東武新型特急「スペーシアX」に採用される、ガラス一体型LCD(液晶ディスプレイ)表示器「彩 Vision」
2023年7月15日デビュー予定の東武新型特急「スペーシアX」イメージ(画像:東武鉄道)

東武鉄道が2022年7月半ばに行った新型特急「スペーシアX」の記者発表会では、同車両に備わる座席や設備なども一部展示されていました。その中でもひときわ記者陣の目を引いたのが、交通電業社のガラス一体型LCD表示器「彩 Vision」です。

「彩 Vision」は、外側のガラス面とLCD表示器との間の空気の層をなくす独自のボンディング技術を採用したことで、光の反射を減らし、広範囲で行先表示や動画を視認できるのが特徴。画面サイズも様々で、両面表示できるタイプも存在します。

ガラス一体型LCD表示器「彩 Vision」の特長 反射を抑えることで広範囲で視認できます(画像:交通電業社)

また、独自の薄型制御基板を搭載した「薄型モデル」、電源を内蔵した「一体型モデル」、独自開発の高輝度LCDモジュールを採用した「高輝度モデル」があり、薄型モデルは最小の21.5インチで厚さ17ミリ 重量5.5キロ、最大サイズとなるストレッチ42インチでも厚さ32ミリ 11.5キロと薄型・軽量を誇ります。

行先や号車番号などを詳細に動的に表示することができるだけでなく、画面を分割して左側に行先や号車番号を残したまま右側に映像だけ流すといったことも可能です。「幕回し」を録画するような筋金入りの鉄道ファンならずとも、目まぐるしく切り替わる表示には惹きつけられることでしょう(もちろん、どのような映像を流すかは運行する会社によるのでしょうが)。

「スペーシアX」ではデッキ部の天井にも設置

「彩 Vision」は2021年1月31日から運行を開始した「京阪3000系プレミアムカー」でも採用実績があり、「スペーシアX」での採用は2例目。「スペーシアX」では薄型・高輝度タイプの側面表示器(行先表示器)だけでなく、ストレッチ42インチ 薄型タイプの天窓表示器がデッキの天井に設置される予定です。

天窓表示器の1編成あたりの導入数は不明ですが、少なくとも「1編成に複数台設置される計画」(交通電業社)だそう。明言はできませんが、たとえば最上級の「コックピットスイート」のきっぷを買わないと天井の「彩 Vision」が見られない……なんてことにはならなさそうです。

「スペーシアX」への採用についての率直な感想は「大変うれしく思っております。『スペーシアX』をご利用されるお客様の利便性を少しでも向上し、旅に彩りを添えられることを期待致しております」――乗車の際は車外表示器やデッキ部の天井にも注目したいですね。

ローコストな「彩 Vision」も開発、海外含め「販路拡大に取り組む」

従来の車外表示器と比較すると、「彩 Vision」はハイスペックで高級路線の製品です。交通電業社によれば「特注の部品などを使っていることもあり、弊社の従来表示器と比較すると価格は高く」なっているそうです。

となると搭載車両は自ずと各社フラッグシップ特急などのハイグレードな車両に限られますが、「京阪3000系プレミアムカー」や「スペーシアX」のような車両はそう頻繁に製造されるものではありませんし、新型コロナウイルスの影響で新型車両の導入計画も揺れているなか、「彩 Vision」を売り込むハードルはかなり高そうに思われます。

そのあたりの事情をお伺いしたところ、気になる新情報が……実は同社では「国内外の通勤型車両でもご採用いただくことを想定しており、標準部品を使って内製化した安価な『彩Vision』を既に開発しています」とのこと。また、同社の取引先はこれまで関西の鉄道事業者が中心でしたが、「『彩 Vision』はグローバルに販売して参ります」「海外への販路も含め、販路拡大に取り組んでいます」と意欲的なご回答をいただきました。

現時点では京阪3000系プレミアムカーにしか搭載されていない「彩 Vision」は、鉄道ファンでも「知る人ぞ知る」「日本国内のハイグレードな車両に搭載されるLCD表示器」ですが、今後の展開次第では数年~十数年で「見慣れたもの」になっていくかもしれませんね。