写真:石(@ishi_ae86) / PIXTA

〝地域のふれあいパートナー〟をモットーに、茨城県南西部に常総線と竜ヶ崎線の2つの路線を持つ鉄道会社、それが関東鉄道(関鉄)です。一昔前、筑波山を遠望する水田地帯が広がっていた沿線は、最近になって開発が進み、地方ローカル線から都市鉄道へと変ぼうを遂げつつあります。

関鉄が最近、力を入れるのが鉄道ファンや沿線の人たちを意識したイベント。2021年に入ってからも、「日本酒列車」(2月27日)、「竜ヶ崎線龍ケ崎市民遺産説明板除幕」(4月8日)、「国鉄ホキ800形ホッパ車さよなら撮影会」(5月16日、6月5日)と話題が途切れることはありません。コロナ禍で落ち込む輸送実績のばん回を目指した催しの多くは、関鉄の現場社員が知恵を絞って編み出したとのこと。関鉄の歴史や近況を紹介します。

創業56年、でも本当は99年?

関鉄の発足は1965年6月で、2021年に56周年を迎えました。「意外と新しい鉄道だな」と思われた方もいらっしゃると思いますが、関鉄の会社案内には1922年という創業年も記載されます。1922年は前身の一つの鹿島参宮鉄道の設立年、1965年は鹿島参宮鉄道と常総筑波鉄道が合併して、新生・関鉄が発足した年。関鉄は若干複雑な生い立ちを持ちます。

ADVERTISEMENT

鹿島参宮鉄道は1924年に石岡―常陸小川間で営業を始め、1929年に石岡―鉾田間の鉾田線を全通させました。常総鉄道として設立された常総筑波鉄道は、1913年に取手―下館間を開業。それより古いのが竜ヶ崎線で、1900年が前身の竜崎鉄道の開業年です。茨城県の私鉄で最古、全国の私鉄でも7番目という長い歴史を持ちます(JRを除きます)。

関鉄はほかに、筑波線(土浦―岩瀬間)を加えた4路線を運行していましたが、筑波線は1987年、鉾田線は2007年にそれぞれ廃止(廃止時の筑波線は分社化されて筑波鉄道、鉾田線は同じく鹿島鉄道でした)。現在は常総線と竜ヶ崎線の2路線のネットワークです。

「龍ケ崎MaaS」始動

龍ケ崎MaaS推進協の立ち上げに参画した関係機関代表(写真:関東鉄道)

ここから、関鉄の最近のニュースを硬軟取り混ぜ、順不同で紹介します。竜ヶ崎線は佐貫―竜ヶ崎間4.5キロ、途中駅は入地だけの短い路線ですが、話題が続きます。2021年6月4日、「龍ケ崎MaaS推進協議会」が設立されました。推進協に参加したのは龍ケ崎市と関鉄のほか、龍ケ崎市商工会、流通経済大学、茨城県立竜ヶ崎第一高校、同竜ヶ崎第二高校の6者です。

※竜ヶ崎は「龍ケ崎」と「竜ヶ崎」の表記が混在します。本稿は資料に従いました。

交通の総合情報基盤・MaaSに関しては、本サイトにも多くのニュースが掲載されますので説明は不要でしょうが、〝龍ケ崎MaaS〟は商業・観光振興による市内外交流人口の拡大、持続可能な公共交通の確立、生徒・学生の学習機会提供、市民の交流機会確保を目指します。

注目したいのは学習機会提供で、MaaSに大学や高校が加わるのは珍しいかもしれません。流経大は日本通運系列で、鉄道業界にも多くの人材を送り出します。竜ヶ崎一高と二高は、生徒の多くが通学に竜ヶ崎線を利用することもあって、関鉄との関係は良好です。

龍ケ崎市には自然豊かな牛久沼、火除大祭で知られる来迎院、天然温泉・湯舞音といったスポットがありますが、関鉄やJR常磐線からのアクセスには二次交通が必要。MaaSで乗り継ぎを便利にして来訪客を増やす考えで、2021年11~12月の実証実験を予定します。

茨城県私鉄最古の竜ヶ崎線を市民遺産に

龍ケ崎市民遺産の説明板除幕式。龍ヶ崎駅には2020年8月の竜ヶ崎線開業120周年に合わせて公共施設などが整備されました。(写真:関東鉄道)

龍ケ崎MaaSの前段になるのが、2021年1月に決まった竜ヶ崎線の龍ケ崎市民遺産認定。歴史の長さに加え、かつて肥料や米、まゆ、石炭といった貨物を輸送、龍ヶ崎の産業振興に貢献した点が高く評価されました。

4月8日には、竜ヶ崎駅前に設置された市民遺産の説明板を除幕。龍ケ崎市教育委員会の木村博貴教育部長は「鉄道は、龍ケ崎の価値を高めている。市民遺産認定を機に、改めて〝龍ケ崎のお宝〟として存在感を高めてほしい」とエール。関鉄の宮島宏幸常務は、「竜ヶ崎線が市民遺産に認定されてうれしく思う。路線維持のため、引き続きのご利用をお願いしたい」と答えました。