留萌本線は函館本線・深川駅から留萌駅を結ぶ全長50.1kmの路線です。JR北海道は同線全線を「単独で維持が困難な路線」と位置付けており、2020年8月18日に開かれた「沿線4市町でつくるJR留萌本線沿線自治体会議」で一部区間の廃止・バス転換を容認することで一致しました。沿線の沼田町は深川~石狩沼田を存続させたい考えですが、JR北海道の島田修社長は「全線廃止が最適な公共交通のまちづくりの姿」と述べるなど慎重な姿勢を示しています。

2020年9月に沿線を巡り、留萌本線の「今」を収めました。初回は2016年12月に廃止された増毛駅やその周辺を、第2回以降で留萌~深川間の旅の様子をお届けします。(全5回連載)

かつては増毛支庁が設置された主要都市

歴史を感じる建物が残る街並み

留萌本線は良港がある留萌と内陸を結ぶ目的で1910年11月23日に深川~留萌(※)が開業し、1921年11月5日に増毛まで延長されました。増毛はアイヌ語の「マシュキニ」「マシュケ」(カモメの多いところ)を由来としており、その名が示すとおり日本海に面した港町です。1897年に増毛支庁が設置されるなど、このエリアの主要都市だった時代もありました。その名残りとして町中に重厚な建造物が残されています。

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※開業当時は「留萠駅」、1997年に現在の駅名へ改称。

新鮮な魚介を求めて人々が集まる

大きなネタと鮮度が自慢

増毛港はボタンエビの漁獲高日本一。アマエビやタコなど数多くの魚介も水揚げされています。新鮮で美味しいネタを求めて平日でも寿司屋に行列ができることが少なくありません。タコを唐揚げ風に揚げた「タコざんぎ」も人気です。

高倉健の演技が光る「駅 STATION」のロケ地

駅 STATIONでは主要人物が働く店として登場

1981年に公開された「駅 STATION(主演・高倉健)」のロケが町内各地で行われました。駅 STATIONはオリンピックの射撃選手だった警察官の男と事件を通して出会った女たちとの別れを3部構成で描いた人間ドラマです。 増毛駅前の旧多田商店は「風待食堂」として登場。現在は観光案内所に利用され、店内に映画のワンシーンとなった居酒屋が再現されています。留萌本線関連のグッズや、「ぞうもう」と読めることから髪の毛の薄い方に人気を博した入場券を販売しています。

北海道最古・日本最北の造り酒屋でほろ酔い気分

さまざまな酒の試飲が可能

北海道最古で日本最北端の造り酒屋「国稀酒造」は1882年に創業し、暑寒別岳の天然水を使った日本酒が造られています。清らかな水は酒造りに適しており、増毛近郊には明治末頃に7軒もの酒造会社があったそうです。館内には酒造り道具の展示室や利き酒コーナー、売店などがあり、日本酒好きにはたまりません。暑寒別岳の天然水を汲むこともできるので、お酒が苦手な方はこちらを味わってみてはいかがでしょうか。

鉄道の記憶を後世に伝える旧増毛駅

2016年12月5日に廃止され観光施設に生まれ変わった増毛駅

増毛駅は1面1線のホームを持つ駅で、昭和初期の鰊で栄えた最盛期には人や貨物の輸送の拠点としてにぎわっていました。 かつては札幌まで直通列車が運行されていたり、2001年からゴールデンウィークを中心に「増毛ノロッコ号」という観光列車が運行されていましたが、2016年12月4日に留萌~増毛16.7kmが廃止されて95年の歴史に幕を下ろしました。

館内には売店があり鉄道資料が展示されている

旧増毛駅は開業当時の駅舎に復元され、2018年4月から観光施設として開放されています。館内に当時を偲ばせる写真や、さよなら列車のヘッドマークが飾られるなど、鉄道の記憶を留めています。

鉄路や駅舎の多く残された廃線跡

高台から日本海を眺める旧礼受駅

2020年9月現在、留萌~増毛の鉄路や駅舎の多くが撤去されずに残されています。旧礼受駅も放置されたまま。車掌車を改造した駅舎は日本海の潮風にさらされて錆付いています。廃止直前の乗降客数は1日1名以下。駅前は海が広がっているだけで列車に乗車する人がいる気配はありません。鉄路が消える前から駅としての役割を終えていたのでしょう。朽ち果てた駅舎に時代の流れと共に消えゆく定めを感じました。

文/写真:吉田匡和

【次回】沿線自治体が一部区間廃止を容認~留萌本線の旅(2)
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