2020年11月12日(木)、名古屋城の近くにある巨大な穴が報道陣に公開されました。

これ、リニア中央新幹線の関連施設なんです。その名も「名城非常口」――果たしてどういった目的で使われるのでしょうか?

シールドマシンの発進拠点

2020年10月に報道公開された超電導リニアL0系改良型試験車

JR東海は2027年の開業を目指しリニア中央新幹線の工事を各地で進めています。時速500㎞で浮上走行するリニアは品川~名古屋間を最短40分で結び、将来的には大阪まで延伸し最短67分でつなぐ計画です。

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高度に市街化されている首都圏・中部圏は地上にリニア用の路線を建設するわけにもいきませんので、地下空間にシールドトンネルを掘って通過します(愛知県内約24.8㎞は全線トンネル区間)。そのためにはまず、掘削用のシールドマシンを地下に送り込むための施設を作らなければなりません。それがこの立杭(非常口)です。

立杭は約5km間隔で設置されており、リニアの路線を建設する際はこの立杭から立杭に向けてシールドトンネルで掘削していきます。愛知県内には他にも勝川非常口、坂下非常口、神領非常口が作られており、このほど公開された名城非常口からは、まずは品川方面(勝川非常口)へ、その後名古屋駅方面へ向けて掘削を進めていきます。

リニア営業開始後も立杭はトンネル内の換気や異常時の乗客の避難経路に、また保守作業などにも使用される予定です。ちなみに名城非常口の深さは地上から約89.1mで、直径は約41m。エレベータや換気設備(ファン)などを備えます。

実際に潜ってみた

上から見下ろすと深さがはっきりと感じられる

名城非常口の工事は2016年11月から始まり、今年の6月に底までの掘削が終了。9月19日に底面約5.6mのコンクリート打設が完了したことから報道公開に至りました。

上から覗いてみると外壁にエレベータや階段が取り付けられているのが分かり、下で働いている方々が豆粒のように見えます。記者は高所恐怖症ではありませんが、この高さから覗くと思わず「ひゅっ」とする感覚を覚えました。高層ビルの屋上から地上を覗く感じですね。

今日は取材ということで、この巨大な穴に実際に潜ってみました。ここからは写真中心に……

エレベータに乗って地表面から約83.5mの地下へ
底から上を見上げるとこんな感じ
底部全体を俯瞰するように
シールド発進の部分 型枠を作っている状況 シールドトンネルは外径約14m
品川方面には「品川方」の表示 上には「0°」
反対側に「名古屋方」「180°」
シールドトンネルを掘削した後に必要な設備を作っていく そのための柱の基礎がこの大きな四角いコンクリートブロックに詰まっている
リニアが走る軌道を支える柱が立つ予定の場所には小さな四角いブロックが
足場など 幕には「墜落落下災害の絶滅!」とある

見下ろすとちょっと怖いですが、普段は入れない場所で着々と工事が進んでいるのを目の当たりにすると、リニア中央新幹線が完成に向かって動いているのが肌で感じられます。

湧水や土壌汚染もリニア開業時期への影響はなし

今後は側壁の工事を続け、2022年7月に名城非常口が完成。その後シールドマシンの組み立てや地元への説明会などを行い、まずは品川方へ、そして名古屋へと掘削していく予定です。名城非常口は湧水や土壌汚染などにより一年半ほど工事の遅れが生じていますが、2027年開業への影響はないそうです。

JR東海 中央新幹線名古屋建設部 担当部長 田中雅裕さん

JR東海中央新幹線名古屋建設部 田中雅裕担当部長は、「名城非常口の工事を着実に進めてこられたのも、地域の皆様のご理解と愛知県や名古屋市をはじめとした関係者のご協力があってのことと考えております」とコメント。工事の安全や環境の保全、地域との連携の三点を重視し、着実に工事を進めていきたいとの考えを示しました。

文/写真:一橋正浩