邑南町で地方版MaaS(JR西日本)

「スマートモビリティチャレンジシンポジウムin関西」では、東京大学生産技術研究所の須田義大教授(左)がモデレーターを務め、JR西日本デジタルソリューション本部の神田戦略企画室長(右)と大阪商工会議所の松本敬介産業部部長(中央)がMaaSの可能性を語りあいました

後段は、島根県内に路線を持つJR西日本の地域振興策。JR西日本米子支社は県中央部の邑南町(おおなんちょう)で、地方版MaaSの可能性をさぐります。

今回、地方版MaaSに注目したきっかけは、高速バスと旅行業のWILLERが2022年2月7、8日にオンライン開催したセミナー「MaaS Meeting 2022」。2日目には、セミナーの一環として近畿運輸局などが主催する「スマートモビリティチャレンジシンポジウムin関西」が開かれました。

トークセッションの「異業種・同業他社の垣根を越えた連携」には、JR西日本デジタルソリューション本部の神田隆戦略企画室長がパネリストとして登壇。JR西日本は「都市型」「観光型」「地方型」の3方向からMaaSの可能性を見極めます。

地方版MaaSの先陣をきったのが人口1万人の邑南町。JR西日本と邑南町は2020年3月に連携協定を結び、2023年3月までの3年間、MaaSを活用した「地域公共交通の利便性向上」や「持続的地域活性化」に取り組みます。

JRと邑南町のMaaS連携メニュー。地域住民に移動の機会を提供するとともに、エリア外との交流を活発化して地域活性化をめざします(資料:JR西日本)

鉄道が廃止された町でオンデマンドの配車システム

意外に思われる方もいらっしゃるでしょうが、邑南町に鉄道路線はありません。2018年3月末まで江津(島根県)―三次(広島県)間のJR三江線が走っていたのですが、現在は廃止。鉄道利用には35キロほど離れた山陰線江津駅への移動が必要で、その点でもMaaSは地域の死活にかかわる問題です。

鉄道廃止後、しばらくの間は代替バスが運行されましたが、現在は地域のNPO法人が手がける有償旅客運送に移行。住民のリクエストで運行ルートを決めるオンデマンド方式で、電話やスマートフォンでクルマを呼びだします。配車システムは、徳島市の専門企業・電脳交通が提供。支払いはクレジットカードなどのキャッシュレス化で、マイカーを持たない住民も、日々の買い物や病院への通院に不便を感じないように配慮します。

京都鉄博で邑南町フェア

JR西日本は、邑南町の観光交流人口拡大にも力を発揮します。2021年3月に京都鉄道博物館で開催したのが「島根県邑南町フェア@京都梅小路ハイライン」。2016年に廃止になった梅小路短絡線の線路跡を再活用したイベントスペース「ハイライン」で邑南町の魅力を紹介しました。来場者の89%は、「実際に邑南町を訪れてみたい」と回答しました。

ラストはJR西日本の島根観光振興策。JR西日本山陰営業部が事務局を務める、山陰観光連盟は2022年3月31日まで、SNSを活用した「JRで行く『ノスタルジック山陰』キャンペーン」を展開中です。連盟がインスタグラム公式アカウント、ツイッター公式アカウントを開設し、それぞれプレゼントが当たる企画を実施します。観光連盟ホームページからJR券を予約した人に、レンタカー割引券を進呈するなど特典も満載です。

記事:上里夏生