CMというとコマーシャルや、コンテンツマネジメント、カスタマーマネジメントといった言葉を思い出すが、建設分野ではコンストラクションマネジメントと呼ばれる業界用語がある。

コンストラクションマネジメントとは、三省堂 大辞林に「専門の工事管理者が、設計と施工の中間的な立場から総合的な管理業務を行う方式」と記されているとおり、建築生産システムのひとつで、もともとは契約社会・訴訟社会のアメリカが発祥。

オリンピック・パラリンピック2020東京大会をひかえた国内でも、このコンストラクションマネジメントという仕組みが注目を集めている。

建設プロジェクトの企画から設計、発注、工事、竣工といった流れのなかで、エージェント的立場としてプロジェクトマネジメント企業が介入することで、スケジュールやコスト、品質、リスク、情報などを管理する。

日本式コンストラクションマネジメントを推し進めるエイジェックの作本義就代表取締役は、そのメリットについてこう教えてくれた。

日本固有の建設現場事情、意外と深刻

「わかりやすいメリットとしては、発注者の重責を回避でき手間が省かれる。予算と実施価格の差がほとんどなくなる。イメージに近い設計者を選択でき同様に建物が完成できる。完成後の後悔感がほとんどないなど」

こうしたコンストラクションマネジメントを推し進めるのには、日本固有の建設現場の事情があるという。これが意外と深刻で切実だ。

「もともとこの業界は閉鎖的で、業界でのルールがたくさんあり、タブーを破ると『次の仕事がなくなる』といったものだった」

「これは、建設会社の請負額が大きく、1件受注するのと、しないとでは、大きく売上高が変わる。それをリスクヘッジする上で、談合をしなければならないという事実があった」

「また、地震や台風などの自然災害の脅威から守る要求が高まることや、美的感覚のレベルが高くなったユーザーに対応するなど、建築に対する品質要求が非常に高くなり、技術向上が求められるようになった」

建設業界は、こんな事情がのしかかるなか、さらなる試練に直面している。

年々減少・削減傾向にある「人材」

作本代表は、日本固有の建設業界事情についてこう続ける。

「熟練工が減少していくなか、コストダウンばかりで、思ったように技術革新できていない。これがいまの日本の建設業界」

「このリスクヘッジと、要望を満たすには、発注者責任が大きくなる。もちろん、技術者でない発注者は、建設会社や設計者の意見をうのみにせざるえないというのが実情」

「工場建設や倉庫建設にたずさわることが多い」という作本代表は、最近のコンストラクションマネジメント導入事例について、エピソードをまじえてこう教えてくれた。

「発注してくる企業は、いままでのように『以前お世話になった建設会社』に随意契約ということはほとんどない。必ず、業社決定を明確化するための、競争見積を要求される」

「その競争見積時に、機能・意匠のそろった電化製品や自動車なら比較しやすいけど、建設はこれから完成するのに対し、機能条件でつくった平面設計図の見積もりで業社を選ばなければならない」

「この判断は、素人にとってはめちゃめちゃ難しい」と作本代表。「『言った言わない』という確認事項不足で、最後には険悪な関係になるという」といったケースも少なくないという。

日本固有の事情に日本式CMを

こうした日本固有の事情に、日本式コンストラクションマネジメントが入り込むとも作本代表はいう。

「最近では、プロジェクトの初期段階からわれわれのような日本式コンストラクションマネジメントを採用し、設計ブリーフィング(要件をまとめる)だけヒアリング。担当者は、社内調整や事業性などに専念するというスタイルがトレンドになりつつある」

「入札から業社決定、設計打合せ、契約金額のネゴ、施工監修を、我々のアドバイス通りにプロジェクトを進めていったところ、最適なコスト・工期・品質を実現できた。発注者も予定通りに事業が成立した」

作本代表は最後に、日本式CMの重要性についてこう伝えていた。

「企業は年度による日程と予算取りがたいへん。そこにも日本式CMはフォローできる。また、最近は、建設業界全体が忙しくなり、じゅうぶんな人材確保ができていない、コストや工期を発注者がハンドリングできないといった状況が続いている。そんないまこそ、日本式CMの導入で、プロジェクトを進めていくべきと」

オリンピック・パラリンピック東京2020大会まで1000日を切ったいま、建設現場も変わり始めた気配―――。