老眼、物忘れ、息切れ、独り言……。そんな老朽化が目立ってきた中年記者は、池袋・新宿・渋谷・恵比寿といった山手線の左半分の街を、まともに歩けなくなった。「どうしても」という仕事をのぞくと、自ら足を運ぶことがなくなったエリアのひとつ。

6月初旬、渋谷での仕事を終えて、逃げるように埼京線ホームへとおりると、209系の側面に似たくるまが入ってきた。埼京線からりんかい線へと向かう、東京臨海高速鉄道70-000形か。

JR東日本209系をベースに川崎重工でつくられた70-000形は、埼京線のワイドボディE233系と比べると、ややせまく感じるうえ、化粧板やシートといった客室空間に古さも否めない。幕張メッセへ向かう途中、聞けば「埼京線ではE233系が31本、70-000形が8本、走っている」という。

無骨な顔の209系より少しだけやさしい表情をもつ70-000形、彼に出会える確率は20.5%。

りんかい線の終着駅、新木場で乗り換えて京葉線ホームへ。湾岸道を行くクルマたちや、若洲公園でぐるぐるまわる風車を見ていると、E233系とはちょっと違う足音のくるまが滑り込んできた。側面の行き先表示のLEDでわかる。209系。京葉車両センターに1本だけ所属する10両編成ケヨ34編成。

「京葉線用の電車は、E233系が24本、209系が1本」というから、出会える率は、4%。

数十年前に習った高校数学「確率」を思い出しながら計ると、埼京線用70-000形の次に京葉線用209系ケヨ34編成に出会うという確率は、(8/39)×(1/25)=0.0082051282051282…。

これ、合ってるだろうか……。仮にOKとしたら、この順番で会える確率は0.8%。いま乗る209系ケヨ34編成のなかには、そんな“奇跡”に興奮する人など、ひとりもいないのは、確かだけど――。