狭い側道から何回も切り返して踏切へ

報告書や報道を総合すると、発生は2019年9月5日11時43分ごろ。京急本線神奈川新町ー仲木戸(2020年3月「京急東神奈川」に駅名変更)間の神奈川新町第1踏切で、大型トラックの側面に青砥発三崎口行き下り快特(8両編成)が衝突しました。トラックは大型車で、線路脇の細い側道から右折で踏切に進入。一度で曲がり切れず、何回も切り返していたとの目撃談も多数あります。

神奈川新町には京急の車両基地があり、たまたま現場に居合わせた京急社員が非常ボタン(支障報知装置)を押したらしいのですが、一瞬間に合わなかった(報告書にも記載あり)。事故を防げる機会もあったわけで、残念なことです。

東京(品川、渋谷)―横浜間には京急のほか、JR東日本(東海道線、京浜東北線、横須賀線)と東急が走り、鉄道3社、特に並行する京急とJRは厳しい競争関係にあります。現場付近の京急は最高時速120㎞区間ですが、ゆっくり走ってというのは無理な注文でしょう。

複雑な線路配置

現場付近の特発と場内信号機の位置関係。500m足らずの区間に特発と信号機が連続します。 画像:運輸安全委

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運輸安全委の資料で、現場付近の信号や特発の位置関係を確認しましょう。神奈川新町には車両基地があり、基地に入るための渡り線が入り組んでおり、それぞれに場内信号があります。神奈川新町駅と北隣の子安駅にはそれぞれ待避線があり、優等列車が普通列車を追い抜きます。今回改めて気付いたのですが、子安―神奈川新町間の上り線は複々線のようになっています。

神奈川新町第1踏切の異常を知らせる特発は図のように3ヵ所あり、一番最初は踏切の約570m手前。列車が最高速でも、全制動でブレーキを掛ければ517.5mで止まれるそうなので特発の位置には問題ありません。

踏切の映像記録では、トラックは衝突の63秒前に側道から踏切に進入、切り返しを繰り返して、56秒前には上り線の線路をふさぎました(衝突したのは下り線)。11秒後の44秒前には踏切が鳴り始めて遮断機が降り、その後ようやくトラックは動ける状態になったのですが、踏切を抜け出す前に列車が衝突しました。

踏切手前で列車は止まれていた?

あくまで理論値ですが、遮断機が降り始めた衝突44秒前には列車は踏切手前1290m地点。最初の特発より前方で、本来なら列車は踏切手前で十分に停止できたというのが、運輸安全委の見解です。それなのに、なぜ運転士はブレーキを掛けなかったのか。報告書によると、架線柱などで特発が瞬間的に見えにくい場面があったというのです。

運転士は踏切の422m手前で常用ブレーキ、244m手前で非常ブレーキを掛けましたが、非常ブレーキでも停止には477m必要で、結果的に事故は防げなかった。

特発のクローズアップ写真。確かに架線柱が入り組んでいて、見えにくいように思えます。 画像:運輸安全委

報告書の指摘はその通りだと思いますが、私が現場で最初に疑問を抱いたのは、「大型トラックが、なぜ狭い側道に入り込んでしまったのか」でした。トラックが踏切で立ち往生しなければ、事故は起きませんでした。ドライバーが事故で亡くなったので真相は不明ですが、報告書は後半部分で「本件トラックに関する分析」を試みています。