これはすごい! ほかの臓器を侵さず、患者の負担も少なく、ピンポイントでがん細胞をアタックする、最新で画期的な前立腺がん治療があったなんて!

そう感じたのは、東海大学医学部付属病院 腎臓泌尿器科 小路直 准教授が登壇したセミナーに行ったとき。

実は父親も前立腺がんを患っている身として、「60歳以上の男性の2人に1人が患う」といわれる前立腺がん治療最前線の話題には、衝撃とワクワクで興奮した。

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セミナー名は、「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」。

最新の前立腺がん治療法(先進医療B認定)について、いろいろ学べるってことで、さっそく東海大学 品川キャンパスに行ってみた。

従来の切除手術や放射線は、尿失禁や勃起不全も

前立腺は、男性の尿道を取り囲むようにして膀胱の下部に位置するクルミ状の臓器。

前立腺がんは早期に発見・治療すれば治癒が可能ですが、一般的な診断・手術法には課題があるといわれている。

一般的な前立腺がんの標準治療は、身体にメスを入れてがんを外科的切除する腹腔鏡手術やロボット支援下手術(入院7~10日間)や、放射線治療(入院20~40日間)などがあげられる。

こうした従来の治療法では、前立腺全体を対象にして施術することから、治療後、尿失禁などの排尿機能や、勃起不全などの性機能が損なわれることがあり、手術後の QOL(Quality of life/クオリティ オブ ライフ)低下が懸念されていた。

東海大学の高密度焦点式超音波療法は超ピンポイント

そしてここからの東海大学 小路直 准教授の教えてくれた内容が、衝撃&ワクワク。

東海大学だけが持っているこの治療法「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」は、前立腺全体ではなく、がんに侵された部分だけをピンポイントに、超音波でアタックするという点で期待されている、先進医療B認定の治療法。

(図:東海大学)

高密度焦点式超音波療法(HIFU:high intensity focused ultrasound/ハイフ)による治療デモンストレーションを、小路直 准教授がみせてくれた。

高密度焦点式超音波が出るスティック状の治療機器を、肛門に入れて、あらかじめ設定しておいた位置情報や各種データなどをもとに、前立腺がん部分だけをピンポイントに超音波でアタックし、細胞を破壊していく。

超音波照射22分、治療時間55分! ほとんどが2泊3日

しかも、東海大学 高密度焦点式超音波療法 による治療例のなかには、高密度焦点式超音波照射時間22分、治療時間55分という、短時間で処置ができたケースもあり、身体にメスを入れない低侵襲のため、入院期間はほとんどが2泊3日。患者の負担も少ないことも、うれしい。

また、54か月間の経過観察データのなかには、施術後のPSA(前立腺特異抗原)値が1ポイント前半台でずっと推移し安定、しかも術後の尿失禁や勃起温存もあったという。

厚生労働省の「先進医療B」に認定

ここまで聞いて、いろいろワクワクするし、これからの技術進歩にも期待したいところだけど、「でも、お高いんじゃないの先進医療って」と思うはず。

そこで注目は、東海大学がことし2月1日に発信した情報だ。

「東海大学医学部付属病院では、医学部医学科外科学系 准教授の小路直(腎泌尿器科)を実施責任医師とする『高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法』が厚生労働省の『先進医療B』に認定され、2023年1月31日に同省の官報にて公布、2023年2月1日から適用されました。

先進医療とは、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」とされています。

先進医療に要する費用は、患者さんが全額自己負担することになり、それ以外の通常の治療と共通する部分(診察・検査・投薬・入院料等)の費用は、一般の保険診療と同様に扱われます。

先進医療は「A」と「B」に分けられ、「A」は未承認、適応外の医薬品、医療機器の使用を伴わないもので、「B」は適応外の医薬品、医療機器の使用を伴う医療技術です」(東海大学)

小路直 准教授「治療法の健康保健適用に向けて大きな前進」

―――小路直 准教授もこの先進医療Bに認定に、こう期待を寄せる。

「この診断法は2013年、治療法は2016年にそれぞれ臨床研究として東海大学医学部付属八王子病院で開始しました。

診断法は2022年4月に保険収載(健康保健適用)されており、今回の認定は治療法についても保険収載に向けての大きな前進となります。

この認定により、本治療が科学的根拠を持った方法として臨床研究としての実施が認められるとともに、治療の選択肢が増える可能性を期待させます。

診察費や入院費といった本治療に係る以外の費用は健康保険の対象となるため、患者さんの経済的な負担も軽減されます。

本治療が適用できる患者さんの多くは、排尿の問題を気にせずに社会で活躍できるようになると期待されます。

高齢化が進み、前立腺がんの患者さんが増える中、医師として、より多くの方の豊かな“人生100年”をサポートしたいと考えています」(小路直 准教授)

1例あたりのコストは約600円! SDGs にも貢献

最後は、このセミナーで終盤に出てきた医療費・治療コストの話題について。

まず治療コスト。高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法での1例あたりのコストは、プローブカバーや水道水、電気代(家庭用電源)のみで約600円!

いっぽう、ロボット手術は「だいたい30~40万円ぐらいかかる」というし、失禁パッドやおむつが減るから SDGs 目標達成にも近づく。

次に患者が支払う医療費。その1例は、先進医療技術 約67万円+入院・外来による公的医療保険対象 約33万円=合計約100万円。

これを先進医療保険でカバーすると、先進医療技術 約67万円がゼロ。公的医療保険7割負担で 約33万円の3割負担で約10万円に……とも教えてくれた。

―――とにかく、いろいろワクワク&頼れる医療技術を目の当たりにして、興奮した1時間の東海大学セミナーだった。