初めての国際ワークショップ

オンラインで研究室から発表する綱島教授。日本鉄道賞の選考委員を務めるなど、日本を代表する鉄道有識者の1人です。

鉄道工学リサーチ・センターは、年1~2回のペースで研究報告会やシンポジウムを開催してきましたが、今回は初めての国際ワークショップを主催。日本側4人、台湾側3人の研究者が成果報告しました。日台2人ずつの発表内容を紹介します。

リサーチ・センター長を務める日大生産工学部の綱島均教授が、ライフワークの形で取り組むのがモニタリング、業界用語では状態(常態)監視です。鉄道は専門の検測車で線路状態をチェックするのが一般的な手法ですが、もっと簡易に、日常的に監視できないかと考えたのが研究のきっかけ。営業列車にセンサーを取り付け、車両の揺れや走行音を収集します。振動や異音から、線路や車両トラブルの兆候を見付け出します。

モニタリングによるデータ収集イメージ。センサーは車体のほか、台車と車輪の軸受けに取り付けます。

綱島教授は、人間の健康管理に例えて「検測車による検査を人間ドックとすれば、状態監視は血圧計や体重計による日常的な健康管理」と説明します。研究当初、人手確保が難しい地方・中小鉄道への普及を見込みましたが、実際には有効性を認めた多くの鉄道事業者が採用。新鋭車両でいえば、JR山手線のE235系電車や東海道新幹線のN700Sも状態監視を採用しています。

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「地方鉄道の状態監視」と題した発表で、綱島教授はデータの収集・解析方法を説明。地方鉄道向けにはリサーチ・センターがモニタリング・センターとなって収集データを軌道管理会社(保線会社)に提供するとともに、業界全体でデータベース化して安全性向上につなげる構想を披露しました。

〝運転席ビデオ〟で安全を守る

廖台湾国立大教授のビデオ軌道監視システムのイメージ。画像は日本の愛知高速交通の磁気浮上式新交通システム・Linimoです。

前章に書き忘れましたが、台湾との国際ワークショップのテーマは「鉄道ビッグデータの活用」で、国立台湾大の廖慶隆教授は「ビデオによる軌道状態監視」を報告しました。鉄道ファンも興味を持つ〝先頭車ビデオ〟で軌道の異常を発見する手法で、営業列車の運転席から前方の線路を撮影します。図のようにメッシュで画像解析して、線路の変状をチェックする仕組みです。

特徴は画像分析が短時間で済む点。廖教授によると、3時間以内でのデータ解析が可能だそうです。一般の鉄道以外への応用も可能で、ワークショップでは新交通システムの事例を紹介しました。さらに、カメラ4台の映像を重ね合わせて軌道の変状を発見する手法も披露しました。

両教授の報告は、綱島教授はセンサー、廖教授はビデオ画像とアプローチの方法は異なりますが、軌道の異常を間接的に発見する考え方が共通します。お2人の手法を組み合わせれば、相乗効果も期待できるはずで、高い精度でトラブルの芽を摘み取って安全性向上を図る。日台双方の報告に、大きな可能性を感じました。

台湾からの中継。大学の会議室と思われる会場で参加者が日本からの発表を聴講します。