全長5.5キロ、日本3番目のミニ私鉄・水鉄をウォッチング 鉄道愛あふれる藤本社長のメッセージもご覧ください(大阪府貝塚市)

前コラムで乗り鉄した南海泉北線に続き、筆者は和泉中央から南海バスと南海本線を乗り継いで貝塚に向かいました。
【参考】大手私鉄の直営路線に生まれ変わった「南海泉北線」に乗り鉄 南海の名車もご案内します(大阪府堺市、和泉市)【コラム】
https://tetsudo-ch.com/13002019.html
目的は貝塚~水間観音(2009年まで水間)間5.5キロの水間鉄道(水鉄)。芝山鉄道(千葉県、2.2キロ)、紀州鉄道(和歌山県、2.7キロ)に次ぐ全国3番目の短距離の私鉄(新交通システムや路面電車を除く)、全線が大阪府貝塚市内です。
水鉄の誕生は1925年12月の貝塚南(現在は廃止)~名越間で、2025年は開業100周年のメモリアルイヤーです。路線はミニでも、そこには1世紀分のヒストリーが。熱烈な〝水鉄ファン〟もいます。
今回は貝塚市役所前~水間観音~貝塚の変則ルートで水鉄に乗車。貝塚駅前の本社で藤本昌信社長にお話をうかがいました。
大正末に開業
南海貝塚駅の東側に隣接したホームから、クリーム色と朱色の鮮やかなツートンカラーの電車が発車する……。
半世紀前、1970年代の鉄道趣味誌に掲載された水鉄のレポートです。南海駅は橋上化され、ツートンカラーの電車(元南海1201形のモハ501形と思われます)も1990年までに引退しましたが、基本の光景は変わりません。
水間寺(水間観音)参詣客の利用と、地域振興を狙いに建設された水鉄。開業翌月の1926年1月に全通しました。
水鉄の歴史で記憶にとどめたいのが延伸構想。戦後間もなく、清児(せちご。現在もある水鉄駅)~熊取(大阪府熊取町)~犬鳴山(同泉佐野市)~粉河(和歌山県紀の川市)が認可を受けましたが、実現することなく免許は失効しました。
車両はアメリカン!?
水間線は全線単線、名越に行き違い設備があります。水間観音駅は1面2線で、隣接して車両基地(水間車庫)があります。
車両は長く南海からの譲受車が主力でしたが、1990年の昇圧(600ボルト→1500ボルト)を機に7000形(2両編成)に一新。7000形は旧東急の7000系電車で、2006年からの更新改造をへて現在は1000形を名乗ります。
1962年デビューの東急7000系、引退後は地方鉄道に移り、弘南鉄道(青森県)、北陸鉄道(石川県)などを近代化しましたが、代替わりの時期を迎えつつあります。
東急7000系、東急車輛製造(現在はJR東日本グルーブの総合車両製作所)がアメリカ・バッド社と技術提携して生まれた日本初のオールステンレスカーです。ところで、一般的な鉄道車両とのデザイン面の違いは……。
それは屋根カーブです。日本の鉄道車両の屋根は通常食パン型(正確にはイギリス食パン型?)で、肩の部分がきつく、中央がなだらかですが、東急7000系は端から端まで均一な円周状です。


水鉄とかけてグルメと説く?
水鉄1世紀には苦難の時代もありました。2005年に会社更生法適用を申請。当時の報道では、「バブル期の住宅開発の借入金で債務超過」。翌2006年から外食チェーン「グルメ杵屋」の傘下に入って経営再建に乗り出し、安定軌道に復帰しました。
グルメ杵屋の創業者は戦時中、貝塚に疎開したそうで、「地域への恩返し」で水鉄支援を決断しました。地域をつなぐ鉄道、もう一つ人と人もつなぎます。
経営再建後の水鉄、南海出身の関西(せきにし)美津治さん、娘の関西佳子さんがそれぞれ社長を務め、2018年から現在の藤本昌信社長が引き継ぎました。

藤本社長は京都大学出身。京阪電気鉄道(京阪ホールディングス)から京福電気鉄道で副社長として経営再建。さらに大阪市交通局局長として、民営化の道筋を付けました。
大阪メトロ生みの親
関西経済界では、人呼んで「Osaka Metro(大阪メトロ)生みの親」。「まちの元気が鉄道の元気につながる」の基本姿勢は、京阪、京福、大阪市交、そして水鉄を通じて変わりません。
ここで余話。藤本社長の学生時代の部活は柔道部でしたが、京大柔道部出身のもうお一人の鉄道マン、JR九州の唐池恒二取締役・相談役(元社長、会長)です。
会社は違ってもお2人に共通するのは鉄道愛と革新性。「鉄道経営に技あり一本」といったところでしょうか。
鉄道YouTuberプロデュースの「ロカ鉄まつり」
熱烈な水鉄ファンが鉄道YouTuber西園寺さんです。西園寺さんプロデュースの「ローカル鉄道まつり(ロカ鉄まつり)」、2021年、2022年、2023年に次いで、2025年4月19、20日に「ロカ鉄まつり2025」が開催されました。

会場は水間観音に隣接する水間公園。グッズ販売、YouTuber教室、鉄道〇×クイズなどのメニューが用意されました。和歌山電鐵、紀州鉄道、銚子電気鉄道といった地方鉄道もブース出展。JR東日本グループのジェイアール東日本企画(jeki)も初参戦し、オリジナルグッズを販売、鉄道会社や地域とファンが交流しました。
お試し価格の得トクきっぶ
ここから駆け足で、貝塚~水間観音を乗り鉄します。ダイヤは朝夕時間帯が20分、昼夜間が30分ヘッド。これだけの頻度なら、利用客は不便さを感じないはずです。
貝塚~貝塚市役所前には、「得トク貝塚きっぷ」が100円のお試し価格で設定されます。水間線は両端駅を含め10駅、両端と行き違い設備のある名越を除く7駅は1面1線。単線片側にホームがあるシンプルな構造です。
近義の里~石才間で、JR阪和線をアンダークロス。全線を通じて線路脇には高層、戸建て住宅が建ち並び、空地はほとんど見受けられません。
終点の水間観音、名さつの玄関駅らしく仏教様式のデザインです。1999年に国登録有形文化財、翌2000年に初回の「近畿の駅百選」に認定されました。駅構内には、カフェ「まち愛Cafeみずがめ庵・和」があります。駅の目の前が水間観音です。


「ファンに刺さるイベント」(藤本社長)
水鉄は2025年12月に開業100周年を迎えます。藤本社長からは、「鉄道ファンの皆さんの心に刺さる多彩なイベントを企画してお越しをお待ちします」のメッセージをいただきました。ロカ鉄ファンの皆さま、ぜひ情報をチェックしてください。
水鉄の関西佳子前社長は現在も交通環境整備ネットワーク理事として、地方鉄道の情報発信などに取り組みます。本コラムの取材は関西さんのコーディネートで実現しました。
(本コラムはさん付け表記させていただきました)
記事:上里夏生