「もともと山梨県は、日本屈指の日照時間を誇る。だから太陽光発電の取り組みが早くから盛んで、太陽光発電の余剰電力や不安定な電力を効率的に利用する方法を早期からいろいろと検討してきた」

「そのなかで水素エネルギーに着目した研究開発もどこよりも早く始まった。これからも、『水素といえば山梨』といわれるよう、“やまなし水素・燃料電池バレー”をめざす」

トヨタの水素燃料電池車ミライがずらっと並んだ山梨県庁前で、山梨県 長崎幸太郎知事は力を込めてメディア陣にこう伝えた。

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ここ山梨は、水素・燃料電池技術が集積する国内最大の産官学連携FC(Fuel Cell)研究開発エリア。

リニア中央新幹線 甲府駅(仮)の南に、JRと山梨県ですすめる米倉山実証機

リニア中央新幹線 甲府駅(仮)予定地。左の建物が甲府技術支援センター。田んぼのまんなかあたりに駅ができるイメージ。JR中央線甲府駅はこの写真奥、12kmほど先にある。

そのなかでも注目すべきは、JR中央線 甲府駅の南。リニア中央新幹線 甲府駅(仮)のすぐ南にある米倉山。ここに太陽光とP2G(Power to Gas)の巨大な燃料電池研究開発エリアが広がっている。

標高300メートルほどの小高い丘の米倉山には、水素技術センター(水素供給利用技術協会)、電力貯蔵技術研究サイト、米倉山太陽光発電所(1万kW)、県営啓発施設 ゆめソーラー館やまなし などが集結。ここにいまJR東日本・JR鉄道総研が手がける「世界初」が動いている。

それは、超電導フライホイール蓄電システム。

この超電導フライホイール蓄電システムは、電気エネルギーをフライホイールの回転運動による物理的エネルギーに一時的に変換し、保存(貯蔵)。電気が必要なときに回転運動から発電して電気を取り出すシステム。

電力安定化のほかに、鉄道の回生エネルギー利用や、電気自動車の急速充電などにも活用できると期待されている。

山梨県とJR鉄道総研は、ここ米倉山に実証機を置き、2015年から太陽光発電との組み合わせによる系統連系試験を実施。2018年には、山梨県とJR東日本・JR鉄道総研が、鉄道での営業線で世界初の実証実験にむけて基本合意。鉄道用実証機の設置場所が、山梨県韮崎市の穴山変電所に決まった。

ここ山梨県 米倉山の超電導フライホイール蓄電システム実証機と鉄道応用については、JR鉄道総研(JR 公益財団法人 鉄道総合技術研究所)のレポート「超電導フライホイール蓄電システムの開発状況と鉄道利用」に詳しく発表されている↓↓↓
https://www.rtri.or.jp/sales/gijutu/2018/is5f1i0000008ab6-att/20181108P07.pdf

山梨県 米倉山に国内唯一の燃料電池研究開発施設が集結

JR東日本やJR鉄道総研が山梨県と手を組むのに先駆け、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)やトヨタなどの自動車メーカー、サプライヤーも山梨県の燃料電池開発ポテンシャルに注目している。

県内の燃料電池開発各施設のなかでも、ここ米倉山は東京電力やNEDO、自動車メーカー、大手流通といった業界が、「いち早く試す舞台」として駆けつける地。

たとえば、燃料電池車(FCV)用のガスステーションがリアルに再現された水素技術センターは、実環境下で水素ステーション技術・開発をすすめられる国内唯一の施設。

ここでは、水素関連製品の実環境下での性能試験、新規開発した充填制御の試験、FCV需要に応じた低コストガスステーション設備仕様の検討試験などが行われる。

「ここ水素技術センターでは、国内商用ステーションで不可能な国際基準の充填最高圧力87.5MPaを充填できる。車両だけではなく容器にも充填可能であるため、多様な容量容器に充填できる」

「また、ラボレベルでは実施不可能な実環境下での耐久性評価試験などができる。圧縮機の吐出量を任意・容易に変更可能で、需要に応じた水素ステーションの最適能力仕様の検討もできる」と話すのは、水素供給利用技術協会 池田哲史 理事。

また、この米倉山に設置してあるP2G(Power to Gas)システムでは、太陽光発電で得た不安定電力で、1500kWの水電解装置で水素を生産し、安定電力は利用・販売。ここで生まれた水素を貯蔵・輸送・利用・販売し、循環型水素エネルギー社会をめざす。そんなプランも実現にむけて走り出している。

世界最大・最高レベルの燃料電池材料研究拠点―――山梨大学

こんどは甲府駅から北へ1.5km、歩いて15分の山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センター(山梨県甲府市宮前町)へ。

ここ山梨大学は、40年以上にわたり燃料電池の研究が続く燃料電池プロジェクトの一大研究拠点。

山梨大学 燃料電池ナノ材料研究センターの飯山明裕センター長は、東京大学を卒業し、日産自動車で燃料電池やEVシステムの開発リーダを務めてきた人。

同センターでは現在、「高効率・高出力・高耐久 PEFC を実現する革新的材料の研究開発事業」「ラジカル低減機能と燃料欠乏耐性を有するアノード触媒の研究開発」「広温湿度作動 PEFC を実現する先端的材料コンセプトの創出」「高効率・高耐久・可逆作動 SOFC の研究開発」というNEDO採択事業に着手中。「4件とも2030~2040年に実装をめざす」という。

「山梨大学は、世界的にみても最大・最高レベルの燃料電池材料研究拠点。県内産業界の社会人技術者を対象にした養成講座(夜間)も山梨県から受託し展開。産官学で『やまなし燃料電池バレー』をめざした研究開発“FCyFINE”を前進させる」と飯山センター長。

山梨県担当者は、「山梨県と山梨大学は、水素実装に向けて県内企業の新規参入や人材育成にも力を入れ、『水素・燃料電池開発といえば山梨』というポジショニングをさらにいっそう強化させたい」とも伝えていた。

―――リニア中央新幹線がやってきて、東京と名古屋からぐんと近くなる山梨県。その開通を待ついま、自動車・鉄道といった移動分野をはじめ、電力や住宅といった分野のエンジニアが注目する山梨県のポテンシャルに、期待が寄せられている。


(米倉山にいるヤギ、ゆめちゃん)