による収入増に期待します。輸送区間は博多―鹿児島中央間の鹿児島ルート全線。両社で実証実験を行い、輸送ニーズやコストを検証します。

私鉄では西日本鉄道が挙げられます。といっても利用するのは高速バス。東京都の農業マーケティングベンチャーのアップクオリティとの協業で2020年9月、九州各地の特産品を福岡都市圏に運んで販売する貨客混載・産直販売事業に取り組みました。

新潟県の第三セクター・北越急行は2017年春から佐川急便の小口貨物を営業列車で運びます。鉄道の輸送区間はうらがわら~六日町間。 写真提供:北越急行

始まりは京都・嵯峨野にあり

国の物流政策に初めて貨客混載が登場したのは2016年度です。政策名は、「都市鉄道などの旅客鉄道を利用した新たな物流システム構築に係る設備の導入経費補助」。ラッシュ以外の空いている電車を利用したり、貸切電車を走らせて宅配便などを運び、交通渋滞を回避しつつ環境負荷を軽減します。

国交省の補助制度は、電車に荷物を載せる垂直式・階段式カート運搬機、けん引車、フォークリフト、荷物用車両といった設備投資費用の3分の1を助成します。電車の床面は地上1mちょっとの高さがあり、旅客用プラットホームを利用する場合以外は荷物を持ち上げなければならず、そのための物流機器の導入経費を国が支援します。

国交省の電車モーダルシフトは、突然生まれたわけでなく先例がありました。ヤマト運輸と京福電気鉄道が2011年5月から始めた「路面電車を活用した宅急便輸送」。ヤマトは、京都市中心部の集配基地から嵐山営業所までの宅急便輸送に嵐電の貸切電車を利用します。利用区間は西院車庫から嵐山駅または嵐電嵯峨駅まで。電車から降ろした宅急便は、届け先までのフィーダー輸送に電動アシスト付き自転車を活用、二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにします。

ヤマトは車両台数抑制、低公害な集配、走行距離短縮、モーダルシフト推進といった項目を掲げます。京福は古都・京都を走る鉄道事業者として環境負荷軽減に貢献しつつ、鉄道の利用促進も目指します。嵯峨野は、紅葉シーズンなどマイカーが大渋滞して身動きが取れなくなります。ヤマトと京福の共同輸送は、まさに〝ウインウイン〟の関係といえます。

JR東日本は生鮮品を輸送 将来の電子部品も視野に

JR東日本の「新幹線物流」イメージ。鉄道の両端部分も含め生産者から消費者への一環輸送を目指します。 画像:JR東日本発表資料から

事例で分かるように、貨客輸送は2つのパターンに分かれます。一つ目は東北・山形新幹線の西洋なし輸送に代表される新幹線や高速バスのスピードを付加価値化するもの。二つ目はヤマトと京福の宅急便輸送をはじめとする、物流効率化や環境負荷軽減を志向する共同輸配送です。人口の少ない地方圏でも、鉄道事業者と物流企業のニーズがマッチすれば成立の余地はありそうです。

コロナ禍で利用客減少が続く中、貨客混載に本腰を入れる姿勢を打ち出したのがJR東日本です。新幹線の車内販売商品を置くスペースを活用、北陸新幹線で長野県産の果実を長野駅から東京駅まで運ぶほか、東北新幹線などを使って宮城県産の梨を仙台駅から新函館北斗駅まで運ぶ計画もあります。将来は取り扱う貨物を地域特産品だけでなく、電子部品などに広げる構想です。

荷物台付きガソリンカー、国鉄には形式「ニ(荷物)」の合造車も

車端部に荷物台のある加悦鉄道のキハ101。本稿と関係ありませんが、車両を保存展示していた「加悦SL広場」は2020年3月で閉鎖。地元報道によると、キハ101はNPO団体が動態保存するとのことです。 イメージ写真:c6210 / PIXTA

まずは写真をご覧下さい。京都府日本海側の与謝野町を1926年から1985年まで走っていた加悦鉄道というローカル私鉄のガソリン動車のキハ101。1936年に自社発注したそうです。加悦はかえつでなく「かや」と読みます。写真は転車台に乗っているので見えませんが、車輪は片方が2軸(台車)、もう片方が貨車のような1軸の片ボギー車で、一方の車端に荷物台があります。ここに荷物を積んで運んだわけで、少々強引かもしれませんが私は貨客混載のルーツを見る思いがします。

話を続ければ、国鉄にはクハニ、クモハユニ、キハニ、キハユニ、オハニ、スハニなどの形式称号で呼ばれる半室旅客、半室荷物の合造車が多数ありました。今は現地印刷や航空便に取って代わられましたが、国鉄時代は新聞をブルートレインの荷物車や急行列車の合造車で運んでいました。列車は速くて時間に正確とあって、定時配達される新聞輸送にぴったりだったのです。

現在は貨物と荷物の境界線はあいまいですが国鉄時代、貨物の担当は貨物局、荷物は旅客局と明確に線引きされていました。国鉄の手小荷物輸送はJR発足期が宅配便の成長期に重なったため、新幹線で書類を運ぶ「レールゴーサービス」などを除き自然消滅しました。しかし、コロナ禍のニューノーマル時代に貨客混載として復活しつつあるのは、私には「時代は回る」と思えてしまうのです。

文:上里夏生

※2020年11月22日21時……「ラ・フランス」に関する記述を修正いたしました。(鉄道チャンネル編集部)