最高時速160キロ走行のインド・デリーの近郊鉄道 運輸総研のセミナーでトップがスピーチ 高速鉄道のこぼれ話もご紹介します【コラム】

歴史の始まりは1830年代で、現在の路線総延長は全土で約6万2000キロ。2つの数字を並べれば、インドが世界有数の鉄道大国ということはお分かりいただけるでしょう。
インドの鉄道といえば、日本の新幹線技術で建設が進むインド高速鉄道のことは皆さまご存じの通りですが、もう一つの新しい鉄道が地域高速鉄道です。日本でいえば都市近郊鉄道。地域高速鉄道を整備するのが、政府系の首都圏交通公社(National Capital Region Transport Corporation=NCRTC)です。
NCRTCは、首都・デリーと北方の117万都市・メーラトを結ぶ最初の路線を2025年までに開業。間もなく200年を迎えるインド鉄道史に、新しい一章を書き加えました。
日本ではインドの鉄道事情はあまり語られませんが、NCRTCのビナイ・クメール・シン前総裁が来日して、運輸総合研究所が2026年2月に東京都内で開いたグローバルセミナーで基調講演。広域人口3000万人を数えるデリーの機能分散化や、都市近代化を加速させる近郊鉄道の今を披露しました。
近郊鉄道が抜け落ちていたデリー
デリーには都市内鉄道や地下鉄(メトロ)はありますが、周辺都市100キロ程度に延びる近郊鉄道はありません。そのため地方圏と結ぶ幹線道路は慢性的渋滞に悩まされ、都市の成長を妨げます。
デリー都市圏交通の課題解決を託されたのが2013年発足のNCRTC。東西南北8方面への新線建設計画を立てて路線整備します。

振り返れば、日本にも似た時代がありました。1960年代の高度経済成長時代、国鉄は東海道・横須賀、中央、東北・高崎、常磐、総武の5線をターゲットに複々線化などで輸送力を増強するプロジェクトを実行。これが「5方面作戦」で、それに倣えば「デリー8方面作戦」といったところでしょうか。
トップバッターのメーラト線(路線名が不明なので、本コラム限定の通称です)、2023年に最初の区間が開業。2025年までに全線で営業運転を始めました。路線長82.2キロ(高架70キロ、地下12.2キロ)、駅数25駅、全線所要時間約60分です。
最高時速160キロの「ナモ・バーラト」

NCRTCは経営の上下分離を採用。施設を保有しつつ、運行を民間のラピッドⅩに委託します。ラピッドⅩの実態は、DBインターナショナル・オペレーションズ。ドイツ鉄道(DB)がインドに進出して運行受託します。
ラピッドⅩの車両が「ナモ・バーラト」で、サンスクリット語で「インドへの敬意」といった意味です。6両編成で1両の車体長22メートル。先頭車1両がプレミアム車、4両が普通車、残り1両は女性専用車です。最高時速160キロ(設計速度180キロ)で、フランスのアルストム製。流線型の先頭部など、日本の在来線特急に似た印象を受けます。ナモ・バーラトは最終的に30編成(180両)が導入予定です。
鉄道整備と沿線開発を一体化 「TOD」に注目
これまでNCRTCと日本の鉄道界は必ずしも強い結び付きがなかったのですが、シン前総裁が似たイメージの日本の鉄道として挙げたのが「つくばエクスプレス(TX)」です。
TXの歴史をひも解けば、始まりは常磐新線。常磐線の混雑を緩和する国鉄新線として構想されました。TX建設時、省庁再編前の運輸省、建設省、国土庁などが法制化したのが一体化法(通称。正式名は大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法)です。
鉄道整備と沿線の土地区画整理などを同時並行で進める趣旨で、2025年に開業20周年を迎えたTX沿線では、終点の茨城県つくば市や学術研究機関が集積する千葉県柏市で一体開発が成果を上げつつあります。

一体化法の都市計画手法は、アメリカ発祥の「Trnsit Oriented Development」で、略称は「TOD」。日本語では「公共交通指向型開発」と表現されます。
シン前総裁は、TXに代表される日本型TODを高評価。「インドも日本をお手本に公共交通整備とまちづくりに一体的に取り組み、マイカーから鉄道にシフトする都市形成を図りたい」と述べました。
着実に進行する「インド高速鉄道プロジェクト」
後段は「インド高速鉄道プロジェクト」を深掘り。日本の新幹線方式を採用するインド高速鉄道(ムンバイ~アーメダバード)の現状は、本サイトで2026年1月に詳報の通りですが、記憶をたどれば2017年9月の起工時。「完成は2023年目標」とされました。
<参考記事> 【インド新幹線】全508kmの軌道設計を日本企業が完遂へ!難工事が必要な工区の契約締結でプロジェクトは新局面、2027年試験走行へ https://tetsudo-ch.com/13018320.html
ここでインド高速鉄道のスペックを再確認。路線はムンバイ~サバルマティ(アーメダバード北方)間508キロ。軌間1435ミリ。営業最高時速320キロ。車両は動力分散式(電車方式)で、編成は開業時10両、将来16両。駅数は12駅です。

JR東日本が、グループ挙げてプロジェクト実現に力を入れることは、再々報じられる通りです。
本来なら開業済みのはずだった高速鉄道、なぜスケジュール通りに進まなかったのか。高速鉄道は、インド側にとっても初見のプロジェクトで、線路や駅の仕様について再々日本側に変更要請があったとのことです。
代表例が線路構造。当初は全体の6割が盛り土、3割弱が高架橋でした。しかし、インド側の意向でトンネル前後や車両基地など一部区間を除き高架橋に変更され、全体の9割弱が高架橋区間として工事が進みます。
盛り土と高架橋の違い。高架橋は狭い土地に建設できるので、用地買収が少ない面積で済むメリットがあります。

さらに実際の施工で、大きなブレーキになったのがコロナ禍です。2020年3月にはインド全土がロックダウン。4月初めまでに、現地駐在の日本人スタッフ全員が退却を余儀なくされました。
スタッフは帰国後、リモートで現地と連絡を取り合い2020年末に土木工事を再開。その後は順調に工事が進み、2027年試験走行がアナウンスされます。

日本線路技術(JRTC)が軌道設計に関するサブコントラクター契約を結んでい
ます(画像・JR東日本)
JR東日本によるプロジェクト支援では、2025年にインドから来日した運転士候補生が福島県白河市のJR東日本総合研修センターで技術講習を受講。上越新幹線を中心に、研修生の見習い運転も定例的に継続されています。
記事:上里夏生
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