快走する北陸新幹線車両。京都駅部の工期がおおむね20~28年、新大阪駅部が同じく25年となれば、現行のW7系やE7系が敦賀~新大阪間を走るとは考えにくい面もありますが……(写真:hnamasute / PIXTA)

長く足踏み状態が続いていた北陸新幹線の敦賀以西の整備計画をめぐり、2024年8月に一定の前進がありました。「北陸新幹線敦賀~新大阪間」の詳細なルート3案が公表され、これまであいまいだった新幹線京都駅の整備(建設)手法などが明らかになりました。

新幹線を待望する沿線にとって一応のグッドニュースなのかもしれませんが、問題は工期と工費(概算事業費)。京都駅部の工期は従来想定より約10年伸びて、最短で20年程度、最長では28年程度、これまで2兆1000億円程度と見込まれていた工費は、2023年4月時点試算で最高3兆9000億円程度、今後の物価上昇を考慮すると最大で5兆3000億円程度と、2倍以上に膨らむ可能性があります。

行政トップからは、「長いなぁ……、生きているかな」(馳浩石川県知事。8月8日の会見で)の、本音ともジョークともつかないコメントが発せられます。

ルート3案の詳細は本サイトでも報じられた通りですが、ここでは同コラムの副読本として延伸ルートをめぐるあれこれ、そして関係自治体の反応などをまとめました。

国交省とJRTTが与党PTにルート案を提示

公表されたルート案の正式名称は、「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」。国土交通省鉄道局と鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の連名で、JRTTのホームページで誰でも閲覧できますが、本来は国交省とJRTTが、「与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(与党PT)北陸新幹線敦賀・大阪間整備検討委員会」への説明資料として提出したものです。

京都駅部の3案比較表。主な違いは京都駅への入り方なので、京都府や京都市がどんな見解を示すのかが決定に相応の影響を与えそうに思えます(資料:国土交通省鉄道局、鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

整備新幹線のルートに関しては、本サイト2023年3月掲載の「北陸新幹線敦賀以西のルートはこのように決まった」で紹介させていただいた通り、与党PTが実質的な決定権を持ちます。

前コラムを要約すれば、国交省とJRTTは与党PTに複数の路線案の工期や工費、工法などを提示。国民を代表する形でPTが最適なルートを選定し、それを成案とするのです。

少々の書き過ぎを承知でいえば、「整備新幹線のルートは国交省の素案に、与党がお墨付きを与える形で決まる」と言い換えられるでしょう。

「2025年度末までに本格着工」(西田与党PT委員長)

北陸新幹線敦賀以西の整備事業は予定より遅れています。前コラムの通り、工事認可の前提になる環境影響評価(アセスメント)が進まないのが主な理由とされ、本来は2023年春に予定されていた本格着工は現在も未着手のままです。

与党PTは2024年6月の検討委で、「小浜京都ルートの路線や駅位置を2024年内に決定する」の方向性を確認。新しく委員長に就任した西田昌司参議院議員(京都選挙区)は、「2025年度末までの本格着工に向け、手続きを進めたい」というスケジュールの実行に意欲を示しました。

与党PTの方針を受け、国交省とJRTTは今回、詳細なルート案を示したというのが、全体の流れになります。

駅位置・ルート決定は2024年末ぎりぎり?

ルート案公表には、もう少し突っ込んだ見方も可能でしょう。

国の府省庁は現在、8月末が財務省への提出期限になる2025年度概算要求に向けた予算案成作業の真っ最中。自治体側は、「来年度は当県の〇〇事業に国の予算を付けてほしい」と、国に陳情します。

国交省の2024年度予算では、整備新幹線の線区別で北陸新幹線は金沢~敦賀に150億円が配分されました(事業費ベース)。2025年度予算では、本格着工の絶対条件になる「北陸新幹線(敦賀~新大阪)」が何らかの形で明示できるのか。そのためにも、敦賀から新大阪までのルートや駅位置の明示が必要というわけです。

ちなみに前回、北陸新幹線の敦賀以西への延伸で、与党PTが「小浜京都ルート」の採用を決定したのは2016年末の12月20日。今回も正式ルートや駅位置の決定は、2024年末ぎりぎりになりそうです。

2025年末までに着工5条件を確認

ルート案には、あくまで最短の場合という前提付きですが、今後のスケジュールが示されます。

着工に必要な環境影響評価手続きは、2024年末の準備書(詳細駅位置・ルートを含む)公表に続き、知事の意見を反映させた評価書を2025年夏ごろまでに公表します。

次いで、国レベルで環境大臣と国交大臣の意見を反映させ、2026年3月までに補正を済ませた評価書が公表されます。

もう一つ、着工に向けた諸条件では、2025年末までに「安定財源」、「収支採算性」、「B/C(一般には投資効果)」、「営業主体のJRの同意」、「並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意」の、いわゆる着工5条件を確認。2025年度末(2026年春)までに国の工事実施計画認可を受け、いよいよ事業着手という工程になります。

今回のルート案では、物価上昇を反映して概算事業費が大きく上昇しました。収支採算性やB/Cに何らかの影響を及ぼすかもしれません。

最短での今後のスケジュール。2016年末の小浜京都ルートの採用時ほどでないにしても、2024年末には3案のどれが採用されるかが話題を集めるはずです(資料:国土交通省鉄道局、鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

「一日も早い全線開業を」(斉藤国交相)

最後は報道の範囲ですが、今回の延伸ルート案公表を受けた関係機関トップのコメントを。

斉藤鉄夫国土交通大臣は、2024年8月8日の会見で「(与党PTの)整備委員会からは、2025年度予算の概算要求で北陸新幹線敦賀~新大阪間の新規着工に必要な経費を事項要求するよう要請されている。北陸新幹線は、地方創生や国土強靱化などの観点から重要と考える。国交省としては、一日も早い全線開業に向けて取り組んでいきたい(大意)」と早期着工に意欲を示しました。

大臣発言にある事項要求とは、概算要求で金額を示さず「北陸新幹線敦賀~新大阪間の整備」という事業項目を要求することです。

直接の沿線とはいえませんが、関係自治体で積極的な発言が目立つのが石川県です。

冒頭では、馳知事のぼやきのようなコメントを紹介しましたが、同じ会見では、国交省からルート案公表に当たって必要な説明がなかったことを疑問視。国に財源やデータについての追加説明を求める姿勢を示しました。

石川県内には、小浜京都ルートよりコストをかけずに建設できる米原ルートを推す声が相応にあり、馳知事はそうした地元に配慮したとの見方もあります。

京都府や京都市の見解は今のところ不明です。京都市民には地下水系に影響を与えかねない北陸新幹線の京都(地下)駅に懐疑的な見方もあるとされますが、京都市中心部でのトンネル区間は地下水に影響を与えないシールドトンネル工法を採用します。

いずれにしても、与党PTが沿線自治体や経済界、JR西日本などの見解をヒアリングして、どのように成案を絞り込むのかが年末に向けた注目点といえるでしょう。

東海道新幹線とJR在来線、近鉄京都線、京都市営地下鉄烏丸線が集まる京都駅。北陸新幹線京都駅は既設線を避けて地下に整備されます(写真:PIXSTAR / PIXTA)

記事:上里夏生

【関連リンク】