映画のタイトルバック。主演のコウガシノブさんは映画、テレビドラマ、舞台、ラジオパーソナリティーと幅広く活動します。 ©銚子電気鉄道

千葉県の銚子電気鉄道を舞台にした映画「電車を止めるな!~のろいの6.4km~」が話題を呼んでいます。ジャンルはホラーコメディで、鉄道映画としては異色の中身。銚子電鉄自らが制作し、クラウドファンディングで集めた制作費はわずか500万円の低予算と、何もかもが鉄道界と映画界の〝おきて破り〟です。

私が2020年11月29日に映画鑑賞したのは、関東鉄道常総線騰波ノ江駅の「とばのえステーションギャラリー」というミニホール。映画に出演する女優さんのトークショーも開かれました。前半は映画の見どころと銚子電鉄の昨今、後半は映画をめぐるちばらき(千葉+茨城)の地方鉄道の美しい(?)助け合い精神を披露しましょう。

原作無視の銚電ワールドさく裂

銚子電鉄社長と子どものワンシーン。悪霊登場の秘密が隠されています。 ©銚子電気鉄道
こちらは本物の竹本銚子電鉄社長。映画にはエキストラでほんの少し登場するだけですが、宣材として制服姿を披露しました。 ©銚子電気鉄道

原作は寺井広樹さんの小説ですが、パンフレットには「原作をほとんど無視した、摩訶不思議な銚電ワールド」とあります。原作の呪いを、映画は低速運転の「のろい」に引っ掛けました。84分間の上映時間に、ありとあらゆるエンターテインメントが満載。キャッチコピーは「渾身の〝超C級〟ホラーコメディ!」で、超C級は「銚子級」のしゃれです。銚子電鉄の竹本勝紀社長が、総合プロデューサー(代表取締役プロデューサーと表記)と脚本(チーム)を務めます。

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あらすじは次のようなものです。JR銚子駅と外川駅を結ぶ6.4kmの銚子電鉄は慢性的赤字で、今や廃止寸前。起死回生の知名度アップに向け「心霊電車」を企画します。出発は真夜中3時で、運転ルートは犬吠発仲ノ町折り返し外川行き。車内からSNSでインターネット中継し、話題づくりする作戦です。

当日の乗客はアイドルタレントと和装の怪談師、女性除霊師、アイドルオタク、そしてなぜかビジネスマンとバラバラ。最初はホームからの脅しなど見え透いた手口で誰も怖がりませんが、仲ノ町で折り返すと突如、悪霊(ゾンビ)が出現して運転士や乗客を襲います。電車はノーブレーキ状態で、終点の外川でストップできないと大事故に。果たして、心霊電車は止まれるのか。

今は鉄道を廃止する時じゃない!

心霊電車は「あの世行き」。これを見たら京王や伊予鉄の方も驚くでしょう。 ©銚子電気鉄道

前半はコメディ、後半はホラーと明確にトーンを分け、最後の10分間は文字通り手に汗握る展開。鉄道映画の視点では、銚子電鉄社長(主演のコウガシノブさん)の「少子高齢化や人口減少、マイカー普及で乗客は減少の一途をたどる。銚子電鉄も、いつかは役目を終えるだろう。でも、それは今じゃない」のセリフが、全国の鉄道関係者やファンの心に刺さるはずです。

本編に驚きのサイドストーリーが続きますが、それは見てのお楽しみ。心霊電車は元京王電鉄5100系で、2016年に四国の伊予鉄道から関東に里帰りした3000形。鉄道ファンの見どころは一時代前の電車とともに、外川駅に留置してある旧塗装の電車でしょうか。本物は2両編成ですが、カメラワークで長編成のように見せます。

鉄旅タレントの木村裕子さん(本人役)、ソフ鉄(ソフトな鉄道ファン)の村井美樹さん、ホラー漫画家の日野日出志さん、お笑いコンビ・オリエンタルラジオの中田敦彦さんら出演者も多彩。犬吠埼温泉、地球の丸く見える丘展望館など銚子市の観光名所もスクリーンに登場します。

怪談師を演じるのは舞台中心に活動する道井良樹さん。おなじみ稲川淳二さんを思わせる風ぼうで、「簑毛(みのけ)よだつ」と、ものすごい役名ですが、本人はイケメン。座席後方のビジネスマン役は秦野豪さん。ラストの変身と大活躍はぜひ映画館で。 ©銚子電気鉄道

海産物やしょう油を輸送

ここで銚子電鉄のミニヒストリー。開業は1923年で、漁港の外川から海産物や特産のしょう油を国鉄との接続駅・銚子に運ぶ産業鉄道でした。21世紀になって、その名が突如クローズアップされたのが2006年11月の「緊急報告」。「車両の法廷点検費用が捻出できず、このままでは営業運転が継続できない」のSOSは社会的関心を集めました。

注目を集めたのが直営製造の「ぬれ煎餅」で、私が取材した10年ほど前の数字では、年商5億円のうち1億円が鉄道、4億円がぬれ煎餅とのことでした。「銚子電鉄は製菓会社で、鉄道は副業」と紹介するメディアもありましたが、それはちょっと違うのでは。本業の鉄道があるから、ぬれ煎餅の知名度も上がるわけで、やはり鉄道あっての銚子電鉄だと思います。

その後、うまい棒ならぬ「まずい棒」などのヒット商品を生み出しましたが厳しい経営環境は変わりません。今回の映画も、変電所大規模修繕の費用捻出の意図が込められています。

映画の基となった怪談列車

本稿を書いていたら、全線〝単線〟の銚子電鉄で映画の〝伏線〟といえそうな記事を書いたのを思い出しました。2016年9月に運転した怪談列車「銚子怪談~あの世より船霊列車参上」。列車が犬吠駅を発車すると車内は真っ暗に。駅では窓をたたく音に続き、開いたドアからゾンビが乗り込んでくる――。当時、銚子電鉄は「日本で初めてのお化け屋敷列車」とPRしていましたが、それが発展して「鉄道ホラー映画」になったという次第です。

銚子電鉄に送る茨城県の地方鉄道からのエール

関鉄の上映会が開かれたのは騰波ノ江駅ステーションギャラリー。古風な駅舎で「関東の駅百選」に選ばれています。 写真:筆者撮影

私が映画を鑑賞したのは関東鉄道からの取材案内があったからですが、上映会を企画したのは茨城県。会場での県政策企画部交通政策課の細谷圭吾係長の話では、新聞で「銚子電鉄が上映会場を探している」の記事を見付け、関鉄(竜ヶ崎線と常総線の2回)のほか、ひたちなか海浜鉄道、真岡鐵道、鹿島臨海鉄道の県内地方鉄道4社に呼び掛けて沿線ホールなどでの映画会を実現したそうです。

各会場では、映画に続き銚子電鉄の竹本勝紀社長らのトークショーを開催。騰波ノ江会場のゲストは映画に除霊師(実は女占い師)広瀬じゅず役で出演する女優の池上恵さんで、関鉄との縁は2015年秋から1年間、キャンペンレディの関鉄レイルメイトを務めたこと。鉄道の魅力を「銚子電鉄が銚子のシンボルであるように、先頭に立って地域を引っ張る点」と語り、2020年11月から新しいレイルメイトに就任した「守谷詩音(もりたに・しおん)さん=活動名」との写真撮影に応じました。

除霊師役で出演した池上恵さん(左)がトークショーのゲスト。新しく決まったレイルメイトの守谷詩音さんと一緒にお決まりの敬礼ポーズをお願いしました。 写真:筆者撮影

「電車を止めるな!」はタイトルとか、池上さんが演じた広瀬じゅずの役名とか、某有名映画や某女優さんのパロディーのようです。しかし、池上さんは「オマージュ(賛辞)とリスペクト(尊敬)」と話していました。

銚子電鉄は2020年12月1日に映画の上映予定を発表。12月18日から東京・池袋の池袋シネマ・ロサで、都内で初めてロードショー上映されます。映画館ではぬれ煎餅や鉄道グッズを販売。詳しいスケジュールは映画館のホームページなどでご覧下さい。12月27日には、竹本社長や赤井宏次監督の舞台あいさつが予定されています。

文/写真:上里夏生