日本の鉄道システムを海外へ 半世紀を超す歴史持つJARTSの役割は? 編著書が「交通図書賞」受賞
鉄道系ニュースサイトでは、海外技術展開の話題が飛び交います。日本からの技術輸出の原動力はもちろんメーカーや鉄道事業者ですが、もう一つ、メーカーや事業者を海外に紹介したり、外国の要人を招へいする専門機関も重要な役割を果たします。
その中から、東京に本部を置く「海外鉄道技術協力協会(JARTS=JApan Railway Technical Service)」を取り上げます。設立は1965年で、2021年9月で56周年。「日本の鉄道システムの海外普及に資するとともに、国際協力に貢献する」を旗印に掲げるJARTSは、技術輸出の先導役を務めます。折しも編著書の「これからの海外都市鉄道ー計画、建設。運営ー」が、46回目の「交通図書賞」受賞というトピックスがあったばかり。本稿前半はJARTSの歩みと機能、後半は鉄道を深く知るのに好適な編著書を紹介します。
創設は前回の東京オリンピック翌年
JARTS発足の1965年は、鉄道の世界では国鉄が指定席券窓口の「みどりの窓口」を開設した年として知られますが、それよりインパクトがあったのは、前回の東京オリンピック・パラリンピックが開かれた1964年に開業した東海道新幹線。世界のアスリートの活躍とともに、各国で放映された世界初の本格的な高速鉄道は、日本の鉄道技術の高さを強烈に印象付け、文字通りのレガシー(伝説)になりました。
オリンピック後、当時の国鉄には多くの技術支援の案件が寄せられましたが、〝官の立場〟だった国鉄が技術協力するには制約がありました。そこで、国鉄だけでなく民間の力も活用して海外展開するための推進機関として、JARTSが設立されることになりました。
「制約がありました」と聞いても、やれ駅ビル、やれホテルと、鉄道事業者の関連事業花盛りの現代からは想像しにくいかもしれません。機会があれば紹介しますが、例えば当時の駅ビルは国鉄の資本が入らない純民間企業で、ベテラン鉄道ファンの皆さんは「民衆駅」の呼び名をお聞きになったことがあるかもしれません。JARTSも、考え方の基本には似た点があります。
JICと機能分け合う
国鉄、JRを通じた約半世紀、JARTSは海外鉄道案件で日本の鉄道技術のプロモーションやコンサルタントを手掛けてきました。この間に手掛けたプロジェクトはざっと400件余り。主な件名にはザイール(現コンゴ民主共和国)・マタディ橋、台湾高速鉄道(台湾新幹線)、トルコ・ボスポラス海峡トンネルなどが並びます。
最近も米国でセミナーを開催するほか、インドなどの政府・鉄道関係者を日本に招請。コロナ禍で若干不透明な部分はありますが、インドの高速鉄道を日本が受注できたのはJARTSの力も見逃せません。
近年の大きな変化では、2012年の日本コンサルタンツ(JIC)へのコンサルタント・エンジニアリング業務の事業譲渡が挙げられます。JR東日本、JR西日本、東京メトロなどが出資して2011年に設立されたJICは、日本の弱点とされた交通(鉄道)専門のコンサルタント企業。海外案件が数多く浮上する中で実務はJIC、啓発活動やセミナー、人材育成といった基本部分はJARTSと役割を分け合うことで、競争力を高めました。