試運転で肥後大津に入線した南鉄MT-4000形(2023年6月の試運転時に撮影)

2016年4月の4月の熊本地震(本震)で大規模に被災し、一部区間で運休が続いていた、第三セクターの南阿蘇鉄道(南鉄)が2023年7月15日、7年3ヵ月ぶりに全線で運転を再開した。道路関係では、崩落した国道325号線の阿蘇大橋に代わる新阿蘇大橋が2021年3月に開通しており、今回の南鉄全通で主要な交通インフラの復旧が完了した。

南鉄は国鉄高森線を三セク転換した、立野―高森間17.7キロの路線。地震発生3カ月後の2016年7月、中松―高森間の運転を再開したものの、立野―中松間(10.6キロ)は運休が続いていた。

全線運転再開で注目したいのが、南鉄車両の立野で接続するJR豊肥線への直通運転スタート。南鉄の新製MT-4000形気動車が1日2往復、JR豊肥線肥後大津に直通する。

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乗り入れダイヤは、下り(肥後大津発高森行き)が7時28分と9時26分、上り(高森発肥後大津行き)が6時29分と8時26分。例えば、熊本発8時48分の肥後大津行きに乗車すると、終点での乗り換え1回で10時14分には高森に到着できる。

肥後大津は、本サイトの〈熊本鉄道紀行・後編〉でも紹介させていただいた通り、豊肥線の熊本都市圏の境界駅。熊本―肥後大津間は電化され、電車が高頻度で運行されるので、県都・熊本から南鉄沿線への心理的距離感は大幅に縮まるはずだ。

さらに、肥後大津は熊本空港とジャンボタクシー利用の「空港ライナー」で結ばれ、熊本空港→空港ライナー→肥後大津駅→南鉄沿線の観光ルート誕生にも期待がかかる。

JR豊肥線への直通列車は朝時間帯限定で、往復ともに肥後大津直行は難しいものの、熊本から少ない乗り換え回数で南鉄沿線に入れるのは朗報だ。

絶景スポットとトロッコ列車

鉄道ファンが思い浮かべる南鉄の絶景スポットといえば、立野ー長陽間の「第一白川橋りょう」。全長166.3メートルで、下を流れる白川の水面からレールまでの高さは約60メートルある。

復活した第一白川橋りょうは、今年の土木学会賞で橋りょう分野の学会賞に当たる田中賞の作品部門に選定。第一白川橋りょうまでは立野駅から約1.5キロで、徒歩による撮影紀行が可能だ。

その第一白川橋りょうを渡るのが、南鉄の観光トロッコ列車「ゆうすげ号」。無がい貨車を改造した2両編成のトロッコ客車を2両の小型ディーゼル機関車で挟み、プッシュブル運転する。

運転本数は、2023年8月末までの夏休み期間は毎日2往復、その後11月末までの土日曜日と祝日は、同じく1日2往復運転。その他の日も、予約があれば列車を走らせる「運転可能日」になっている。

記事:上里夏生

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