西九州新幹線に投入されるN700S「かもめ」車両

2022年6月、都内で開かれた「西九州観光まちづくりAWARD」創設の記者会見でこんな場面がありました。

長崎県と中継をつなぎ、スクリーンに老舗旅館「伊勢屋」の女将が登場。2022年9月23日の西九州新幹線開業を控え、新幹線に関するお問い合わせも増えてきた、と現地の期待感を語りました。

「伊勢屋」があるのは長崎県雲仙市(島原半島西部)の小浜温泉。旅館のホームページを見ると、バスや車でのアクセス方法が紹介されています。温泉街に直通する鉄道はないようで、諫早駅でバスに乗り換えて1時間ほどで到着します(バス乗車時間は約50分、長崎方面からのバスもあり)。

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西九州新幹線諫早駅は西九州新幹線の終点・長崎駅の一つ手前の駅で、速達タイプ・各停タイプ問わず全列車が停車します。駅名にもなっている武雄温泉や嬉野温泉のような「沿線」とは異なりますが、新幹線の開業効果は島原半島にも波及するものと期待されます。

かつては小浜へ向かう鉄道があった

島原半島といえば、半島の北側を東西に結ぶ島原鉄道が有名です。かつては島原港駅から先、半島南西部の加津佐駅まで路線が伸びていましたが、この区間は2008年に廃止されたため、現在は諫早~島原港駅間 43.2キロのローカル線となっています。

では島原半島の西側には? 先ほどは温泉街に直通する鉄道はないと書きましたが、実は大正末期から昭和初期にかけて、島原鉄道愛野駅(旧:愛野村駅)から南下し小浜を目指した鉄道が存在しました。ご存知の方も多いでしょう。小浜鉄道・温泉鉄道(経営末期に雲仙鉄道)です。

歴史を紐解けば1923(大正12)年、温泉軽便鉄道(温泉の読みは「うんぜん」)が愛野村~千々石間を開業。4年後の1927(昭和2)年に小浜地方鉄道が千々石~肥前小浜を開業し(※)、ほどなく島原鉄道を含めた3社の直通運転が行われるようになりました。

※社名は開業後にそれぞれ「温泉鉄道」「小浜鉄道」へ変更、のちに合併して雲仙鉄道へ。

当初は小浜の温泉街を目指していたとされていますが、資金不足により温泉街から2キロほど離れた肥前小浜駅が終点に。延伸の夢は果たされず、雲仙鉄道は1938(昭和13)年に廃止されました。

最初の愛野村~千々石間開業から数えても15年、短命に終わった鉄道の廃線跡は今なお雲仙市の各所に残ります。小浜の温泉街を訪れた際は、少しだけ足を伸ばして駅跡などを訪ねてみるのも面白いかもしれません。

地元高校生らが「車内放送」を模した動画を制作

本稿の締めに、この小浜鉄道・温泉鉄道(雲仙鉄道)に関する最近の地元の動きとして、長崎県立西陵高等学校の生徒らによるプロジェクトを紹介します。

生徒らは雲仙市教育委員会や地元の方の協力を得て、かつて存在した同鉄道を調査。当時の資料や今も残る線路跡を取材し、車内放送の体で紹介動画を制作、インターネット上に公開しました。

当時の車両に放送設備があったかどうかは定かではありませんが、現地の映像や今も残る資料を活用した動画は、一風変わった沿線紹介動画として仕上がっています。幻に終わった「小浜湯町」の案内もあり、「もし延伸を果たしていたら島原の鉄道はどうなっていたか」といったif考察も捗ります。

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