新金谷を発車したSL列車。トラストトレインのスハフ43はC10に続く2両目です

「鉄道の日」の2023年10月14日、静岡県の大井川鐵道(大鐵)で「親子ボランティア2023」が開かれ、参加者がSLの運転台で機関車の仕組みを学びました。主催は日本ナショナルトラスト(JNT)。東京に本部を置く公益財団法人で、歴史文化遺産としてSLや客車を所有、会員や市民ボランティア、大鐵の力で車両保存に取り組みます。

その大鐵は、2022年9月の台風15号で大規模に被災。大井川本線は現在も部分運休が続きます。「SL列車や人気の『きかんしゃトーマス』は、再び本線全線を走る日が来るのか」と気がかりなファンもいらっしゃるはず。名物広報マンとして知られる、山本豊福経営企画室次長(広報担当)に話を聞き、大鐵の針路を展望します。

SLと客車3両を保有

JNTは、社会貢献に取り組むようになった当時の国鉄が中心になって1968年に設立されました。貴重な鉄道車両を保存するのがトラストトレイン。1985年にSL(C12 164)と客車3両(スハフ432両、オハニ361両)の取得を決定。客車は、四国の多度津工場から大鐵に運ばれました。

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JNT会員や市民ボランティアによる車両保存活動は、30年を超す歴史を持ちます。コロナ禍を挟んだ4年ぶりの親子ボランティアでは、大鐵社員が先生を務める〝SL教室〟が開かれました。

先生役を務めた大鐵の坂下裕之鉄道部課長(右)にお礼の寄せ書きをプレゼント

SLの三大栄養素!? 石炭、水、砂

SL教室ではSLの仕組みなどを学びます。

たとえば運転台に見るSLと電車の違い。SLを減速・停止させる蒸気ブレーキは電車と同じレバー式ですが、違うのは出発や加速時。電車はマスコン(マスターコントローラー)のハンドルで加速しますが、SLは加減弁ハンドルという長いレバーを動かしシリンダー(ピストン)に蒸気を送り込んでスピードを上げます。

走行に必要なのが、石炭と水(蒸気)、そして「砂」。線路にまいて滑りを止めます。教室では、砂まきの実演もありました。石炭も特殊。SLの燃料は石炭の粉を油で固めた「ピッチ練炭」です。燃焼効率に優れ、煙が少ない優れものです。

ブルーに白2本ラインの特急用客車

トラストトレインの客車の2両はスハフ43。国鉄が1951年から製造した、戦後を代表するスハ43系の一形式ですが、特急用で座席は一方向を向いていました。

スハフ43の車内。特急時代の一方向席は撤去され、一般客車と同じボックスシートが並びます。狭窓が特徴です

大鐵の車両は国鉄時代、一般的なボックスシートに改造されましたが、外装はブルーを基調に白の2本ライン。ブルートレイン(20系客車)登場前、東京―大阪間の臨時・不定期「さくら」や、東北ラインの「はつかり」として、鉄道界に新風を吹きみました。

合掌造りの保存も

親子ボランティアに参加したのは、鉄道好きファミリー。JNTの会員メールや大鐵のチラシのほか、本サイトでイベントを知り申し込んで下さった方もあったそうです。

静岡市からやってきた小学5年生の子に話を聞いてみました。夏休みには、あこがれの「サンライズ瀬戸」で高松から東京へ。そして今回は大鐵のSL。一生の思い出になるでしょう。

参加者はSL教室の後、千頭側にSL(C10 8)、新金谷側にEL(元西武鉄道のE34電気機関車)を連ねたプッシュプル運転で、新金谷―川根温泉笹間渡間を往復。案内放送にも挑戦しました。

JNTは鉄道だけでなく、岐阜県白川村の合掌造り民家、京都市左京区の駒井家住宅などの保存に取り組みます。鉄道・歴史好きの方、ボランティア活動に興味のある方、ぜひホームページをチェックしてみて下さい。

C10をバックに全員で記念撮影。グリーンのベストを着るのがJNTのボランティアスタッフです