2019年9月の京急踏切事故 運輸安全委の調査報告書まとまる 再発防止策を現地に見る

2021.03.06

複数の要素が重なって重大事故に

私が現場で強く感じたのは、複数の要素が重なって事故に至ったということです。線路西側の側道から見て、踏切を渡った右側は100mほどで国道15号線、左側は京急の車両基地につながります。踏切自体は十分な道路幅がありますが、側道が狭いので、大型車は頭を相当前に出さないと右左折できません。側道を踏切と反対側に左折する手もありそうですが、脇道の角に一方通行の道路標識があり、大型車は車体が当たります。事故と関係あるかどうか分かりませんが、2019年9月の現場訪問時、標識は途中から曲がっていました。

トラックが直進した側道。報告書によると道幅3.7mで大型車の通行は厳しそうです。突き当りが神奈川新町駅ですが見通しは利きません。(筆者撮影)

写真は踏切を渡り切った反対側から写したカットで、遮音壁にさえぎられていますが、4階建てマンションと遮音壁の間が脇道です。大型車は何回も切り返さないと、曲がり切れないことがお分かりいただけるでしょう。

次に側道を200mほど横浜方面に戻ってみました。ここに京急線をくぐるアンダーパスがあり、横浜方面から側道を直進してきた車は、多くが右折して線路反対側に抜けます。トラックも右折してアンダーパスをくぐれば事故は起きなかったはずですが、直進してしまった。ドライバーはアンダーパスに荷台が引っ掛かると思い、右折をためらったのかもしれません。

ドライバーを迷わせた可能性がある道路標識。先方はJR東神奈川駅で高さ制限に引っ掛かるトラックは本来ならUターンしなければならないのですが、少々分かりにくいかもしれません。

次の写真は側道のアンダーパス付近から前方の神奈川新町駅方向を写したもので、道幅は十分といえないものの、トラックも何とか通行できそうに見えます。側道はやや曲がっているので駅方向の見通しは利かず、突き当りで右左折が困難というのは手前からは良く分かりません。

側道の手前部分(東神奈川駅方向)。前方の乗用車が右折しているのが京急のアンダーパスで、2.3mの高さ制限があります。トラックは高さ3.79mで、ここまで来ると直進しか進路はなかったことになります。(筆者撮影)

もしアンダーパス手前に、「この先道狭し。大型車は右左折困難」の注意書きがあれば、ドライバーは直進をあきらめ事故にならなかったかもしれません。事故後、一部に「警察は事故を受けて脇道を大型車通行禁止にする」の記事もありましたが、そうした規制や「この先の踏切で事故発生」の注意書きは見当たりませんでした。

事故を受けて新設されたと思われる道路標識。あくまで個人的見解ですが、赤色の矢印だと進行方向を指示するのか禁止なのか迷いそうな気もします。

ドライバーはパニック状態に

報道で気になったのは、トラックドライバーが事故歴のないまじめな人だったという点。そんな人が抜き差しならない事態に陥ったら、どんな心境になるのか。恐らく相当なパニック状態だったはずです。

ここで思い出したのが、ベテラン登山ガイドが荒天の山で遭難した話。救出されたガイドは「何十回も登山している山でまさか道に迷うとは……」と話していました。事故を起こしたドライバーがそうだったというつもりはありませんが、今回の報告書でも明らかになったように、鉄道、自動車どちらかの努力だけでは事故を防ぐのは難しい。鉄道と自動車の双方がさらなる創意工夫を重ね、踏切事故ゼロを目指してほしいと改めて感じました。

踏切事故は年間200件以上発生

踏切事故は鉄道の連続立体交差化などで年々減少していますが、それでも年間211件(2019年度)も発生しています。行政は踏切事故防止をどう考えるのか。参考になるのが、少し前になりますが国の運輸安全委員会が2016年に公表したニュースレターです。

リポートでは、運輸安全委が調査を手掛けた37件の傾向を解析しました。「列車が通過する直前の踏切に進入」、そして今回の事故にも共通する「トラックやバスが踏切を渡り切れず、車体後部に列車が衝突」が代表的なパターンです。これらを総合して、運輸安全委は事故防止のポイントを「踏切手前では必ずいったん停止、法規を守って通行する」に集約しています。

今回の事故後、安全システムの不備などが報じられましたが、すべては後付けの話。事故防止に「たら」「れば」は禁句かもしれませんが、「ドライバーが無理に脇道を進行しなければ」「トラックが切り返している時点で誰かが非常ボタンを押せば」事故は防げたはずで、その点で「いくらシステムが進化しても、人こそが安全の最後の砦」と改めて実感させられました。

文/写真:上里夏生


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