地方圏ではマイカーがないと生活できない

まずは、地球環境問題。国土交通省の2019年度データでは、運輸部門の二酸化炭素(CO2)排出量は2億600万トンで、全体の18.6%。モード別では自動車が86.1%で、鉄道の3.8%とは大差がつきます。確かに鉄道は環境にやさしい移動手段ですが、「マイカーをやめて鉄道を利用すべき」の理想論には無理もあります。日本の、特に地方圏はマイカーがないと生活できません。

そこで登場するのがMaaS。鉄道とマイカーやバスをシームレスにつなぎ、「交通の総合情報基盤」と表現されるMaaSについて、小縣顧問は「競争を協調に変えるパートナー」と表現しました。

MaaSの底力。本サイトをご覧の皆さんなら、鉄道で1分(象徴的な短時間のこと)時間短縮するには、相当の設備投資や車両・施設改良が必要ということは、感覚的にご理解いただけると思います。しかし、乗り換え時間の1分短縮なら比較的容易。駅を降りて乗り換えのバス停を探し、きっぷを買って乗車する。これがスマホを読み取り機にかざすだけなら、Suicaのネーミングの由来にもなった「スイスイ移動」でバスに乗れます。

「明日、仙台へ」、スマホに話しかける

小縣顧問は、こんな話もしていました。近未来の東京から仙台への出張。夜寝る前、スマートフォンに「明日、仙台に行くよ。東京駅10時発。宿泊は仙台市内のホテル」と話しかけると、翌日はスマホをかざすだけで仙台までスイスイ。いつ実現するかはともかく、日本最大の鉄道会社がこうした着想を持つことは、心に留め置きたい点です。

フタコブラクダより長方形!?

続いて、講演からキーワードを2つ。1つは「レクトモデル」。レクトはレクタングル、長方形のことです。電車は横から見ると長方形……という話ではなく、輸送のピークをならす平準化を意味します。鉄道の1日の輸送量を折れ線グラフ化すれば、朝と夕方のラッシュ時に2つの山ができるフタコブラクダ状ですが、これをなるべく平準化してコブをなくし、長方形に近づける。

JR東日本の2021年4~9月の利用状況。定期客はコロナ前の7割程度まで戻っていますが、新幹線や在来線特急は3割前後で、長期化した緊急事態宣言の影響が色濃く表れます=小縣顧問の講演資料から=

鉄道会社は輸送のピークにあわせて車両や乗務員を用意するわけで、ピークをならせば、車両や乗務員は今より少なくて済む。世上をにぎわす時間帯別運賃も、本当の目的はレクトモデルの実現にあります。

プラットフォーマーツールとしてのSuicaやMaaS

2つ目は、「プラットフォーマー」としてのJR東日本。企業と利用者をつなぐ情報基盤の提供を意味し、代表例がSuicaです。電車に乗れる便利なICカード乗車券というのは当たり前ですが、最近はビルの入退館や社員証代わりになります。MaaSも、有力なプラットフォームツールです。

そういえば小縣顧問が挙げたJR東日本の針路には、「Beyond Green Rail」のフレーズもありました。意訳すれば、「環境にやさしい鉄道のその先へ」といったところ。JR東日本の経営が厳しい状況にあることは事実ですが、小縣顧問の講演、そして鉄道技術展2021への出展内容からは、将来展望をしっかり持っていることを確認できました。

JR東日本は、電力の自社供給にも取り組みます。首都圏に限れば、既に自前の電力で列車を運行。目標は、「つくる(発電)」、「送る・貯める(送電・蓄電)」、「使う(鉄道、駅ビルなど)」の最適化です=小縣顧問の講演資料から=