千葉県の銚子市を走る全長6.4kmのローカル鉄道、銚子電鉄。

鉄路を存続させるためお菓子や映画を作るなど、普通の鉄道会社とはちょっと毛色の異なるやり方で生き延びてきた名物鉄道会社です。帝国データバンク上では「鉄道会社」ではなく「米菓製造業」で登録されていることでも知られており、あまり鉄道に詳しくない方でもその破天荒な事業の数々を目にしたことはあるかもしれません。

そんな同社のエピソードがたっぷり詰まった新書が刊行されました。書名は『廃線寸前!銚子電鉄』――交通新聞社新書4月刊、著者は銚電の仕掛人こと寺井広樹さん。幾度も倒産の危機に遭いながら、そのたびに不屈の意志と地元住民や銚電ファンらの手助けによって生き延びてきた「まずい」通史から、「ぬれ煎餅」といったヒット商品開発の裏話などが綴られています。

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いつもの銚子電鉄のノリで。

著者の寺井さんがもともとそういう方だったのか、それとも銚子電鉄の社風に染まったのかは分かりませんが、遠慮のない筆致がいかにも銚電らしい。たとえば本書では同社の車両紹介が7ページほどのコラムにまとめられていますが……

「冷房を搭載しているものの、使用するのは銚子駅と外川駅での折り返し停車中のみ。なぜなら、銚子電鉄の変電所の出力が低いので、2列車が走行すると容量オーバーで使用不能となるため。広大な海の色のはずが、電力節約に励む悲しい涙色の車両」(p33、3000形の説明)

こんな紹介文でOK出るの銚子電鉄だけでしょ、という赤裸々な書きっぷり。良く見せようとか世間体を気にしようという気持ちが微塵も感じられません。他にも「役員報酬は月収ぬれ煎餅30枚説」など愉快な話がポンポン飛び出してくる。読みながら、以前銚子電鉄を取材した際に取締役本人の口から直接「役員報酬は貰っていません」という話を伺ったのを思い出しました。真偽は不明ですが、他の鉄道会社への取材ではまず耳にすることのない発言です。

一番面白かったのは「まずい棒」の誕生秘話。某社の国民的スナック菓子にヒントを得て生まれた銚子電鉄のヒット商品ですが、普通に考えてY社から許可が下りるはずもない。それをどうやって説得したのか? 本書にはその顛末が綴られているのですが、あまりの力業に思わずふふっと唇が緩んでしまいました。

鉄道を動かすお金がないから煎餅やお菓子を作ったり、「線路の石」(バラスト)を缶詰にして売り出してみたり、クラウドファンディングで資金を募って映画を作ってみたり、社長自らYoutuberになったり、UFOを呼んでみたり……タブーを無視してなんにでも意欲的に挑戦する銚子電鉄は、お金がないことを除けば楽しい会社なんじゃないかなという気もするのです。

本書『廃線寸前!銚子電鉄』は、そのような「日本一のエンタメ鉄道」を目指す銚子電鉄の実態が良く分かる一冊でした。

文/写真:一橋正浩

【書誌情報】
タイトル:廃線寸前!銚子電鉄
発売日:2021年4月15日
著者:寺井広樹
価格:990円(税込)
発行:交通新聞社

【参考】銚子電鉄の謎の魅力を満喫!「鯛パニック号」編その1~花鯛御膳~
https://tetsudo-ch.com/6570700.html