東京駅からJR高崎線に乗って約1時間半、埼玉県深谷市にある岡部駅で下車。スクールバスに揺られながらのどかな田園風景の中を進むと、ほどなくして埼玉工業大学(以下、埼工大)のキャンパスが見えてきた。

この日は、今年度第2回目となるオープンキャンパスの開催日。参加者は、IT・AI、ロボット、バイオ研究、経営や心理学といった分野に高い関心を持つ高校生たちだ。どこか緊張した面持ちの彼らを、学生スタッフや教職員たちが笑顔で迎え入れている。

ワンキャンパスで、工学部と人間社会学部の2学部、計5学科で構成されている埼工大。決して規模が大きいとはいえず、都心からも離れたこの大学を選んだ学生は、どんなところに魅力を感じているのだろうか。各学科や部活動の様子から探っていこう。

パワーアシストで人体も未来も支える――機械工学科

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最初に話を伺ったのは、工学部機械工学科のメカトロニクス研究室。ロボットや機械技術を使って人間社会を豊かにすること、人間の役に立つ新しい技術を研究することが目的だ。

担当の長井力教授は、主に医療福祉分野で活用できるロボット技術を研究。背骨を損傷して下半身まひになった人など、歩行が困難な人を補助するパワーアシストスーツなどが代表的だ。

工学部 機械工学科 メカトロニクス研究室の長井力教授。パワーアシストスーツと並んで。

しかし、人間とロボットがどのように連動して動くかというのは非常に難しく、特に日本においては医療福祉の面でパワーアシストスーツはなかなか普及が進んでいない。「ただ足首を動かせればいいわけではなく、歩こうとしている人間に対し、ロボットがほんの少しアシストすることが大事」と、長井教授。ロボットを扱うためには人体の仕組みも理解しておく必要があり、人間とロボットの理想的な関わり方が実現するためには、まだまだ研究が必要そうだ。

一方で、医療福祉に限らず、農業や建設工事といった業界でもパワーアシストの需要は高まっており、今後さらなる研究の深まりと、活用シーンの広がりが期待できる分野だ。長井先生も「人間の仕組みはまだすべて解明できておらず、その人間の仕組みを工学の力を使って解き明かすということは非常に知的好奇心をくすぐられる。未知の領域に踏み込めることが、この研究のおもしろさだと思います」と、未来の研究者の挑戦を待っている。

遺伝子レベルから新しい品種のシクラメンを開発――生命環境化学科

美しいシクラメンの花とともに迎えてくれたのは、工学部生命環境化学科の植物ゲノム工学研究室。もちろん、この花は装飾のために置かれているのではなく、「芳香シクラメン」という名前の、れっきとした研究対象の植物だ。

工学部 生命環境化学科 植物ゲノム工学研究室の秋田祐介准教授教授。同じシクラメンでも色・形・香りには大きな差が。

植物の持つ遺伝子の機能や構造を調べてゲノム情報を集積・解析し、効率的に“新しい植物”をつくることが目的。特に花の「色・形・香り」といった形質に関わる遺伝子を見つけ出し、今までにない新たな品種の花の開発を目指している。

この研究を活かし、同研究室では深谷生まれのバラ農家「ROSE LABO」が生産するオリジナル品種のバラの香気成分を分析。その結果、バラの香水を作る際に用いられるゲラニオールが豊富に含まれていることがわかったという。サンプルとして置かれていた香水を記者もつけてみると、華やかさとみずみずしさを感じる香りに、すっかり癒されてしまった。こうした遺伝子研究を重ねることで、たとえば「シクラメンの香りがするバラ」といった新たな品種の花を生み出すことも夢ではないのだ。

「花は、なければないで生きていけるけど、ないとつまらない。全く新しい品種が生まれることで、市場が劇的に変わることを期待しています」と、同研究室の秋田祐介准教授。花の香りに誘われたように、高校生たちが続々とブースを訪れていた。

もはやAIは専門家だけのものではない!――情報システム学科

「AI(人工知能)は、もはや一つの学問分野ではない。ものづくり、化学、金融、小売りなど、あらゆる分野でツールとしてAIを使う時代になってきている」と断言するのは、工学部情報システム学科の学科長を務める井上聡教授だ。

井上教授の生体情報システム研究室が昨年から取り組んでいるのが、AIを活用した農業支援。深谷市でスマート農業の研究開発を行うベンチャー企業とタッグを組み、広大な畑の画像を収集・解析して、作物の病気が発生しているエリアを農家に知らせることができる。今年度からは、雑草を検出して必要な箇所にのみ自動で除草剤を撒くシステムの開発に着手しており、現在は学生とともに学習用データの収集・検証に追われているそうだ。

工学部 情報システム学科学科長、生体情報システム研究室の井上聡教授。写真に写っているのはデータ解析を行うハイスペックマシン。

Chat GPTや画像生成ツールが身近になり、近年ますます注目度が高まっているAI技術。一方で、学生の内は成果物を出すことにとらわれず、学ぶことを追求してほしいと井上教授は語る。

「どうしてもアウトプットに興味を持つ学生さんが多い傾向にあるが、それだけではもったいない。社会人になると結果を求められがちですが、学生は、失敗してもなんら問題ないんです。“プロセスが楽しめればいい”というのは、学生の特権だと思いますよ」

「結果を出さなければ」「失敗してはいけない」という思考にハマりがちな若者にとって、頼もしい学科長の言葉。のびのびと研究に没頭できそうだ。

情報システム学科には、IT専攻、AI専攻、電気電子専攻の3専攻がある。

AIによる画像生成を体験する高校生。学生スタッフが丁寧に説明していた。

地域に参加しながら社会人としての基礎を学ぶ――情報社会学科

“情報化社会で活躍できるエキスパート”を育成する情報社会学科。そのなかで、新商品開発やイベント参加など、学生主体の活動を通して地域貢献を行っているのが、人間社会学部情報社会学科の経営企画研究室だ。

人間社会学部 情報社会学科 経営企画研究室の本吉裕之准教授。アニメ『リーマンズクラブ』のイケメンキャラクターとパシャリ!

2022年から深谷商店街連合会と連携し、深谷を舞台にしたアニメ『リーマンズクラブ』によるアニメツーリズムに力を入れている。アニメとコラボした飲料「ネギジンジャー」を深谷七夕まつりなどの地元イベントでアピールするため、学生がゲームを企画して集客。午前中だけで200本を売り上げた日もあったのだとか。今年の春には新たなコラボ商品として日本酒、日めくりカレンダーといった商品開発も行っている。

他にも、自治体などから委託を受けて地域を紹介するWEBメディアの取材・記事制作・サイト管理を学生が担当。学生にもきちんと報酬が支払われるようになっているため、アルバイト感覚でメディア運営を学ぶことができるのだ。

興味を示している高校生に積極的に声をかけ、学生スタッフが案内。このコミュニケーション力も実習の中で得たものだ。

「こうした活動を通して学生はマナーを身につけ、社会に出たときに“感じのいい若手”になれる」と話す本吉准教授。どんな企業でも即戦力になれる人材育成を目標にしているが、深谷で働く人々に魅了され、「卒業したら地元企業で働きたい」と言う学生もいるそうだ。

アットホームな環境で心の悩みに寄り添う――心理学科

将来、カウンセラーや臨床心理士を目指す学生が集まるのが、心理学科。臨床心理専攻とビジネス心理専攻があり、この日話をうかがった田中崇恵講師は臨床心理を専攻。「現実とイメージの世界、インターネット上のサイバー空間など、人間が活動するさまざまな層でどのような心の動きがあるのか」を主に研究しているという。現在は、コロナ禍から日本でも急速に広まったオンラインカウンセリングに関心を寄せている。

人間社会学部 心理学科 臨床心理学研究室の田中崇恵講師。「SNSにおける人間関係や、青年期の心の動きなどに関心の高い学生が多い」と話す。

同席していた女子学生は「自分は『恐怖症』、特に『暗闇恐怖症』に興味があり、どういう人が恐怖症を持ちやすいのか、どうすれば恐怖心を持たなくなるかを研究している」とのこと。将来は恐怖症に限らず、心の悩みを抱えている人を手助けできる仕事に就きたいそうだ。

カウンセリング、恐怖症といったワードからナーバスに捉えてしまいがちな分野だが、田中講師は「学生と教員同士が顔見知りになりながら、アットホームな雰囲気で学べる学科ですよ」と、にっこり。たしかに、田中講師と学生のやり取りを見ていても、まるで友だち同士のようにフレンドリーに接している様子が見て取れた。

心理学科および大学院心理学専攻では、国家資格の「公認心理師」の受験資格が得られるカリキュラムに対応しているため、将来、心理のプロフェッショナルとしての活躍を目指せるとのこと。

埼工大だからできる学生活動&地域貢献――自転車競技部、米と日本酒プロジェクト

勉強以外の学生生活をのぞき見するべく、学生団体・プロジェクトを紹介するブースにも足を運んでみた。

自転車競技部のブース。真っ赤なユニフォームがカッコイイ!

トレーニング用ロードバイクが存在感を放っていたのが、自転車競技部。毎週土曜日に活動しており、深谷市周辺や埼玉、群馬県内のサイクリングロードを走ったり、トレーニングを重ねている。大会への出場・入賞を目指す「選手班」と、趣味としてのんびり楽しみたい「サイクリング班」に分かれており、自転車ガチ勢もエンジョイ勢も共に活動できるのが特徴だ。

「学部や学科、先輩や後輩も関係なく、敬語なしで話すこと」をルールとしており、取材中も部員同士で仲睦まじく話す様子が印象的だった。今年度からは地域交流にも力を入れており、先日行われた深谷七夕まつりでは、子ども向けのバイクレースや自転車教室を実施したという。

話を聞かせてくれた2年生の男子学生は選手班。高校生のころから「大学生になったらロードバイクを買おう」と決めていたという自転車好きだ。その魅力を尋ねると「ヒルクライムで、辛い思いをして登った山頂から見る景色。何よりの絶景です」と、嬉しそうに話してくれた。現在、在籍しているのは17名。まだまだ部員募集中だ。

「米と日本酒プロジェクト」のメンバー。写真両脇のふたりは双子の兄弟!

最後に訪れたのは、学生プロジェクトのひとつである「米と日本酒プロジェクト」。学生プロジェクトとは、顧問の教員がおらず、学生が主体となって計画・実行する活動のこと。現在6つのプロジェクトが進行しており、そのなかでも「酒と日本酒」は、今年で活動歴11年目を迎える、実績のあるプロジェクトだ。

地元農家の協力を得て、酒米の田植えから収穫まで行い、同じく地元の丸山酒造に1泊2日で泊まって酒づくりを体験する「酒合宿」も実施。『瞬喜道』という商品名のオリジナルの日本酒が、丸山酒造のオンラインショップや「道の駅おかべ」などで販売されている。

話を聞かせてくれた2年生の男子学生は、なんと双子で埼工大に入学し、学生プロジェクトにもふたり揃って参加しているという仲の良さ。今年の酒の出来栄えを聞くと「まだ19歳だから、飲めないんです」と、残念そうに笑う。「ハタチになったら、いっしょに乾杯したい」と、ささやかな双子の夢を教えてくれた。

さまざまな実験、実習に使える機械がずらり。メカニックな空間にテンションが上がる!

記者が埼工大のオープンキャンパスに滞在したのはわずかな時間だったが、そのなかでも随所に感じられたのが、地元・深谷との強い結びつきだ。全員が地元出身というわけではないはずなのに、自分たちの学び舎があるこののどかな土地に親しみを持ち、「深谷に貢献できることを」と考えて行動している学生が多いと感じた。また各学科の教授方も、学生がそれぞれの分野を活かした地域貢献の意義を学ぶケーススタディとして、深谷に大きな可能性を感じている様子が感じ取れた。

埼玉工業大学で学ぶと、社会貢献への意欲を持った学生が育つ。そして、深谷という町が好きになる。どうやらこれは間違いなさそうだ。

2023度のオープンキャンパスは、8月6日(日)、8月27日(日)、9月9日(土)にも実施予定。

関連リンク:埼玉工業大学 公式サイト https://www.sit.ac.jp/
埼玉工業大学 オープンキャンパスに関する情報
https://www.sit.ac.jp/entrance/experience/opencampus/

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