鉄道のまち健在。小牛田駅の留置線にはキハ110気動車や、2016年に鉄道友の会のローレル賞を受賞したHB-E210系のほか、さまざまな事業用車両が並ひます(筆者撮影)

鉄道を愛する高校生の情熱は猛暑・酷暑の2025年夏も変わらない! 迎えて14回目の「全国高校生地方鉄道交流会(地鉄交流会)in宮城県美里町」が2025年8月8~10日、宮城県北の美里町で開かれました。地元東北のほか、関東や遠くは広島から駆け付けた全国10校が利用促進や地域振興のアイディアを競いました。

東北線から陸羽東線(奥の細道湯けむりライン)、石巻線が分岐する美里町は明治の昔からの鉄道のまち。玄関口の小牛田駅は国鉄時代、機関区などの現場機関が置かれ、C58などのドラフト音を追って〝小牛田詣で〟に明け暮れたファンも少なくありません。

そんな小牛田には、今も鉄道遺産がいっぱい。交流会でも、「駅の転車台に、町内で静態保存されるSL(C11 367)を乗せて、地域のシンボルに」など、鉄道ファンなら思わずひざを打つ提案がありました。

さらに、交流会ラストにはサプライズの発表も。地鉄交流会は2026年の次回から、第2章に新展開します。

参加全校で記念撮影。2026年の「SUMMERカンファレンス」での再会を約束しました(写真:全国高校生地方鉄道交流会)

鉄研のインターハイ

高校生のクラブ活動で、全国大会のような発表の場のない鉄研(鉄道研究会)にスポットライトを当て、一部校が〝鉄研のインターハイ〟を発想。2012年に秋田県の秋田内陸縦貫鉄道で初開催後、各地の地鉄をめぐる形で回を重ねてきたのが地鉄交流会です。

ここへきての新しい動き、それは開催地が交流会誘致に乗り出したことです。100人近い高校生が一定期間、地域に滞在して情報発信すれば、相応のPR効果を期待できます。

開催地の美里町は地域おこし協力隊の活動で「鉄道によるまちづくり」に取り組みます。美里町の協力隊は交流会を誘致し、遠来の高校生を歓迎しました。

鉄道3線が十字にクロス

美里町と鉄道。小牛田駅の開業は明治中期の1890年4月。私鉄の日本鉄道が岩切(仙台市)~一ノ関(岩手県)を延伸したのに伴い小牛田駅が誕生しました。

大正年間には、仙北軽便鉄道(現・石巻線)と陸羽線(現・陸羽東線)が開通。小牛田は東北線を真ん中にローカル2線が分岐する、鉄道のまちとして発展しました。

仙台~小牛田は43.2キロ、中間10駅、所要44分。小牛田は、仙台都市圏・通勤圏の一応の北端駅といえそうです。

深夜までプレゼン資料を練る

3日間の地鉄交流会、初日は美里中学校で鉄道のプロ3人の話を聞きました。そのお一人が元近鉄の名物広報マン福原稔浩さん。鉄道を生かした地域づくりを説きました。

元近鉄名物広報マンの福原さんは参加校のワークショップではプロの眼でアドバイス(写真:全国高校生地方鉄道交流会)

2日目は地元・県立小牛田農林高校との交流会。鉄道の保線作業などの隠れた主役、線路と道路の両方を走れる軌陸車のデモンストレーションのプログラムも組まれました。

参加校は、発表内容を締め切りギリギリまでアップデート。交流会事務局によると、参加全校がプレゼン資料を差し換えました。

最終日は、小牛田駅近隣の地域交流センターでプレゼンテーション(発表会)。各校8分間の持ち時間で成果披露しました。

観光列車「すいせい」(成城中高)

参加10校(一部リモート)のうち、最優秀賞の美里町長賞に輝いたのは東京都新宿区の成城中学高校鉄道研究部。「学園都市こごた」、「美里町・星のまち作戦」、「バスによる交通改革」、「小牛田駅前への美里町役場移転とSL展示」、「美里町を仙台市のベッドタウンに」の5項目を提案しました。

星のまちは澄みわたった夜空の美里ならではの地域振興策で、廃校になった小牛田中学校を宇宙展示施設にリニューアルします。鉄道がらみでは、陸羽東線などを走るキハ110の窓を上部に広げて観光列車「すいせい」(仮称)に。キハ110の観光列車化は、2013年秋にデビューした「TOHOKU EMOTION(東北エモーション)」がお手本です。

「SL(C11)を転車台に」(清風南海高)

次点のJR東日本小牛田統括センター所長賞は、大阪府高石市の清風南海高校鉄道研究部に。成城高と同じく注目したのは小牛田公園に静態保存されるSL・C11で、これを小牛田駅に移設して転車台に乗せます。

同校がお手本にしたのが、美里町と同じ鉄道のまち・京都府福知山。2023年8月には福知山城公園に「福知山鉄道館フクレル」がオープン、SL・C58 56の静態保存や運転シミュレータ、鉄道ジオラマを目当てに、多くの鉄道ファンが訪れます。

ハード面では、美里町内のNTT施設(旧電話交換所)を観光施設化して観光物産館に。地元関係者からも、「グッドアイディア」の賛辞が寄せられました。

清風南海高はリモート参加でしたが、2025年7月に美里町を訪れたそうです

「非鉄道事業に成長の軸足」(鐵坊主さん)

全校の発表後には、ゲストの鉄道解説系YouTuber・鐵坊主さんが、「鉄道まちづくりの方向性」のタイトルで講演。本業はカナダで旅行会社を経営する鐵坊主さん、2020年のコロナ禍をきっかけに始めた鉄道解説チャンネルが好評です。

鉄道の未来を担う高校生にエールを送る特別ゲストの鐵坊主さん(筆者撮影)

講演ではコロナ禍後の鉄道について、「リモートワーク普及の一方で、インバウンド需要という追い風もあり、外的には自然災害の影響を大きく受けている」と変化を要約。

そのうえで鉄道会社が考える鉄道の未来について、「JR東日本の高輪ゲートウェイ開発や金融ビジネス進出に象徴されるように、非鉄道系事業に成長の軸足を置くようになった」と針路を展望しました。

次回は「鉄道SUMMERカンファレンス」に

交流会ラストには、サプライズの発表が。地鉄交流会は14回目の今回でいったんピリオドを打ちます。

2026年の次回からは主催者の一般社団法人全国高校生地方鉄道交流会はそのままに、「鉄道SUMMERカンファレンス」に名称変更。調査研究にも軸足を置きながら、新しい歴史を刻み始めます。

地方鉄道や沿線と、鉄道を愛する高校生の架け橋になってきた地鉄交流会。新展開に期待したいと思います。

写真部門でJR東日本小牛田統括センター所長賞を受賞した地元・古川学園高校の今井陽希さんの「黄昏(たそがれ)時の鳴瀬川」(写真:全国高校生地方鉄道交流会)
線路、道路の二刀流に鉄研部員も興味津々な軌陸車のデモンストレーション(写真:全国高校生地方鉄道交流会)

記事:上里夏生

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