※2023年5月撮影

トップ画像は、芦花公園駅から南に約1km。蘆花恒春園です。

「東京都指定史跡徳冨蘆花旧宅」の石碑。開園時間は、午前9時~午後4時半。

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※蘆花健次郎は、生涯徳冨の「冨(ワ冠)」の字に拘りました

※2023年5月撮影

東京都教育委員会の案内は以下。

「徳冨蘆花は、肥後国葦北郡水俣村手水(現在の熊本県水俣市〈後略〉)に代々惣庄屋を務めた徳冨家の三男として明治元年(1868)十月二十五日(旧暦)に生まれた。名は健次郎。兄は猪一郎(蘇峯)である。明治三十一年から翌年にかけて「国民新聞」に連載した長編小説『不如帰(ほととぎす)』が明治文学の中でも有数のベストセラーとなった。

明治四十年(1907)二月二十七日青山高樹町の借家から、北多摩郡千歳村字粕谷のこの地に転居した。トルストイの示唆を受け、自ら「美的百姓」と称して晴耕雨読の生活を送り、大正二年(1913)六年間の生活記録を『みみずのたはこと』として出版、大正七年(1918)には自宅を恒春園と名付けた。〈中略〉

昭和十二年(1937)蘆花没後十周年に際し愛子夫人から建物とその敷地及び蘆花の遺品すべてが当時の東京市に寄付され、翌年二月二十七日「東京市蘆花恒春園」として開園した。

この旧宅は、母屋、梅花書屋、秋水書院の三棟の茅葺き家屋からなり、これらは渡り廊下によって連結されている。「美的百姓」として生きた蘆花の二十年間にわたる文筆生活の拠点であり、主要な建物は旧態をよくとどめている。

平成十四年三月二十九日 東京都教育委員会」

実は、筆者も1983年(昭和58年)から1986年(昭和61年)まで粕谷3丁目のアパートに住んでいました。それで同じ粕谷に住んだ徳冨蘆花健次郎の『みみずのたはこと』(上下/岩波文庫)を愛読したのです。1977年(昭和52年)の改版で新字新かなになってとても読み易くなっています。筆者にもどこかしら隠遁生活的な晴耕雨読への憧れがあるのでこの本は今でも大好きです。

※2023年5月撮影

現場の案内図、蘆花健次郎の旧宅(恒春園区域)は全体の5分の1ほどで周囲の公園部分がとても広いのです。『みみずのたはこと』の解説によれば、恒春園エリアが約4千坪、整備された公園全体は約1万8千坪にも及ぶそうです。

筆者は、1997年(平成9年)上祖師谷の「京王ラフィネ」という賃貸マンションに転居、2007年(平成19年)まで生活していました。そこで息子を4歳から14歳まで育てました。当時息子を連れて蘆花恒春園(の公園部分特に「アスレチック広場」周辺)に頻繁に遊びに来ていたのです。

※2023年5月撮影

もちろん一人でプラプラ散歩に来ることもありました。竹林のむこうに「秋水書院」が見えます。

※2023年5月撮影

「秋水書院」は、1911年(明治44年)に烏山にあった古家を蘆花が買って移築したものです。建前の日が偶然大逆事件の犯人とされた幸徳秋水たちの死刑執行の日でした。蘆花は幸徳秋水らは冤罪であると兄蘇峯や桂総理大臣に手紙を出していたのです。蘆花はこの建物を「秋水書院」と名づけました。

※2023年5月撮影

右奥に「梅花書屋」の茅葺きが見えます。

※2023年5月撮影

これは2003年(平成15年)散歩に来た筆者が撮った写真。手前の「秋水書院」と奥の「梅花書屋」。20年間で何も変化はない様に見えます。既にデジカメでしたが大きくて重かった。(笑)

※2003年2月撮影

地蔵尊が祀られています。

※2023年5月撮影

『みみずのたはこと』には次の様に書かれています。

「地蔵様が欲しいと云ったら、甲州街道の植木なぞ扱う男が、荷車にのせて来て、庭の三本松の陰に南向きに据えてくれた。八王子の在、高尾山下浅川附近の古い由緒ある農家の墓地から買って来た六地蔵の一体だと云う。」同書上巻p.203

当初蘆花は、地蔵尊の台座の文字から寿永年間、平家没落時の古い地蔵だと喜んでいましたが、

「ある時考古癖の甥が来て寿永じゃありません宝永ですと云うた。云われて見ると成程宝永だ。暦を繰ると、干支も合って居る。そこで地蔵様の年齢も五百年あまり若くなった。」同書上巻p.203

この後の文章がとても好きなのですが長くなるので割愛します。興味のある方は、ぜひ岩波文庫で読んでみてください。

地蔵様の横に立てられた木札には「大正十二年九月一日の関東大震災の時、倒れたが無事だった。しかし、大正十三年二月十五日の余震で又倒れ、頭が落ちた。蘆花は、これを自分たちの身代わりになったようなものだとして「身代り地蔵」と命名した。」と記されています。

『みみずのたはこと』の初版は、1913年(大正2年)刊行。震災は、1923年(大正12年)9月ですからこのエピソードは出て来ません。

地蔵様越しに「秋水書院」。

※2023年5月撮影

もう少し徳冨蘆花健次郎の旧宅を見学します。

(写真・文/住田至朗)

※駅構内などは京王電鉄さんの許可をいただいて撮影しています。

※鉄道撮影は鉄道会社と利用者・関係者等のご厚意で撮らせていただいているものです。ありがとうございます。

※参照資料

・『京王ハンドブック2022』(京王電鉄株式会社広報部/2022)

・京王グループホームページ「京王電鉄50年史」他

下記の2冊は主に古い写真など「時代の空気感」を参考にいたしました

・『京王電鉄昭和~平成の記録』(辻良樹/アルファベータブックス/2023)

・『京王線 井の頭線 街と駅の1世紀』(矢嶋秀一/アルファベータブックス/2016)