地方鉄道の再生をめぐり熱い議論が交わされた地域鉄道フォーラムのトークセッション(筆者撮影)

地方鉄道の経営が厳しさを増す中、沿線地域との連携が重みを増している。交通環境ネットワークが2023年6月10日、東京都墨田区の東武博物館で開いた地域鉄道フォーラム2023では、「地域と鉄道」を共通テーマに行政、有識者、鉄道事業者が鉄道の生き残り策を話し合った。

主催者の交通環境整備ネットワークは、地方鉄道の存続や再生に取り組む一般社団法人。フォーラム2023は、国土交通省鉄道局が後援した。

基調講演者は富山大学都市デザイン学部の金山洋一教授。国鉄、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)出身で、鉄道の上下分離経営などを専門に研究する。講演では、鉄道を利用するかどうかの境目になる「1日60本ライン」を紹介した。

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沿線住民が、鉄道かマイカーかを判断する境界線が「60本ライン」。日中有効時間帯に上下60本の列車が運転されれば。多くの人に「鉄道で出掛けよう」という心理が芽生える。1日60本は1時間4本。「15分待てば次の列車が来る」の安心感が、鉄道への信頼を高める。

多くの沿線自治体は地方鉄道を支援するが、その中身といえば線路などインフラへの補助がほとんど。列車増発を支援する自治体は、富山ライトレールの富山市などわずかだ。

金山教授は、「日本の地方都市のほとんどは人口減少が進んでおり、こうした状況下では地方鉄道の再生は困難。移動しやすい環境で子育てしたいというヤングファミリーは多い。60本ラインの鉄道は、少子化の歯止めにも一定の効果を発揮する」と説いた。

トークセッションでコーディネーターを務めた、関西大学経済学部の宇都宮浄人教授が指摘したのは、日本とヨーロッパの鉄道に対する社会的認識の違いだ。

イギリスやフランス、ドイツなどの鉄道の輸送密度は、実は日本の地方鉄道と同程度しかない。それでも経営が成り立つのは、国が鉄道を社会的に必要なインフラと認めて支援するからだ。

宇都宮教授は、「これからの日本社会に求められるのは、街の将来像を描き、そこに鉄道が必要かを徹底して考えること。街づくりの文脈に、鉄道を位置付ける取り組みが欠かせない」と発言した。

鉄道事業者では、茨城県のひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長がセッションに参加。「ひたちなか市は、少子化で小中学校5校が統合。その際、通学バスをチャーターすれば年間1億円かかるところ、海浜鉄道の通学定期補助なら800万円ですみ、結果的に年間利用客100万人の回復につながった」と、地域で存在感を増す海浜鉄道の近況を披露した。

記事:上里夏生