「聞こえが悪いと『うつ』や社会的孤立も」

「補聴器は身体の一部、自分と世界をつなぐ希望」

「補聴器を知的機能が向上した」

「加齢性難聴を予防するために、日常生活でできること」

―――そんな「聞こえ」についての貴重な情報を、専門家が教えてくれた。

補聴器の普及促進を行う日本補聴器工業会は9月16日、「きこえのケアを広めて会話を健やかに」セミナーを開催。

日本補聴器工業会 成沢良幸 理事長、愛知医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学 特任教授 内田育恵 先生、そして司会者・エッセイストなどマルチに活躍する楠田枝里子が登壇し、高齢者にとっての「聞こえのケア」の大切さや、「聞こえのケア」によって得られる効果などについて伝えた。

成沢良幸 理事長「補聴器の貢献をより高めて」

「日本補聴器工業会は、国内に補聴器を供給するメーカーの集まりで、現在、国内・海外のメーカー合わせて11社が加盟して、補聴器の普及促進と適正な供給に努めております。

今回は「聞こえのケア」をテーマに、難聴の方々に対する補聴器の貢献をより高めて、超高齢社会においても会話を健やかに維持できる社会の実現のために情報提供をさせていただきたいと思っています」

楠田枝里子「補聴器は体の一部、自分と世界をつなぐ希望」

「私にとって、補聴器は、とても身近なものです。古い記憶では、祖父が使用していて、孫たちとの会話を楽しんでいました。

その後から現在に至るまで、私の多くの友人たちが補聴器を使って生き生きと活動を続けています。彼らにとって補聴器は体の一部であり、自分と世界をつなぐ希望であった、と感じています。

私ももう高齢者ですので、メガネなしでは新聞も読めません。老眼鏡と同じように、いずれ補聴器を使う日が、訪れるでしょう。

補聴器は私にとって、人間の生活を便利に豊かにしてくれる、すばらしい発明品ですね」(楠田枝里子)

内田育恵先生「聞こえが悪いと『うつ』や社会的孤立も」

「そもそも「難聴」とは、音や言葉が聞き取りにくいことをいいます。その中でも年齢とともに聞こえにくさを感じる難聴を老人性難聴、または加齢性難聴といいます。

聴力の低下は高音域から起こりますが、会話を構成する音の音域は比較的高齢になるまで保たれます。

年を重ね70歳代になると、男性で5-6人に1人、女性で10人に1人程度の方が日常生活に不便を感じる程度の難聴になるといわれています。

同年代でも男性のほうが、女性に比べて聴力が悪い傾向があります。耳が聞こえにくくなってくると聞き返すことに引け目を感じ、コミュニケーションを
取ることを避ける方がいらっしゃいます。

聞き取りに自信がないと、自分から話し掛けることすら消極的になり、「うつ」や「社会的孤立」といったメンタル面の不調に結びつくとも考えられています。

周囲とのコミュニケーションを取って安心した生活を送るためには「きこえのケア」がとても重要になってきます」(内田育恵先生)

内田育恵先生「交際・活動範囲が狭くなる前に、聞こえのケアを」

「私たちの調査で、「きこえが悪いために家族と口論になることがありますか」「聞こえが悪いために家族と話したいのにやめてしまうことがありますか」、または「親戚や友人を訪問したいのに、聞こえが悪いためにやめてしまうことがありますか」、これらの質問に「ある」と答えたシニア難聴者は少なくありません。

BGMの流れる喫茶店で、3-4人で会話するのは苦手、趣味の教室で先生の説明が聞き取れないのでやめてしまうといった経験も聞かれます。交際範囲や活動範囲が狭くなる前に、聞こえのケアは早めから対策を行うことが重要です」(内田育恵先生)

楠田枝里子「カッコよくて目立つ補聴器もアリ」

「AIを導入し、ユーザーが必要とする情報(音声)を選択するという脳の機能を手助けすることが可能になったら、補聴器はなおいっそう魅力的なものになりますね。

それから、「補聴器」という呼び名にも、バラエティを持たせたいですね。

「眼鏡」だと、タイプによって「サングラス」「ルーペ」などの呼び名があり、日常生活のなかに溶け込んでいます。カッコイイね、と思わせるネーミングが、そろそろ生まれてもいいですよね。

さらに、「カッコイイね」と褒められるデザインの補聴器が誕生したら、みなさん使いたがるでしょう。

これまでの補聴器は、なるべく目立たないように地味に作られていた印象がありますが、思いきって、「カッコよく目立つ」補聴器も、アリではないでしょうか? たとえば、私が大きなイヤリングを付けるみたいに。

超高齢社会で、いずれみんながお世話になるのですから、楽しむアイテムとしての補聴器も、これから必要になるのではないでしょうか」(楠田枝里子)

内田育恵先生「ヨーロッパではアクセサリーのように補聴器を選ぶ」

「そうですね、補聴器のカラーバリエーションも、ビビッドで美しい発色の展開が増えています。

肌の色や髪の色にあわせて目立たなくするという考え方から、すでにヨーロッパではアクセサリーのように「魅せる補聴器」としてデザインを選ぶユーザー
も増えていると聞いています。

補聴器がもっともっと世の中に普及していくためには、ネーミングや、日常の生活に溶け込ませる工夫なども必要かもしれませんね。

もちろん、たくさんの方に「きこえのケア」の重要性を知っていただくこがとても大切です」(内田育恵先生)

内田育恵先生「補聴器を使うことで知的機能が向上した」

「私は、2019年まで共同研究で補聴器による認知機能維持の可能性について研究を行い、2021年に論文報告しました。

私が所属する愛知医科大学と名古屋市立大学、岡山大学、九州大学、信州大学、慶應義塾大学、帝京大学溝口病院の7大学病院共同で行ったものです。

これは、60歳以上の補聴器使用歴のない難聴者を対象に、補聴器導入前および使用6カ月後の比較を行い、難聴によるハンディキャップをはじめ、日常の遂行機能や社会活動性への影響を解析したものです。

この結果、高齢難聴者の多くは、「聞こえにくさ」に理解があるはずの家族や親族との関係でさえも支障を感じており、補聴器を使用することで、こうした問題が改善される可能性を見出しました。

また平均76.9歳の補聴器初心者が6ヶ月補聴器を日常使用したあと、成人知能検査のひとつでもある数字符号置換検査の得点が向上したという結果も得られました。

数字符号置換検査は、数字に対応する記号のサンプル表をみながら、数字だけが提示されたテスト用紙に、できるだけ多くの記号を正確に制限時間内に書き込む検査法です。

さまざまな知的機能を必要とする評価法ですが、聞きとりの能力は求められません。それにもかかわらず、補聴器を6か月使ったら得点が良くなったのです。

76.9歳といえば、一般的な加齢変化としてはあらゆる知的機能が低下していく年齢層で、その世代の方々に「知的機能が向上した」という結果を得ることができたことは、大変貴重な成果であったと考えています」(内田育恵先生)

内田育恵先生「補聴器の必要性について耳鼻咽喉科医師と相談を」

「難聴と認知機能の低下には、さまざまな説があります。音は耳から入力されますが、会話や聞こえの情報処理は脳で行われています。

加齢により数が減った内耳の感覚細胞は、残念ながら再生することはありません。

ですが、音声を処理したり、言葉の意味を理解する役割をしている脳は、活用することで機能が改善すると考えられます。

ここで、ご自身の聞こえの力に衰えを感じる方には、次の3つをお勧めします。

1:耳鼻咽喉科で難聴の原因を正しく診断してもらう

2:補聴器の必要性について耳鼻咽喉科医師と相談する

3:人とのコミュニケーションを維持し、脳の働きを活発にする

聞こえにくさに何も対策をとらず、人との交流に消極的になったり、いままで行っていた活動をあきらめてしまったりすることこそが、脳の情報処理活動の機会を減らし、認知機能の低下につながると考えられます。

交際範囲や活動範囲が狭くなる前に、聞こえのケアは早めから、です。聞こえを活用することで、脳とこころの若さを保っていきましょう」(内田育恵先生)

楠田枝里子「聴力に不安があったら、悩まず補聴器を」

「私のように、現実に高齢者になると、残りの時間を如何に生きるか、という問題になるのですね。経験上、60歳を過ぎると、否応なく体の不具合が生じてきます。これは、どうしようもないこと。

体力は勿論、集中力も持続力も瞬発力も記憶力も、著しく衰える。私はもう70歳ですから、一人前に腰痛もあります。

まずは、その現実を受け入れ、科学技術の力を借りられることがあれば、遠慮なく貸してもらいましょう。

視力が衰えてきたら、メガネがあるし、聴力に不安があったら、悩まず補聴器を使う。

まだ自分に残されている力で、何ができるか、何を選択するか、日々をどう楽しめるか、を考えることが必要かなと思います」(楠田枝里子)

内田育恵先生「加齢性難聴を予防するために、日常生活でできること」

「われわれが地域住民の方を対象に行った調査では、70歳以上の540名中、4%の方が正常な聴力を保っていました。

高齢になっても良い聴力を保つことは可能であることを示しています。

加齢性難聴を予防するために、日常生活でできることはいくつかあります。

1:大きな音への接触を避ける

2:生活習慣病(糖尿病、腎不全、心疾患、動脈硬化)を予防する

3:禁煙する

4:抗酸化作用のあるビタミンCなどを含む食生活を心がける

聞こえの力は、高齢期の自立した豊かな生活と社会参加の維持に、さまざまな面で関連しています。

これからも、とくに脳の形や脳の萎縮、人間の多面的な知的機能に、聞こえがいかに関与しているかという点に注目して、診療や研究を展開したいと考えています」(内田育恵先生)

―――聴力に不安があったら、悩まず補聴器。その詳細は、日本補聴器工業会 公式サイトをチェックしてみて↓↓↓
http://www.hochouki.com/