2019年9月の京急踏切事故 運輸安全委の調査報告書まとまる 再発防止策を現地に見る
複数の要素が重なって重大事故に
私が現場で強く感じたのは、複数の要素が重なって事故に至ったということです。線路西側の側道から見て、踏切を渡った右側は100mほどで国道15号線、左側は京急の車両基地につながります。踏切自体は十分な道路幅がありますが、側道が狭いので、大型車は頭を相当前に出さないと右左折できません。側道を踏切と反対側に左折する手もありそうですが、脇道の角に一方通行の道路標識があり、大型車は車体が当たります。事故と関係あるかどうか分かりませんが、2019年9月の現場訪問時、標識は途中から曲がっていました。

写真は踏切を渡り切った反対側から写したカットで、遮音壁にさえぎられていますが、4階建てマンションと遮音壁の間が脇道です。大型車は何回も切り返さないと、曲がり切れないことがお分かりいただけるでしょう。
次に側道を200mほど横浜方面に戻ってみました。ここに京急線をくぐるアンダーパスがあり、横浜方面から側道を直進してきた車は、多くが右折して線路反対側に抜けます。トラックも右折してアンダーパスをくぐれば事故は起きなかったはずですが、直進してしまった。ドライバーはアンダーパスに荷台が引っ掛かると思い、右折をためらったのかもしれません。

次の写真は側道のアンダーパス付近から前方の神奈川新町駅方向を写したもので、道幅は十分といえないものの、トラックも何とか通行できそうに見えます。側道はやや曲がっているので駅方向の見通しは利かず、突き当りで右左折が困難というのは手前からは良く分かりません。

もしアンダーパス手前に、「この先道狭し。大型車は右左折困難」の注意書きがあれば、ドライバーは直進をあきらめ事故にならなかったかもしれません。事故後、一部に「警察は事故を受けて脇道を大型車通行禁止にする」の記事もありましたが、そうした規制や「この先の踏切で事故発生」の注意書きは見当たりませんでした。

ドライバーはパニック状態に
報道で気になったのは、トラックドライバーが事故歴のないまじめな人だったという点。そんな人が抜き差しならない事態に陥ったら、どんな心境になるのか。恐らく相当なパニック状態だったはずです。
ここで思い出したのが、ベテラン登山ガイドが荒天の山で遭難した話。救出されたガイドは「何十回も登山している山でまさか道に迷うとは……」と話していました。事故を起こしたドライバーがそうだったというつもりはありませんが、今回の報告書でも明らかになったように、鉄道、自動車どちらかの努力だけでは事故を防ぐのは難しい。鉄道と自動車の双方がさらなる創意工夫を重ね、踏切事故ゼロを目指してほしいと改めて感じました。
踏切事故は年間200件以上発生
踏切事故は鉄道の連続立体交差化などで年々減少していますが、それでも年間211件(2019年度)も発生しています。行政は踏切事故防止をどう考えるのか。参考になるのが、少し前になりますが国の運輸安全委員会が2016年に公表したニュースレターです。
リポートでは、運輸安全委が調査を手掛けた37件の傾向を解析しました。「列車が通過する直前の踏切に進入」、そして今回の事故にも共通する「トラックやバスが踏切を渡り切れず、車体後部に列車が衝突」が代表的なパターンです。これらを総合して、運輸安全委は事故防止のポイントを「踏切手前では必ずいったん停止、法規を守って通行する」に集約しています。
今回の事故後、安全システムの不備などが報じられましたが、すべては後付けの話。事故防止に「たら」「れば」は禁句かもしれませんが、「ドライバーが無理に脇道を進行しなければ」「トラックが切り返している時点で誰かが非常ボタンを押せば」事故は防げたはずで、その点で「いくらシステムが進化しても、人こそが安全の最後の砦」と改めて実感させられました。
文/写真:上里夏生