多彩なメニューが並ぶ「JR貨物ブランドターミナル」 画像:JR貨物

JR貨物が企業イメージアップに取り組んでいます。目的は貨物鉄道事業の認知度向上。具体的取り組みでは、2020年10月に企業イメージサイト「JR貨物ブランドターミナル」を開設。ツイッターで情報発信するほか、YouTubeに公式チャンネルを開設して鉄道輸送のメリットなどを紹介します。

新サイトについて、JR貨物は「新型コロナで多くの鉄道イベントが中止になる中、家庭や職場で広く貨物鉄道に触れてもらう機会を作りたい」(真貝康一社長=10月13日の会見で)とします。ブランドサイトを紹介しつつ、鉄道貨物のあれこれに触れてみましょう。

全国1社で貨物を鉄道輸送

山形県遊佐町のJR羽越線を行くコンテナ列車。北海道と関西や中国、九州方面を結ぶ貨物列車は距離的に近い日本海側のルートを走行します。 イメージ写真:やえざくら/PIXTA

旅客6社と貨物1社で構成されるJRグループにあって、人目に触れる機会が最も少ないのがJR貨物です。われわれは特殊事情がない限り貨物列車に乗車することはありません。個人的な経験で思い出すのは、2000年8月に開業した高松貨物ターミナル駅(「四国桃太郎貨物駅」という愛称がついていることを今回、初めて知りました)の取材で滞在した四国の親族宅で貨物鉄道の話をしたら、JR貨物を誰も知りませんでした。

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JR貨物の認知度は今もイマイチ。「こういう状況はマズい」と、同社も思ったのでしょう。広報資料はブランドターミナルについて、「各種パンフレットやバーチャル背景(壁紙)などで、JR貨物の今を楽しく知っていただける内容を網羅しました」とアピールします。

今は生まれたてですから、これからの内容充実に期待しましょう。YouTube公式チャンネルに載っているのは、会社案内、子ども向け「貨物鉄道輸送ってなぁに?」、「モーダルシフト説明会」、社歌「春夏秋冬」、広島車両所での機関車検修ムービー「鉄の道。」をはじめ全部で20本足らず。登録者は1万3000人もいるのですから、今後は鉄道ファンが喜ぶ動画をアップすれば知名度向上の目標は十分に果たせるはずです。

JR貨物が新聞掲載した企業広告「鉄の道。」は、「第69回日経広告賞」(2020年)自動車・運輸・輸送部門で最優秀賞を受賞しました。 画像:JR貨物
子ども向けの「JR貨物まるごとガイドブック」はフォークリフトや主要機関車を紹介します。 画像:JR貨物

国鉄改革時には〝安楽死論〟も

1987年の国鉄改革で、国鉄は地域ごとの旅客6社と全国一本のJR貨物に分割民営化されました。高速道路網の整備が進んでいた当時、「JRは旅客だけで十分で、貨物はトラック輸送に任せるべき」という〝貨物鉄道安楽死論〟もあったのですが、国鉄当局は「鉄道は長距離輸送にメリットがあり、災害時の物流手段確保の観点からも存続させる必要がある」と主張して、JR貨物創設につなげました。

旅客が地域会社だったのに対し、貨物を全国一本にしたのは、北海道から首都圏への「イモタマ(ジャガイモとタマネギ)輸送」とか、東海地区から九州への自動車部品輸送など輸送エリアが広域に及ぶため。近距離はトラックで十分でも、最長で北海道発九州行きといった長距離貨物は鉄道が効率的で、環境負荷軽減につながります。JR貨物は一部区間を除き第二種鉄道事業者。JR旅客会社の線路を借りて、貨物列車を走らせます。

災害時の輸送手段確保では、2011年3月の東日本大震災で貨物列車が石油製品を被災地に届け、人々を勇気付けました。「がんばろう!東北」のラッピング機関車は、貨物鉄道の存在感を強く印象付けました。

シェア1%でも貨物列車は皆が知っている

JR貨物は企業イメージアップに向け主な機関車に愛称名を付けています。北海道の非電化区間で活躍するDF200形ディーゼル機関車の愛称は「エコパワーレッドベア」 イメージ写真:makorige / PIXTA

JR貨物の物流業界でのポジションはどの程度なのか、極力客観的にみましょう。2019年度輸送実績はコンテナ2076万t(前年度比2.4%増)、車扱877万t(2.0%減)で、合計2954万t(1.1%増)。国土交通省の2016年度データでは、日本の貨物輸送全体に占める鉄道のシェアは輸送量でわずか0.9%しかありませんが、輸送距離を考慮したトンキロベースでは5.1%に上昇します。かいつまんで言えば、短距離輸送に貨物鉄道の出番はほとんどなくても、長距離輸送には一定の需要があるわけです。

貨物鉄道関係者に怒られるかもしれませんが、JR貨物という会社は知らなくても貨物列車やコンテナ列車が走っていることを知らない人はいないでしょう(言い切る自信はありませんが……〈笑〉)。鉄道チャンネルの読者諸兄にはEF510とかDF200とか、JR貨物の機関車が好きという方もいらっしゃるでしょう。考えようによっては、たとえ1%のシェアでも、シェア90%のトラックより社会的に知られている。JR貨物もまんざら捨てたもんじゃない、かもですね。

売り上げは物流最大手の10分の1

JR貨物の決算は、2019年度の連結売上高1989億円、営業利益100億円。物流業界ビッグスリーは日本通運が売上高2兆803億円、営業利益592億円、ヤマトホールディングス(ヤマト運輸)が売上高1兆6301億円、営業利益447億円、SGホールディングス(佐川急便)が売上高1兆1734億円、営業利益754億円。利益はともかくJR貨物の売り上げは日通の10分の1以下で、それが現実なのです。

日通の名が出たところで、物流会社の社名に今も残る「通運」と貨物鉄道の関係をたどりましょう。通運は一言でいえば鉄道貨物の代理店。貨物は旅客と違って自分で動けないので、鉄道両端で荷主企業との間を橋渡しするフィーダー輸送が必要になります。それを受け持つのが通運。「通し運送する」を語源とする物流用語です。

通運の免許制度は20年ほど前に廃止され、現在は「利用運送事業者」と呼びますが、企業名としては○○利用運送事業より○○通運の方がしっくり来る。通運の社名は当分残るはずです。

営業形態も貨物は独特。一般に荷主企業への営業は利用運送事業者が担当し、JR貨物は利用運送事業者に代理店セールスします。高速道路網が発展していなかった国鉄時代、国鉄は輸送、通運は営業と役割分担していたのですが、最近はJR貨物が直接荷主セールスする事例も増えています。

かつては旅客も、きっぷを買うのは旅行会社、列車を走らせるのは国鉄と分かれていたのですが、最近は多くの人が駅で直接指定券を購入したりインターネットで申し込みます。貨物も旅客に近付きつつある、ということかもしれません。

輸送中の破損事故を防げ!

「コンテナ輸送品質向上キャンペーン」のパンフレットではコンテナホームの整備を取り上げました。 画像:JR貨物

最後にJR貨物が2020年11~12月に展開する、「コンテナ輸送品質向上キャンペーン」を取り上げましょう。本年度は2011年度のスタートから10年目。JR貨物とコンテナ荷役会社、利用運送事業者、荷主企業が荷役作業改善に一致協力して輸送中の貨物が損傷するトラブルをなくし、貨物鉄道への評価を高める趣旨です。

荷役作業や輸送中の荷痛みを防ぐにはどうするのか。要はコンテナ内の貨物の透き間に緩衝材を詰め込んで貨物が動かないようにすればいいわけです。コンテナホームの凹凸はフォークリフトの安定した積み降ろしの大敵ですから、作業が簡易な常温アスファルトによる路面補修にも力を入れます。

食卓に上る野菜とか、書店の雑誌・図書(特に北海道)をはじめ、鉄道輸送される貨物はわれわれの日常にあふれています。今度、貨物列車を見掛けたら、何をどこに運んでいるのか思いをはせてみましょう。

文:上里夏生