迷うことなく非常ボタンを押して!

鉄道技術展では、ほかにもさまざまな講演がありました。ここでは国土交通省の江口秀二大臣官房審議官(鉄道)の「鉄道技術行政における新たな課題への対応」、そして鉄道総研の渡辺郁夫理事長の「COVID-19を乗り越えて:鉄道の未来を創る研究開発」の2件を、ポイントだけですがまとめます。

国交省の鉄道行政は、新幹線ネットワークの方向性を考えたり、技術開発を主導したりと重要な役割があるのですが、それとは別に難題が次々に降りかかります。最近でいえば列車内のセキュリティー。詳細は省きますが、小田急電鉄や京王電鉄で発生した不幸な事件は鉄道利用客に衝撃を与えました。

国交省と事業者が共同で取り組むのは、「警備の強化」や「被害回避・軽減対策」。最近の鉄道車両は、技術基準省令で非常通報装置の設置を義務化しますが、ボタンの場所が車両ごとに違うのが悩ましい点です。

ADVERTISEMENT

江口審議官は、一般利用客へのメッセージとして「列車に乗ったら、非常通報装置がどこにあるか確認してほしい」、「万一、非常事態に遭遇したら、迷うことなくボタンを押してほしい」と要請しました。輸送の安全を守るのは、ある意味では利用客一人ひとり。安全・安心を早期に取り戻し、心配なく列車に乗れる日が来ることを願うばかりです。

未来の鉄道へのメッセージ

鉄道総研の渡辺理事長の講演からも抜粋。コロナ禍で志向する技術開発の方向性を、「未来の鉄道へのメッセージ」と表現しました。コロナでクローズアップされた鉄道の安全・安心をレベルアップして、レガシー(遺産)化する思いが読み取れます。

実践例が、「デジタル技術革新プロジェクト」。鮮明な画像を撮影できる4Kカメラを用い、昼間に300メートル先の人物を90%以上の確率で認知、運転士をサポートします。

以上が鉄道技術展2021で見聞した、未来の鉄道に向けたメッセージの初回分で、少々堅い話になった点はご容赦を。

次週の中編は、鉄道ファンの皆さんにも興味を持っていただける話題として、7回目の「レイルウェイ・デザイナー・イブニング」を報告します。タイトルを先出しすれば、「どうして鉄道は人を惹(ひ)きつけるのか~技術だけでは語れない鉄道の魅力を探る」。次回も、ぜひご覧下さい。

記事:上里夏生(写真は全て筆者撮影)