報道公開された超電導リニア改良型試験車

2020年3月25日(水)、日立製作所 鉄道ビジネスユニット 笠戸事業所(山口県)で超電導リニア改良型試験車の報道公開が行われました。

改良型試験車を斜め前方から 空いた部分は台車用のスペース

改良型試験車はL0系を営業車両の仕様策定に向けてさらにブラッシュアップしたもので、大きな違いが2つあります。それは「ガスタービン発電装置の非搭載」と「先頭形状の最適化」です。

ガスタービンから誘導集電方式へ

従来のL0系では先頭車両にガスタービン発電装置を搭載し、車両側で使う電力(空調や照明、超電導磁石冷凍機などに使用)を賄ってきました。改良型試験車ではこれを搭載せず、誘導集電方式を全面採用します。

誘導集電の原理

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誘導集電方式は地上ループと車両の集電コイル間の電磁誘導作用を利用し、接触することなく地上から車両へ電力を供給するというもの。原理としてはスマートフォンの「置くだけ充電」のようなものですが、「時速500kmで高速走行する車両と地上との距離がある中で安定した電力を得る」という技術的な課題の解決に苦労したと言います。また、地上ループを敷設できない場所での走行に対応するため、車両にはバッテリーを搭載しています。

写真では若干分かりにくいが、車両下部の黒い出っ張りが車両側の集電コイル

ガスタービン発電装置を捨てた場合、排気ガス問題や発電装置搭載用スペースの問題などを一気に解決できるほか、排煙による空気抵抗の軽減にも効果があると見られています。なお、誘導集電方式自体は既存のL0系でも一部で採用されており、今回はその全面採用を行った形となります。

先頭形状の最適化

車両の先頭を横から

改良型試験車と従来のL0系のもう一つの大きな違いは先頭形状にあります。先頭部の長さ(15m)と車体断角(角形)は変わりませんが、先端部に少し丸みを持たせ、先頭部に凹凸を持たせています。東海道新幹線の先頭形状の変化と似ている部分もありますが、ガイドウェイのあるリニアとオープンな空間を走る新幹線ではまるで条件が異なりますので、知見をそのまま流用することはできません。

先頭形状新旧比較 JR東海資料より

1万通りほどの流体のシミュレーションから弾き出された先頭部を採用することで、空気抵抗を約13%下げ、消費電力や車外騒音を低減することに成功し、微気圧波性能も維持しています(微気圧波はトンネルに出入りする際に発生する空気の圧力派のことで、高速になればなるほど条件が厳しくなります)。

JR東海資料より 図の赤い部分ほど空気の流れが速い

前照灯・カメラの位置も従来のL0系とは異なり、これらを上部に移動させることで視認性も向上させています。カラーリングも「進化し続ける躍動感と新しい先頭形状での滑らかな空気の流れを、青の流線デザインによりイメージ」したものになりました。

前面から見た改良型試験車 前照灯が上部に来ていることが分かる

走行試験を続けて快適性・居住性をブラッシュアップ

JR東海リニア開発本部本部長 寺井元昭さん

今回報道公開された改良型試験車は3月下旬には笠戸事業所から搬出し、改良型試験車先頭車1両、中間車1両を連結した7両編成で山梨リニア実験線に投入し、既存のL0系(5両編成)とともに2編成で走行試験を実施します。

「営業線に必要となる技術開発は完了した」との評価が国交省から下されたのは2017年2月時点のこと。今回の改良型試験車の完成で営業専用の車両としては「すでに8割9割完成している」(JR東海リニア開発本部本部長 寺井元昭さん)とのことで、これからの走行試験で快適性や居住性の向上、消費電力を減らすなどのブラッシュアップを続けていく予定です。

文/写真:一橋正浩