JR九州の新たなD&S列車「かんぱち・いちろく」に乗ってみた 九州の大都市と大分の温泉地を結ぶ長旅、楽しむコツは『ラウンジ杉』に
JR九州の新たなD&S列車(※)「かんぱち・いちろく」が2024年4月26日(金)から運行を開始しました。新観光列車のコンセプトは「ゆふ高原線の風土をあじわう列車」。博多~別府間を久大本線の由布院・大分経由で結びます。
※「D&S列車」はJR九州の観光列車のこと。ただの移動手段にとどまらず、乗ること自体が楽しみになるような、デザインと物語のある列車です。
「かんぱち・いちろく」はこれまでD&S列車を手がけてきた水戸岡鋭治さんではなく、株式会社IFOOがデザインを担当。九州の観光列車らしさは感じられるものの、これまでとはだいぶ毛色の違う列車に仕上がっており、旅の楽しみ方も今までとは異なります。
筆者は4月24日(水)に開催された試乗会に参加。博多発・別府着のおよそ5時間の旅を体験してきました。長い道中で感じた「水戸岡デザインとの違い」や車内設備の特徴などを詳しくご紹介します。
「かんぱち・いちろく」とは?
「かんぱち・いちろく」は福岡・大分デスティネーションキャンペーン(福岡・大分DC、2024年4月1日~6月30日)にあわせ、両県を結ぶ観光列車として登場。引退した「いさぶろう・しんぺい」のキハ40系2両を転用し、中間車にキハ125形を組み込んだ3両編成で運転します。
外観は艶のある黒を基調としており、鏡のように美しく沿線の景色が映り込むということで、どことなくD&S列車「36ぷらす3」を思わせるデザインです(あちらは787系の改造車両ですが……)。車体にはゆふ高原線の路線図をモチーフとしたラインが描かれており、上下をゆふ高原線の駅名で彩ります。
車内はソファ席メインの1号車が「赤」ベース、ボックス席メインの3号車が「緑と青」ベースの色調。どちらの車両にも畳個室が設けられています。キハ125形を改造した2号車は、ビュッフェも兼ね備えた共有スペース「ラウンジ杉」。沿線の美味しい飲み物や食べ物、オリジナルグッズなどを販売しています。
「かんぱち・いちろく」として再出発するにあたり、各車両の形式名もそれぞれ次のように変更されています。
1号車:「2R-16」
2号車:「2R-80」
3号車:「2R-38」
「2R」は「二人のロマンスカー(ROMANCECAR)」の意味。1号車と3号車の末尾の数字は、列車名の由来となった衞藤一六さん、麻生観八さんに由来します。2号車の「80」はカウンターテーブルに使用された杉の長さに由来します。
運行は週に6日間。月・水・土は特急「かんぱち」号として博多発 → 由布院・大分・別府行き。火・金・日は特急「いちろく」号として別府・大分・由布院発 → 久留米・博多行きとなります。車内で提供される食事は、福岡・大分両県の食材を使用したお弁当。曜日ごとに内容が異なりますので、全て味わい尽くすのはなかなか大変かもしれません。
乗車には事前にJR九州の「かんぱち・いちろく」専用ホームページや主な旅行会社を通じて申し込む必要があります(駅の「みどりの窓口」や券売機では購入できません)。空席は専用ページの「空席照会」から確認できます。料金は畳個室が23,000円、ソファ席、BOX席は18,000円で食事付き(いずれも大人1人あたりの値段)。
約5時間の旅、楽しむなら2号車で飲みたい
24日の試乗会は博多→由布院・大分・別府コースで運行され、約5時間にわたる長丁場となりました。筆者は以前「或る列車」に乗車し由布院→博多の4時間を体験していますが、今回は逆方向です。
博多→別府は鹿児島本線・日豊本線経由で特急「ソニック」に乗れば約2時間。5時間もあったら東海道新幹線で博多から東京まで行けるわけで、時間の使い方としてはかなり贅沢なものでしょう。時間がかかってもいいから景色の良い路線でゆっくり旅をしたい、美味しいお食事やお酒でのんびりとした休日を楽しみたい……「かんぱち・いちろく」はそういう要望に応えてくれる列車と言えます。
道中には慈恩の滝や旧豊後森機関庫があり、景色を楽しんでもらうための徐行運転も行われます。「かっぱの駅舎」で有名な田主丸駅など、途中停車駅では沿線の方々によるおもてなしもあり、駅舎や列車の撮影も可能です。
久大本線の他の列車と比べると、車内でコース料理が提供される「或る列車」よりリーズナブルで、安くて速い「ゆふいんの森」よりは高い。これは少し踏み込んだ感想になりますが、やはり由布院も別府も人気の観光地ですから、「豪華列車で移動も楽しく」と「安くて速い移動手段で観光したい」の中間層を取り込もうとするかのような、そんな意図があるように思えます。
内装も組子などを使った豪華な装飾が特徴的な「水戸岡デザイン」とは異なり、派手さには欠けるもののシンプルに落ち着いた空間として仕上げられています。運行中に3号車の車内を見ると、椅子の緑と沿線の草木が見事なグラデーションをなし、車内のデザインがそのまま沿線の景色まで拡張されているような「妙」も感じられました。
とはいえ、およそ5時間の旅は長く、道中少し退屈だなと感じられるときもあるでしょう。そんなときは2号車がオススメ。同乗した記者陣とも話をしたのですが、大きな窓と歓談できるカウンターはグループ旅行に最適。沿線のお酒なども飲みながら楽しい時が過ごせます。
記事:一橋正浩
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