2012年の初回から皆勤参加の成城中高は3チームが出場。エリアが異なる北海道=写真=、会津鉄道、西武鉄道の利用促進策を発表しました。

中高生の鉄道を愛する心はコロナに負けない! 鉄道好きの中高生が日ごろの研究成果を披露する9回目の「全国高校生地方鉄道交流会」が8月21日に開かれ、参加7校9チームが特定の鉄道路線を取り上げ、利用促進策やイメージアップのアイディアを競いました。新型コロナの今夏は昨年までの実開催を断念、初めてのリモート交流会となりました。前半は交流会の狙い、後半は主な出場校の発表内容を紹介しましょう。

鉄道好き中高生のインターハイ

交流会の性格を一言で表現すれば、「鉄道が好きな中高生のインターハイ」です。鉄道ブームに乗って、中学や高校の鉄道研究会(鉄研)は人気を集める部活(クラブ活動)の代表格。今年はちょっと様子が変わりましたが普段の夏休み、部員は各地の鉄道を訪れて列車に乗車したり、写真を撮ったりします。しかし文系の鉄研には、野球の甲子園や一般スポーツのインターハイ、合唱の全国コンクールに相当する競技会や交流の場はありません。せっかく遠方の鉄道に乗車しても、発表の場は仲間内だけになりかねません。

こうした状況に風穴を開けようと2012年に交流会を発案したのは、第三セクター・秋田内陸縦貫鉄道の酒井一郎社長(現在は退任)。鉄研の活動が盛んな東京の3校に呼び掛けて部員を秋田に招き、初の交流会を開催しました。現地では鉄道沿線を訪問。縦貫鉄道も車両基地を公開しました。発表会では研究成果を披露。最優秀賞をはじめ各賞の表彰が行われ、学校の枠を越えて交流を深めました。国土交通省は交流会を後援して、鉄道好きの中高生にエールを送りました。

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翌年からはいすみ鉄道、一畑電車、三陸鉄道、のと鉄道、鹿島臨海鉄道、東京モノレール、JR北海道花咲線(釧路―根室)が続きました。生徒の発表からは、ヘッドマーク取り付け(秋田内陸縦貫鉄道)、イセエビ列車(いすみ鉄道)などが形になり、鉄道側も一畑電車が新車導入(東急電鉄からの譲受車)のニュースを発表するなど鉄研部員と事業者をつなぐ交流会は存在感を増します。

初めてのリモート開催

9回目の今夏、コロナ禍で前夏までの実開催は断念。代わってインターネットのテレビ会議システムを利用したリモート開催となりました。

参加校は京華中学高校(東京)、芝浦工業大学柏高校(千葉)、芝学園中学高校(東京)、渋谷教育学園渋谷中学高校(同)、成城中学高校(同)、奈良女子大学付属中学(奈良)、目黒学院中学高校(東京)で、参加校数は過去最高。オリエンテーション代わりの自校紹介では、「コロナで部活が次々中止になる中で、思い出づくりのため参加を決めた」といった声が目立ちました。

高校野球では、春に中止となった選抜高校野球出場校を対象とした「2020年甲子園高校野球交流試合」が夏休みに甲子園球場で開かれ感動を残しました。交流会はその鉄道版。「鉄道好きな中高生の甲子園」だったのかもしれません。

最優秀賞は奈良女子大付属中 JR桜井線の難読駅名ラリーから京都発直行列車まで

最優秀賞の奈良女子大附属中は発表の者の背景に桜井線の電車を映し出しました。

それでは発表内容のいくつかを紹介しましょう。最優秀賞を受賞した奈良女子大附属中は今回が初参加。JR桜井線(高田―奈良間29.4km)の利用促進策を考えました。国鉄時代からの車両が使用されてきた桜井線は昨春から新製227系電車が投入され、JR西日本は線区のイメージアップに乗り出しています。

生徒が発想したのは難読駅名ラリー。同線は京終、帯解、巻向、畝傍と来訪者が読めない駅のオンパレードです。それぞれの駅名・地名には由来があり、ラリーにすれば鉄道ファン・歴史ファンを呼び込めます。

運行ルートでは、JR奈良線(木津―京都間34.7km)との直通運転を提案しました。確かに路線図を見ると、京都発城陽、奈良経由桜井行き(または高田、王寺行き)といった列車が運転できそうです。普段は自動車の観光客も、「直通列車があるならJRで」と思うかもしれません。

さらに、思い切ったアイディアが線区愛称名の変更。JR西日本は2010年から、桜井線を「万葉まほろば線」と呼称します。古都を走る路線らしさが感じられますが、まほろば線ではどこを走る路線か良く分かりません。鉄道ファンはご存知、万葉線は富山県の路面電車(企業、線区同名)で、混同される可能性も無きにしも非ずです。鉄研部員は「いったん、まほろば線を置いて本名の桜井線の本名をPRしてみては」と提起。審査員も「線区のことを勉強している」と感心しきりでした。

このほかの賞では、交流会会長賞を渋谷中高、審査員賞を京華中高と芝学園の2校が受賞しました。渋谷中高が注目したのはJR山手線原宿駅付近から見える通称・宮廷ホーム。かつてはお召列車が発着したものの、最近は使われない皇室専用ホームのVIPツアーへの活用などを発案しました。審査員賞の京華は北総鉄道、芝学園は東京メトロ日比谷線の活性化策を発表しました。

交流会の締めくくりでは、北海道運輸交通審議会会長としてJR北海道再建問題を主導してきた北海道大学公共政策大学院の石井吉春客員教授がゲスト出演。参加校と意見交換しました。

北大の石井客員教授(右上)を囲む意見交換では画面が4分割されました。

文/写真:上里夏生