海老名駅で発車を待つ相鉄12000系電車。前方監視カメラや車内防犯カメラを採用、2019年にグッドデザイン賞を受賞しました。

横浜市西部や神奈川県央と東京都心を直結する「相鉄・JR直通線」が、2019年11月30日の開業から1周年を迎えました。相模鉄道とJR東海道線という2つの既設鉄道をつなぐ直通線は鉄道の利便性向上を促進する新しい法律の適用第1号で、今後の鉄道整備のモデルと位置付けられます。

折悪しく開業時期が新型コロナに重なったことで、利用客数は目標に届いていないようですが、品川駅から乗車して7駅目が海老名(武蔵小杉乗り換え、特急利用)というのは、相当なインパクトがあります。鉄道整備の意義と技術面のポイント、さらには利用促進の考え方をまとめました。

(掲載写真は武蔵小杉―海老名間を往復して撮影しました)

横浜駅での乗り換えが不要に

相鉄・JR直通線路線図 画像:相模鉄道

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まずは路線図をご覧下さい。相鉄・JR直通線は路線名通り2つの既設路線を短絡します。横浜駅が起点の相鉄は途中の二俣川で本線といずみ野線に分かれ、海老名と湘南台に至ります。沿線住民の多くは東京の会社や学校に通いますが、相鉄は横浜止まりで、JR、京急、東急のいずれかに乗り換えなければなりません。その点、相鉄が東京都心に直通すれば乗り継ぎは不要になります。

最近の鉄道新線や新ルートは、多くがこのタイプです。2008年開業の東京メトロ副都心線は西武池袋線、東武東上線、東急東横線、横浜高速鉄道みなとみらい線の4線をつなぎ、横浜中華街から埼玉の飯能や川越に乗り換えなしで行けるようになりました。会社が同じなので新線にカウントされませんが、JRの湘南新宿ラインや上野東京ラインも同じ考え方です。

JR線から相鉄・JR直通線が分岐する武蔵小杉駅ホームの案内には「横須賀線」「湘南新宿ライン(横須賀線方面)」「同(東海道線方面)」「相鉄線直通」の4方面が並びます。

整備主体はJRTT 事業名は「神奈川東部方面線」

相鉄・JR直通線が初めての適用例となった「都市鉄道等利便増進法」は、乗り換え解消などによる鉄道の利便性向上を国の政策として進めるための法令です。直通線の国や自治体レベルの事業名は「神奈川東部方面線」。2006年に国土交通大臣の認定を受けました。

整備主体は鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)。開業後はJRTTが施設を保有して鉄道事業者に貸し付け、使用料を徴収する事業スキームで、整備新幹線に類似します。事業費は国と自治体(神奈川県、横浜市)がそれぞれ3分の1を負担し、残り3分の1はJRTTが自ら調達します。

海老名発武蔵小杉、渋谷経由JR新宿行き

相鉄・JR直通線が相鉄本線に合流する西谷駅。直通線(右側)は駅直前で地下から地上に姿を現します。

神奈川東部方面線は西側(相鉄・JR直通線。相鉄西谷~JR東海道貨物線横浜羽沢付近約2.7km)と、東側(JR横浜羽沢付近―東急日吉約10.0km)に区分されます。相鉄西谷駅から分岐して地下に入り、新駅・羽沢横浜国大の先からJR東海道線に乗り入れます。東海道線といっても貨物線なので横浜駅は通りません。JR南武線や東急東横線と接続する武蔵小杉駅に続き、西大井、恵比寿、渋谷の各駅に停車し終点はJR新宿駅。JR線内は湘南新宿ラインと同じルートです。相鉄やJRは相鉄海老名~JR新宿間を相鉄・JR直通線と呼びます。

神奈川東部方面線はJR乗り入れに続き、羽沢横浜国大からJRに入らず新横浜経由で東急東横線日吉につながる新線も建設中です。名称は「相鉄・東急直通線」。2022年度下期に開業予定です。

武蔵小杉駅から次の羽沢横浜国大駅までは15分掛かります。

相鉄・JR直通線のダイヤは、運転本数1日46往復(92本)で、朝夕時間帯中心に特急(相鉄線内)を平日上下65本、土曜日・休日48本設定します。主な区間の最速所要時間は、二俣川~JR新宿間44分、大和~JR渋谷間45分、海老名~JR武蔵小杉間36分です。

「SENS」「角形エレメント推進工法」

せっかくの機会ですので、JRTT東京支社が神奈川東部方面線(相鉄・東急直通線)で採用している2つの新工法を取り上げましょう。

代表例がSENSで、羽沢横浜国大―新横浜(仮称)間の羽沢トンネルなどで施工します。SENSは、シールド工法(Shild)、場所打ちライニング工法(ELC)、ナトム(NATM)、システム(System)の頭文字を合わせた造語。切り羽(トンネルの掘削面)の安定性や施工の確実性、経済性といった特徴を持ち、東北新幹線八戸―新青森間の三本木原トンネルで初採用されました。

都市部でのSENS施工は、相鉄・JR直通線の西谷トンネルが初めて。相鉄・東急直通線の羽沢トンネルが2例目になります。新工法は2006年度と2012年度に土木学会の技術賞を受賞しています。

もう一つ、注目したいのが新綱島駅(仮称)で採用された角形エレメント推進工法。広い断面の駅部は開削工法での施工が一般的ですが、同駅は上部の一部にビルが建ち地上からの掘削が困難です。そこで油圧ジャッキで角形エレメント(鋼管)を押し込み、それをトンネル外壁とする工法を考案しました。

少々専門的かもしれませんが、営業運転開始時に通り過ぎてしまうトンネルにも、鉄道技術者の創意工夫があることを知っていただければと、あえて披露してみました。

利用客数は目標に届かず

羽沢横浜国大駅コンコース。JRTTの施工で整備新幹線駅と同等の優れたデザインですが、昼間の列車は30分に1本で、ネットには「現代の秘境駅」の書き込みも。駅周辺の開発が待たれます。

相鉄・JR直通線の利用状況ですが、相鉄ホールディングス(HD)の2020年3月期決算説明資料によると、1日当たり利用客は2万5000人で、開業前に想定した5万6000人の半分以下にとどまっています。

もちろんコロナの影響はあるわけですが、私としては相鉄沿線から東京都心方向だけでなく、東京から相鉄沿線への利用客を増やすのが利用促進のカギと思えます。相鉄関係者に怒られるでしょうが、東京都民の多くは相鉄は知っていても沿線に何があるのか知らない人がほとんどでしょう。インターネットで「相鉄沿線スポット」と検索すると、「よこはま動物園ズーラシア」「陣ヶ下渓谷公園」をはじめ、あれこれヒットします。沿線と協力してレジャー客や買い物客を呼び込めば、鉄道の利用増につながるはずです。

レコードプロジェクトとフォトウエディング

最後は相鉄・JR直通線開業1周年を記念した相鉄グループのプロジェクト2題。相鉄HDの「相鉄レコードプロジェクト」は相鉄沿線の好きなところをツイッターで募集し、情報を基にSNSで人気のシンガーソングライターのましのみさんが沿線26駅のオリジナルソングを作ります。2021年2月、沿線風景を背景にしたオリジナル曲がYouTube公式サイトで公開予定です。

「あなただけのSOTETSUフォトウエディング」は、相鉄と相鉄ホテルの共同企画。新駅の羽沢横浜国大駅を撮影スポットとして提供し、人生の新しい門出を記念する記念の1枚を撮影してもらいます。2組限定(応募多数の場合は抽選)で、2020年12月30日まで応募を受け付けます。

文/写真:上里夏生