なぜウクライナ・ロシアの鉄道は広軌1520mmなのか 「ウクライナ新幹線」構想を考える前に知っておきたい軌間の歴史【コラム】
歴史に翻弄されたウクライナの鉄道
次にウクライナ鉄道の軌間について見ていきます。ウクライナで鉄道が開業したのは1861年のことです。当時、ウクライナは独立国ではありませんでした。領土のほとんどは東のロシア帝国、西のオーストリア帝国に属していたのです。

1861年の開業区間はリヴィウ~プシェムィシル(ポーランド)間となり、リヴィウはオーストリア帝国領でした。そのため、軌間は標準軌1435mmでした。
その後、ロシア帝国に属するウクライナでも鉄道建設は進みましたが、こちらの軌間は1524mmでした。
20世紀に入ると、ウクライナはソビエト一共和国としての道を歩むことになりました。そのため、ほとんどの路線が1524mmとなり、ソビエト連邦のネットワークに組み込まれたのです。1991年にウクライナはソビエト連邦から独立しましたが、現在に至るまで標準軌間は1520mmのままです。
ロシア離れを象徴する標準軌
旧ソ連の国でウクライナのように1435mmの高速鉄道を推し進めている国がバルト3国のエストニア、ラトビア、リトアニアです。これらの国々も標準軌間は1520mmです。
バルト3国は「レールバルティカ(Rail Baltica)」計画を進めています。これはバルト3国を南北に横断し、ポーランド国境に至る新線です。軌間は1435mm、最高速度は200km/h以上を計画しています。2019年に建設が開始され、完成予定年は2026年以降です。
レールバルティカは北欧からバルト海を経て中欧・西欧を結ぶヨーロッパを強く意識した路線です。バルト3国にとってロシアは隣国にもかかわらず、レールバルティカでは一切考慮されていません。
ウクライナの「新幹線」計画の詳細は明らかになっていませんが、1435mmを採用する以上、ヨーロッパ諸国との連携は明らかです。逆にロシアとは断絶することを意味します。
ところで、ウクライナの南隣に位置する旧ソ連のモルドバはどうなるのでしょうか。モルドバの標準軌間も1520mmですが、ロシアとは国境を接していません。もしウクライナから西側へ向かう新線を建設するなら、モルドバを通る可能性も高そうです。ウクライナと一緒にモルドバにも「新幹線」が建設される日は来るのでしょうか?
記事:新田浩之