「編集者や読者のエールに背中押される」

写真を撮って文章を書く。フォトライターの矢野さんが、はじめて書籍を出版したのは2000年です。「当時、鉄道系ライターはほぼ全員が男性」。いわゆる〝女子鉄〟の草分けとして、汽車旅の楽しさや魅力を発信し続けてきました。

女子鉄の原点は、北海道在住だった小学生時代。はじめて1人で滝川(函館線)に旅行した際、国鉄職員や列車の乗客が皆さん親切で、鉄道に引き込まれたと言います。

撮り鉄として鉄道写真を撮影する方は多いですが、お気に入りのカットに文を添えれば、写真と文がお互いを引き立てます。そして、何より発表の機会が生まれます。

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「書き手として煮詰まることも多いですがそんな時、背中を押してくれるのは編集者や読者の一言。『あの写真はステキ』『あの一冊は良かった』と言われると、新たなファイトがわきます」。エールは「いいね」。書き鉄なら、誰もが共感できる点でしょう。

レイルウェイ・ライター種村直樹さんの蔵書、津鉄によみがえる

話が後先になりましたが、フォーラム2022ではトークセッションに先立ち、〝津鉄のお母さん〟こと、津軽鉄道(津鉄)の澁谷房子社長付顧問(交通環境整備ネットワーク理事を兼任)の基調報告もありました。タイトルは「種村直樹汽車旅文庫の開設」。

本サイトをご覧の皆さん、種村直樹さんをご存じの方も多いでしょう。毎日新聞記者から1973年、鉄道専門のレイルウェイ・ライターに転身。「気まぐれ列車で出発進行」、「鈍行列車の旅」をはじめ一時代前、〝鉄道ファンのバイブル〟と呼ばれた多くの名著を世に送り出しました。

汽車旅文庫には書斎も再現

津軽飯詰駅の汽車旅文庫。駅舎内には飯詰駅博物館があり、往年の車両や行き先表示板などの資料を公開します(写真:津軽鉄道)

種村さんは2014年に78歳で亡くなりましたが、約3200冊の愛蔵書や遺品は交通環境整備ネットワークが仲介して津鉄に寄贈されることになり2021年11月、津軽飯詰駅に「種村直樹汽車旅文庫」が開設されました。

文庫は、地域住民グループ「飯詰を元気にする会」が運営します。開設は毎月1回。興味を持った方は、ぜひ飯詰を元気にする会のホームページでチェックしてみてください。

余談ですが、種村さんの2人のお子さんは「ひかりさん」と「こだまさん」。フォーラムにはひかりさんが出席して、津鉄の澁谷さんとともに津軽来訪を呼び掛けました。

夏目漱石や二葉亭四迷が鉄道文学の扉開く

ラストは、限られたスペースですが、セッションのコーディネーターも務めた茶木さんの基調講演を紹介します。

講演では、鉄道文学の誕生と歩みをたどりました。明治時代に鉄道網が全国に伸びて旅行が一般化するのに連動して、鉄道紀行が文芸としてのジャンルを確立。明治の文豪といわれる夏目漱石や二葉亭四迷が、鉄道文学の先駆者だったことを解き明かしました。

地域鉄道フォーラム2022のご報告は以上。「鉄道を書く」末端に位置する私も、パネリストの皆さんの話は「ライターあるある」、共感がすべてでした。

読者の皆さまがいらっしゃってはじめて成立するのが、本サイトをはじめとする鉄道系ネットメディア。今後もご愛読、よろしくお願いします。

地域鉄道フォーラムに先立つ交通環境整備ネットワークの定時総会であいさつする原潔代表理事(右)。ネットワークは、自分で撮影した写真に自作の詩を添える「鉄道写真詩コンテスト2022」の作品を募集します。「あなたも書き鉄に!」。気になる方はホームページをチェックしてください

記事:上里夏生