2018年の東北沢―和泉多摩川間複々線化でスピードアップ

小田急ロマンスカーの売りは、何といっても前方眺望。EXEαには前面展望席はありませんが、ワイドに視界が広がります

そんな感傷に浸る間もなく、ロマンスカーは新宿駅を発車。小田急といえば、2018年3月のダイヤ改正で東北沢―和泉多摩川間(10.4キロ)の複々線化が完成し、列車増発をはじめ輸送力が大幅に強化されたのが記憶に新しいところです。実はこの時、小田急は複々線区間に隣接する新百合ケ丘―向ケ丘遊園間の運転方法を見直し。各駅停車の合間をぬって走る特急や急行が、極力速度を落とさずに済むようにダイヤを組み直しました。

その効果もあって、EXEαは新百合ヶ丘、相模大野、本厚木、秦野、小田原と快走を続け、小田原から箱根登山鉄道に入り、1時間40分ほどで終点の箱根湯本に到着。最近の座席指定列車では半ば当たり前になっていますが、着席情報は車掌さんの携帯端末に伝達されるので車内検札はなく、その点も快適性を高めます。

ロマンスカー終点で登山鉄道が発車する箱根湯本駅は、観光地の玄関口らしいおもむきある駅舎。構造は橋上駅で、コンコースなどは2階にあります。小田急は1950年から箱根湯本への乗り入れを始めました

スマホ一台で箱根旅行が完結

箱根湯本では、ホーム反対側に停車する箱根登山鉄道に乗り継ぐのですが、その前に今回の箱根紀行の主な目的・観光型MaaSを紹介しましょう。「交通の総合情報基盤・MaaS」というのは、あくまで教科書的な表現で、実際には「スマホ一台で箱根旅行が完結」と言い切った方が理解しやすい気もします。

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観光型MaaSの新しい機能では、小田急箱根ホールディングスの観光情報サイト「箱根ナビ」を、大幅にリニューアル。13種類ものチケットが、スマホ操作で購入・決済(支払い)できるようになりました。

購入できるのは2020年10月スタート時点で、「デジタル箱根フリーパス」、登山電車・ロープウェイ「デジタル大涌谷きっぷ」、登山バス・海賊船「デジタル芦ノ湖きっぷ」、箱根登山電車1日乗車券「デジタルのんびりきっぷ」などなど。次いで2021年11月には「デジタル芦ノ湖ライナー」、翌12月には「箱根遊び放題チケット(はこチケ)」が加わり、使い勝手が一段と向上しました。

マイカー派も取り込む観光型MaaS

ここでワンポイント、注目したいのが2021年10月から発売中の「デジタル箱根のりものパスLite」です。乗り物パスのターゲットは、ずばりマイカー客。箱根をマイカーで訪れる観光客が登山電車やロープウェイ、観光船に乗るというと若干の違和感を覚えるかもしれませんが、これには箱根の交通事情が関係します。全国有数の観光地・箱根は、春秋の観光シーズンなどに道路が大渋滞。マイカーでは、身動きが取れなくなります。

「デジタル箱根のりものパスLite」で、マイカー駐車場が用意される箱根町港。芦ノ湖では海賊船が出港を待ちます。海賊船を運航する箱根観光船は小田急箱根ホールディングスの完全子会社です(写真:小田急箱根ホールディングス)

そこで、観光船(海賊船)が出港する箱根町港にクルマをとめて、渋滞しらずの観光船で桃源台へ。桃源台からはロープウェイ、ケーブルカー、登山鉄道を乗り継いで宮ノ下で下車。さらに路線バスで箱根町港に戻り、小田原や御殿場、三島といった次の目的地にマイカーで向かうのが、小田急が想定する観光ルートです。

のりものパスLiteの周遊ルート。時計回りに限定するのは、小田急や登山鉄道を乗り継いで芦ノ湖に向かう観光客が強羅→桃源台→元箱根港のルートをたどるためで、マイカー客には逆コースで移動してもらい利用均衡化をめざします(資料:小田急箱根ホールディングス)

ロープウェイや登山鉄道は、箱根の旅に変化をつけるワンポイント。MaaSのニュースでは私自身、「MaaSは通常ならライバル関係のマイカーと、鉄道やバスの公共交通機関をパートナーに変える情報ツール」と書いたりするわけですが、のりものパスは、まさにその表現通り。オミクロン株で時間はかかるかもしれませんが、観光型MaaSは箱根にやってくる外国人観光客にも有効な情報ツールになりそうです。