運転士がボタンを押せば電車は駅を出発し、滑らかに次の駅へと進んでいく

JR東日本は山手線(34.5キロ)全線で、E235系(2編成)の営業列車を使用し、自動運転を目指した実証運転を行う。試験日程は2022年10月から2か月程度。

山手線の営業列車で自動運転の試験を実施するのは今回が初めて。加速・惰行・減速などの自動運転に必要な運転機能、乗り心地、省エネ性能などの確認や知見の蓄積を行うという。

運転士は通常の列車と同様に乗務し、必要な機器操作などを行う。JR東日本によれば、山手線では今後ATO導入に向けて車両改造などの準備を進め、2028年頃までの導入を目指すとともに、将来のドライバレス運転の実現を目指した開発を進めていくとする。

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山手線での自動運転はどのようなものになるか。過去の取材(2022年2月)の様子を記しておきたい。

停止位置の誤差許容範囲は「±35センチ」

2月に実施された試験では、駅に着するたびに「2分7秒、2分7秒。マイナス3センチ、マイナス3センチ」といった放送が流れていた。JR山手線のホームドアが要求する運転精度は±35センチまで。正確な位置で止まれなければ乗客の乗り降りに支障をきたす。

実際には停止位置のズレは数センチ程度に収まる場合がほとんどで、たまに10センチ以上ズレることがある、といった程度だった。許容範囲から外れるほど大きなズレは一つもなく、そのまま営業投入しても差し支えないように思われた。

10月からの試験でそうした案内放送が行われるかどうかはともかくとして、もし乗車されるようなことがあれば、停止位置が普段とどの程度違うのか、また全く変わらないのか、このあたりも注目ポイントになるだろう。

ベテランの技や省エネ運転も再現

自動運転のランカーブをモニタで説明

ATOの開発には現場の運転士も参加しており、自動運転技術のブラッシュアップに協力する。2月に行われた自動運転試験では、普段の山手線と遜色ないレベルの精度を達成しているように感じられた。

乗り心地だけでなく、省エネ運転にもベテランの技が関わる。通常よりも最高速を落とし、惰行の時間を長く・減速時間を短くすることで消費電力の削減を図る。

同社が2021年9月に発表した「運転エネルギー削減に向けて、山手線で省エネ運転の研究に取り組んでいます」というリリースにも、そうした運転士の走行データを収集・分析してフィードバックすることで省エネを実現する術が語られており、これを自動運転にも応用する。

運転曲線比較(画像:JR東日本)
JR山手線における省エネ運転の取組フロー(画像:JR東日本)

営業列車ではこれまでの試験とは比べ物にならない数の乗客が乗り込むことになる。乗客が増えればブレーキ制御などにも微調整が必要になりそうなもので、果たして自動運転が対応できるのかといった不安もあるかもしれない。

しかし昨今の車両は「どのくらいのお客様が乗車しているのか」把握できるようになっており、その情報をVVVFインバータやブレーキ制御装置に送り応荷重制御を行っているため、そうした問題もクリアできそうだ。10月の試験開始を楽しみに待ちたい。