ひたちなか海浜鉄道

さてお魚市場を見てから、ひたちなか海浜鉄道の那珂湊駅まで歩きました。ゆっくり歩いても15分程度なのですが、流石に炎天下では少々汗をかきました。

お魚市場はウィークデイなのにとても賑わっていました。徒歩15分の場所に駅があるのですから買い物をした水産品を冷やした状態の宅配便で送ることができればクルマで来る必要はないなぁ、と考えながら那珂湊駅に到着です。
ひたちなか海浜鉄道

約束をいただいた時間にはまだ間があるので構内の車両を撮影させていただきます。

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これは東海交通事業(TKJ)から来たキハ11ー202。今年の3月までTKJで営業運転されていた車両です。
昨年末に運用を外れたキハ2000形2004と連結されて留置されていました。
あくまで部品取り用として購入されており、運用予定はないとのことです。
ひたちなか海浜鉄道

これでキハ11形は合計5両がひたちなか海浜鉄道にあることになります。2015年(平成27年)の4月にJR東海と東海交通事業(TKJ)から譲渡され年末から運用が始まった3両のキハ11は5ー6ー7と改番されています。既にキハ11-7のクリーニング専科ラッピングの車両とは午前中に那珂湊ですれ違いました。

こちらは昨年末から既に営業運転しているキハ11ー5です。
ひたちなか海浜鉄道

キハ20形205、1965年(昭和40年)に作られた国鉄キハ20形のラストナンバーキハ20ー522です。JR西日本から水島臨海鉄道を経て1996年(平成8年)にひたちなか海浜鉄道に譲渡されワンマン改造された車両、国鉄気動車標準色に復元塗装されています。
ひたちなか海浜鉄道

そのキハ20形205に連結されているのは元東武鉄道の無蓋貨車トラ1形、車籍はないのですが物置として使われている様です。車籍の無いトラと連結されているということはキハ20形205も運用から外れるのでしょうか。トラの後方に午前中に勝田から那珂湊に入って来た時に見たキハ11ー201とさらにその奥にミキ300形103も見えています。
(吉田社長に伺うと、キハ205は当面現役とのこと。ホッ!)
ひたちなか海浜鉄道

アニマルトレインになっているキハ37100形(37100-03)です。2002年(平成14年)に新車で導入された車両です。1995年(平成7年)と1998年(平成10年)に1両ずつ新製されて導入された茨城交通湊線オリジナルのキハ3710(みなとの語呂合わせ)とほぼ同型ですがブレーキの二重化など仕様が若干異なるために型式が変更されています。

ちなみに今朝から勝田~阿字ヶ浦~勝田~阿字ヶ浦と乗った車両は3710-02でした。ゲームのデュエル・マスターズとタイアップしたラッピング車両でしたね。

整理します。本日実際に眼にした現役車両は

JR東海/東海交通事業(TKJ)から譲渡されたキハ11形の5と7、さらに最近やってきたTKJ201と202、つまり眼にしていないのはキハ11形では「6」だけです。

朝から乗っていたキハ3710-02、アニマルトレインの37100形、つまり3710-01を見ていません。

ミキ300形103、キハ20形205、以上でしょうか。現役は8両ということですので

キハ11ー5 キハ11ー6 キハ11ー7
キハ3710-01 キハ3710-02 キハ37100-03
ミキ300ー103 キハ205

・・・ということになります。

駅構内をウロウロしていたらお約束の時刻前に吉田社長ご自身が出現されて「前の打ち合わせが予定より早く終わったのでよかったら始めませんか」と声をかけて下さいました。

早速社長室にお邪魔します。吉田千秋社長です。
ひたちなか海浜鉄道

最初は雑談から始まりました。吉田社長が富山県高岡のご出身なので高岡のお話をしました。小生の祖父が伏木の出身で小矢部川を渡る「如意の渡し」が廃止(2009年/平成21年)される前に乗りに行った話。子供の頃高岡大仏近くの親戚に一夏預けられた思い出、10年以上前に地元の深海魚「げんげ」を酒肴で食べてたいへん気に入ったことなど、吉田社長もリラックスしてお話ししていただける雰囲気です。

まずは

鉄道チャンネル:
ひたちなか海浜鉄道が現在の阿字ヶ浦からひたちなか海浜公園まで延伸が実現すると、現状よりもどの程度お客様が増えるとお考えでしょうか?

吉田社長:
現在は年間トータルで約100万人のお客様にご利用いただいています。そのうち海浜公園へは、ゴールデン・ウィークを中心に約2万人の方に鉄道を使っていただいています。

ひたちなか海浜公園にダイレクトに鉄道で行けるとなると年間200万人の公園入場者の内10%のお客様に使っていただくことが目標です。つまり20万人ですが実際は往復でのご利用と考えられるので40万人のお客様を考えています。

鉄道チャンネル:
現状の車両と設備でそれだけ増えるお客様を運べるのでしょうか?

吉田社長:
現有の車両は8両です。40万人を運ぶとなると3両編成にして4編成、計12両、予備車を含めると14両程度必要となります。あと6両ですが、1両約1億5000万円で車両を購入するとして約9億円です。※

※3両編成で運行することを想定した場合、素性の全く異なるバラバラの車両で編成することは基本的に不可能です。そうなると現有の車両ではキハ11形で1編成。(予備2両)とキハ3710(37100)で1編成(予備無し)がやっとです。

勝田と那珂湊の間の金上に新たな交換設備を作りましたがこれに約1億5千万円程度かかりました。阿字ヶ浦からひたちなか海浜公園まで3駅を新設してそこにも交換設備を1か所設けると物価上昇を勘案してプラス約2億円、車両購入費とトータルで11億円程度が必要になります。

鉄道チャンネル:
営業収益が2億6千万円という会社にとっては大きな金額ですね。

吉田社長:
40万人のお客様が増えることを考えて、お一人当たり250円の収益をいただければ年間1億円の増収になります。建設費は11年でもとが取れると試算しています。

鉄道チャンネル:
しかし現状のインフラで対応しきれない部分もでてくるのではありませんか?

吉田社長:
金上駅の交換設備は3両の停車が可能な設計にしました。もちろんこの設備を入れた時には3両での交換など予想もしていなかったのですが。(笑)むしろ輸送量が増えるとそれがネックになってしまうかもしれませんね。

金上駅
ひたちなか海浜鉄道

鉄道チャンネル:
本日乗車させていただいて路盤というか線路の状態が素晴らしいのに感銘を受けました。

吉田社長:
茨城交通時代に安全対策に非常に多くのお金を使ってきたのです。全線コンクリート枕木化と重軌条化がほぼ完了しています。お陰様でその財産を車両のスピードアップにも活かせると考えています。

ただしその分、駅や車両にあまり投資をしてこなかったというツケもありますが。(笑)

実際に4年前に運行の最高速度を50km/hから60km/h程度にスピードアップしました。車両の性能によりますが80km/hの最高速で安全に運行できると考えています。

鉄道チャンネル:阿字ヶ浦から延伸される駅で新たなビジネスをお考えになっていますか?

吉田社長:
むしろ私たち鉄道が場所というかインフラを用意してそこに地元を始めとする皆様が新たなビジネスを展開されれば良いと考えています。

新しい終着駅は現在は路線バス以外交通の便がないのですが巨大なショッピング・モールなどが並ぶエリアになっています。新たに駅ができればクルマという手段を持たない若年層やお年寄りが出かけてゆくようになるでしょう。

終点の駅は交通広場という在り方を考えています。例えばバスターミナルの様な形でさらに東海村などに繋げるとか、まだ具体案になっていませんが。

鉄道チャンネル:
本日那珂湊のお魚市場を拝見したのですが平日にも拘わらずけっこうな人出でした。特に若い女性の楽しそうな姿が印象的でした。

現状のお客様は圧倒的に自家用車で来て大量の海産物を買って帰る、あるいは大型観光バスのツアーでやってくるというスタイルです。

しかし、この那珂湊駅からお魚市場までは徒歩で15分もかからず行けます。便利なシャトルバスとお土産の海産物を冷蔵で送れるサービスがセットされた切符などを企画すればもっと異なったお客様を呼び込めるのではないですか?

吉田社長:
8周年の記念イベントをひたちなか海浜公園の無料開放日に合わせてやったんです。その時に那珂湊の商店街も一緒にイベントに参加してもらいました。そうしたらふだん人通りのない場所が大勢の人で賑わって、商店街の方々も鉄道を上手く使えば商店街に人を呼び戻せるんだと分かっていただいた様なんです。そういう意味ではこれからもっともっと考えていろいろ作っていかなければならないですね。

鉄道チャンネル:
7月に4回目を迎える「終着駅サミット」と第3回ローカル鉄道サミット、さらに吉田社長が中心で活動されている「ローカル鉄道・地域づくり大学」のサマースクールが同時にこちらで開催されるというコトですが。

吉田社長:
元々「終着駅サミット」は富山の城端線、氷見線それから石川の北陸鉄道石川線の鶴来で開かれたのです。富山と石川、もろに北陸です。まず私自身の繫がりがあります。※
※吉田社長はご出身が富山県高岡市(旧福岡町)です。

それに第3回の「ローカル鉄道サミット」を合わせて開催し、さらに「ローカル鉄道・地域づくり大学」のセミナーで、言うならばバラバラに進んでいた動きをすこしずつより合わせて、全国で同様の問題に直面する方々に少しでも実効的な考え方を提供する方向に向かえれば、ということでしょうか。

とにかく、私たちの様に下からの動きと、国や役所からのトップダウン式で始まっているやり方をどこかですりあわせて良い方向へ向かうためのプロセスとしてしっかりやってゆきたいと考えています。

鉄道チャンネル:
本日、勝田と阿字ヶ浦を往復させていただいて沿線の雰囲気の良さとか、コミュニティーバスでもお客様や運転手の方にビックリするくらい親切にしていただきました。すごく住みやすいという印象を受けました。

吉田社長は富山県高岡市のご出身ですがこのひたちなか市に来られてどのように感じられていますか。

吉田社長:
地元の方々は自分たちを閉鎖的だ、みたいにおっしゃるんですが、実際は那珂湊という大きな漁港があって、何と言うかとてもオープンマインドなんです。富山と同じ様にお魚も美味しいですし、物価も同じ様な感じです。しかし、こちらには雪はありません、過ごしやすいとても良い場所なんです。

転勤してこちらに来られた方が退職後も出身地に帰らずそのまま住むことを選ぶということもよく耳にします。何と言うかとても住みやすいというのは感じています。

鉄道チャンネル:
本日は長時間にわたってありがとうございました。

お忙しい吉田社長に、実際は予定の1時間を超えてお話しをいただいたのですが、とても気さくに、しかし熱心に話して下さいました。そこには「鉄道が大好き」という共通項だけではない、吉田社長の人間的な魅力を感じました。吉田社長本当にありがとうございました。

(写真・記事/住田至朗)