三セク第一号の三鉄。最近も500円で1日乗り放題の「ワンコインフリーパス」などのニュースが発信されます(画像:三陸鉄道)

日本の鉄道事業者の主な経営スタイル……。元は国鉄だったJRグループ、大手から中小までバラエティーに富んだ私鉄(民鉄)、主要都市の地下鉄や路面電車の公営交通、さらには半官半民の第三セクター鉄道に分かれます。

沿線自治体と民間などの共同出資で設立されたのが三セク鉄道。全国の三セク鉄道で構成するのが「第三セクター鉄道等協議会(三セク協)」です。

三セク協の設立は1985年で、2025年で40周年。節目の年にあわせた記念式典がさる7月10日、行政や鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)、鉄道総研などの関係機関代表が出席して東京都内で盛大に開かれました。

本コラムは三セク協40年の歩みを振り返りながら、三セク鉄道の近況を表す「2024年度第三セクター鉄道の輸送実績・経営成績」を紹介。三セク発のヒット商品「鉄印帳(の旅)」の誕生秘話もお届けします。

トップバッターは三鉄

三セク協誕生の1985年、国鉄に先行する形で電電公社が民営化されてNTTが誕生しました。2025年との共通点、やや無理くりながら、プロ野球セ・リーグで阪神タイガースが強かったことかも。

鉄道の世界では、国鉄改革によるJR発足に向けて社会が動き始めました。そうした中、前年の1984年4月に開業したのが岩手県の三陸鉄道(三鉄)。北リアス線と南リアス線の2路線で、現代につながる三セク鉄道のトップバッターを務めました。

三鉄は元々は国鉄新線として建設されていましたが、国鉄の財政悪化で工事凍結。地元が引き継いで、開業・運行する三セク鉄道の基本スキームができあがりました。

国鉄改革の本質、限られたスペースでは到底書き尽くせませんが、新幹線や都市鉄道を民営化して収益性やサービスを向上。民間企業のJRでは運営が難しい利用の少ない線区は、沿線が三セク鉄道を設立して地域密着で運行を継続するか、あるいはバス転換するかなどの判断が地元に委ねられました。

さらに三セク協会員には、三鉄のように工事中断された国鉄新線を地元が引き継いで開業させた路線、整備新幹線の開業でJRから経営分離された並行在来線の路線もあります。

輸送人員は前年度比2割増!?

三セク協会員は41社。経営の上下分離で列車運行をWILLER TRAINS(京都丹後鉄道)に移管した北近畿タンゴ鉄道を除く40社を合計した、2024年度の年間輸送人員は1億455万人(1000人単位で四捨五入)。2023年度は8584万人で、実数で1871万人、率で21.8%と大きく増加しました。

常識ではありえない「輸送人員2割増」、主な理由は2024年3月16日の北陸新幹線金沢~敦賀延伸開業です。並行在来線のIRいしかわ鉄道(JR西日本から移管された新規開業の大聖寺~金沢)と、ハビラインふくい(敦賀~大聖寺)は2023年度は16日間の営業でしたが、2024年度は通年でカウントされるため見かけ上の数字が大きく増えました。

ちなみに、IRいしかわとハビラインの2社を除けば、174万人増で前年度比2%増と常識的な線に収まります。

IRいしかわとハビラインを除く38社で、輸送人員がもっとも伸びたのは2年連続で愛知環状鉄道。2024年度の利用客数1709万人は、前年度比で5.2%増。三セク協会員の最高値です。

41社決算の合計額は96億円の経常赤字

続いて決算。タンゴ鉄道を加えた、41社全体の経常赤字額(鉄道事業に助成金などを加えた数字)は95億5200万円(10万円単位以下切り捨て)。2023年度の85億6100万円に比べ、9億9000万円悪化しました。

2024年度に経常黒字を確保したのは、智頭急行(兵庫、岡山、鳥取県)、平成筑豊鉄道(福岡県)、IGRいわて銀河鉄道、あいの風とやま鉄道、IRいしかわ鉄道の5社。2023年度に続いて2年連続で黒字を確保したのは、智頭とあいの風とやまです。

鉄道業界の全体傾向として、動力費(燃油代や電気代)の高騰が経営を圧迫します。国鉄ローカル線を引き継いだ地方の三セク鉄道は、老朽施設の設備更新も重要な経営課題。人材確保も各社に共通するテーマです。

「経営改善に努力」(金田会長)

40周年の三セク協、会員相互の情報交換などで重要な役割を果たし、国への要請活動にも力を入れます。

発足時の全社が現存というわけにいかず、高千穂鉄道(宮崎県)、北海道ちほく高原鉄道、神岡鉄道(岐阜県)、三木鉄道(兵庫県)の4社が退会、つまり鉄道廃止に追い込まれました。

2006年末に廃止された神岡鉄道の一部跡地線路は軌道自転車「ガッタンゴー」に再生。日本鉄道賞を受賞するなど地域の観光資源として存在感を高めます(写真:飛騨乗合自動車)

一方、整備新幹線の延伸開業で、ハピラインふくいをはじめとする新メンバーが加入。会員各社は通勤・通学輸送や、イベント列車運行による観光客誘致をはじめ地域経済のリーダー役を期待されます。

三セク協会長は愛知環状鉄道の金田学社長。記念式典で、「三セク各社は、それぞれの地域で公共交通機関としての重要な役割を受け持つ。今後も経営改善を目指して努力するので、関係の皆さまの支援・協力をお願いしたい」とアピールしました。

40周年記念式典であいさつする金田会長(愛知環状鉄道社長、画像:第三セクター鉄道等協議会)

永江ファミリーのナイスシュート

ラストは三セク協のヒット商品「鉄印帳の旅」の誕生秘話。生みの親は熊本県のくま川鉄道(くま鉄)の永江友二社長です。永江さんの奥さまは、お遍路の旅推し。四国八十八ケ所をめぐって、御朱印を集めていました。

ある日、奥さまの朱印帳を見るうち、長江さんのアタマにひらめいたのが「三セク鉄道でも朱印集めができるのでは……」。ナイスアシストがお嬢さんで、「お母さんみたいに、流行に乗る人っているよね」と一言。それを聞いた長江さん、「三セク鉄道めぐりをシリーズ化すれば、多くの人に乗車してもらえる」の思いがわき上がりました。

長江さんは三セク協の総会で提案し、企画書を提出。読売旅行と日本旅行の手で商品化されました。

鉄印帳のアイディアを出した永江くま鉄社長。前職は美容師という異色のキャリアです(写真:本人提供)

本サイトをご覧の皆さまなら心当たりあるかもですが、鉄道ファンに多いのがコアな方。しかし、鉄印帳はそれほど鉄道に関心のないライトユーザーも取り込みました。そこが最大のヒット要因といえそうです。

くま鉄は、2020年7月の球磨川はんらんで被災。人吉温泉~肥後西村5.9キロが現在も不通、2026年上期の復旧が発信されます。三セク協節目の年に、早期の運転再開を待ちたいと思います。

一時全線不通になったくま鉄は2021年11月に部分運行再開。湯前でのセレモニーでは通学の高校生代表が鉄道復活を祝いました(写真:くま川鉄道)

記事:上里夏生