変電所を直すお金がないので映画を撮影してその興行収入を修繕費用に充てよう――なんだか文化祭費用を稼ごうとする中高生みたいな発想ですが、これを地で行くのが皆さんご存知名物ローカル鉄道として知られる銚子電鉄。映画撮影費用を捻出するため今年五月に始まったクラウドファンディングも無事目標額の500万を達成しました。

【参考】
銚子電鉄「超C(銚子)級エンターテインメント」映画『電車を止めるな!』を作りたい
『電車を止めるな!』公式サイト

『電車を止めるな!』の公開は今冬予定ですが(8月3日から延期になりました)、その小説版『電車を止めるな!〜呪いの6.4km〜』(PHP文芸文庫)は今年の6月に発売されています。映画版のノベライズであれば公開前に取り扱うのは控えた方がいいかな……と思っていたのですが、どうやら書籍版と映画とで微妙に内容が異なる模様。じゃあやっちゃいましょうか。というわけでネタバレにならない程度に取り上げてしまいます。ちょうどいいコーナーもないので「鉄道ミステリ」コラム番外編で。

ADVERTISEMENT

“累積赤字が一億円を突破した銚子電鉄。ただでさえ赤字経営で胃が痛いのに、不穏な噂までたっている。深夜、線路点検のために回送電車を走らせていると、子供の霊が出るという――銚子電鉄蔵本社長はこれを逆手に取り『~子供の霊がさまよう~ 呪われた心霊電車』という企画を発案した。

集まったのは個性豊かな参加者五名。就職から逃げた元神童のYoutuber・谷川亮太(22歳)、もう後がない心霊アイドル・めむたん(25)、本物のネタを探す売れない怪談師・蓑毛よだつ(45)、長年銚電を見続けてきた霊媒師・広瀬じゅず(62)、スーツ姿の謎の男・龍宮司一馬……キワモノ参加者5名が乗る心霊電車は犬吠駅を発車する。果たして本当に幽霊は現れるのか……”

元ネタの映画を観ていないのであらすじへのコメントは差し控えます。しかし改めて登場人物を書き出してみると「その名前は元ネタ的にマズいでしょ!」みたいなのもあるのがなかなか楽しいですね。銚子電鉄は「お化け屋敷電車」というイベント列車を夏に運行しているのですが、本書の著者の寺井広樹さんはそちらもプロデュースしているので実体験というか……随所の描写にノウハウを感じます。

ストーリーは途中まで銚子電鉄のヤラセという体で進行するのですが、折返し始めてから異様な状況に陥り、登場人物たちの化けの皮も剥がれていく。そして作品のキーフレーズであった「電車を止めるな!」が反転する瞬間から、乗客を救うために全員一丸となって(?)走り出すのがやっぱり熱いですね。

小ネタとして、冒頭の銚子電鉄会議に使われている車両は、作中の描写と銚子電鉄の所有車両から察するにデハ1002かな……と思われます。この車両は平成23年まで丸ノ内線カラーで運行していましたが、2015年には引退しています。銚子電鉄の仲ノ町車庫に行けば150円で見学出来るのでおすすめ。銚子駅から電車に乗っても良いのですが、醤油の香りに浸りながら線路沿いを徒歩で行っても数分の距離なので、10分以上待つようであれば歩いて行ってもいいでしょう。

「駅舎をヨーロッパ調のメルヘン風に」というのは観音駅か犬吠駅でしょうか。銚子電鉄は駅舎のリニューアルを結構頻繁に行っている印象ですが、その中でも特に洋風建築の白さを感じるのはこの2駅。君ケ浜も2007年まではイタリア風のアーチがありましたし、個人的にはレンガ造りの元銚子も大正ロマンを感じる素敵な駅舎かと思います。

外川駅の先に止まっているのはデハ801。これについては以前、我らが「鉄道チャンネル」のMC柏原と一緒に「鯛パニック号」を取材した際に見学したので、よろしければ当時の記事もご覧ください。乗ってみて実感したのですが、銚子電鉄の方々、本当に謎のエンタメ精神の持ち主ばかりでした。昨日書泉グランデで行われた特別試写会も好評だったようですし、想像よりはずっと面白いものに仕上げて来るんじゃないかな、と期待しています。