片岡義男という伝説が解体する伝説

2020.04.09

もちろん1939年(昭和14年)生まれの片岡義男氏は伝説などではなく現在も著作を刊行する現役の作家である。

しかし、片岡義男名義でのデビューが半世紀前の1971年(昭和46年)に刊行された『ぼくはプレスリーが大好き(後に『エルヴィスから始まった』に改題)』(三一書房)という音楽評論。今60歳以上の本好きの方なら1974年(昭和49年)から長きに渡って、主に角川文庫から毎月の様に刊行された短編ショートショートをメインとする小説・エッセイ・評論群を覚えておられるだろう。その数、実に100冊にもなる。もちろんこの間これら以外にも片岡氏は少なくない数の著作を刊行している。

あるいは55歳以上の方なら1974年(昭和49年)から1988年(昭和63年)まで14年間、「気まぐれ飛行船」というFM放送の番組で片岡義男節とでも言うべき不思議なしゃべり方に親炙した記憶をお持ちかもしれない。

上記以外にも10冊以上の写真集、翻訳本が35冊。あまりの多作に多くの著作が絶版になっており、著作者自らの許諾の下で青空文庫に作品が収められている。

『ぼくはプレスリーが大好き(後に『エルヴィスから始まった』に改題)』で片岡義男は書いていた。

 

ディランは、自分の時代について、

「いろんなことが同時におこる」

とだけ言った。

歴史的な便宜のために一〇年間ひと区切りにされた一九六〇年代について、これほどに正確になされたステートメントは、ほかにない。一九六〇年代は深い分裂と疎外の時代であったとよく言われるが、これは精神的には意志薄弱で肉体的には虚弱体質な観察的概括以上のものではありえない。

片岡義男『エルヴィスから始まった』

 

ロックをはなれたところで、ビートルズはほかのすぐれた価値を持っている。

片岡義男『エルヴィスから始まった』

 

エルヴィス・プレスリーをスターにしようとはかったのはマネジャー、トム・パーカーの商業策であり、彼をうけとめた若い大衆にとっては、エルヴィスは、英雄などではなかった。音楽上の英雄などというものは、音によるコミュニケーションの不在の証明以外のなにものでもない。

片岡義男『エルヴィスから始まった』

 

片岡義男が半世紀の時間を経て書くボブ・ディラン、ザ・ビートルズ、そしてエルヴィス・プレスリーについて、伝説のロックバンド”はっぴいえんど”のベーシストであり、イエロー・マジック・オーケストラのリーダー、プロデューサーであった細野晴臣氏は次の様に述べたと腰巻きに書かれている。

「このように書かれた「彼ら」を読むのは初めてだ。圧倒された」音楽家・細野晴臣

この本に登場する彼ら三人の映画・ドキュメンタリーなどの映像はDVD37枚分。

その1枚1枚を取り上げながら、乾いた筆致で著者・片岡義男が「彼ら」への思いを綴った、一冊。エッセイ本文に添えられたディラン、ビートルズ、エルヴィスの貴重写真はなんと87枚。文章と絶妙に絡み合う、オールカラーページBOOKという豪華本となっている。

目次の一部を紹介しよう。

〈ザ・ビートルズ〉

・さきにかねをもらわないと

・ご家族みんなのビートルズ

・THE BEETLESと綴られたことは何度もある

〈ボブ・ディラン〉

・時代はとっくに変わった

・始まりの終わりの始まりの始まり

・答えを見つけることはとっくにやめたよ」

〈エルヴィス・プレスリー〉

・それは白黒シネマスコープの西部劇だった

・ピーナツバターとバナナのサンドイッチ

・偶然というものはない

【書籍詳細】

書名: 『彼らを書く』

著者:片岡義男

発売: 光文社

発売日:2020年4月22日

定価:本体2,000円+税

判型:四六判ソフトカバー、256ページ

さて50年前に『ぼくはプレスリーが大好き(後に『エルヴィスから始まった』に改題)』でクリアカットに時代と音楽を切り分けた片岡義男が、改めて伝説の〈エルヴィス・プレスリー〉〈ボブ・ディラン〉〈ザ・ビートルズ〉を俎上にのせて、伝説は何を語るのか。

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