【前回】
観光列車「etSETOra」に乗って地酒と瀬戸内グルメを堪能 「せとうち広島DC」を徹底解説!【味体験編】
https://tetsudo-ch.com/10772163.html

瀬戸内海の一等星

瀬戸内のグルメを味わいつくしたら、今度は「美」に目を向けてみましょう。瀬戸内海で一番有名な島は「淡路島」ですが、美しい島なら瀬戸内にもたくさんあるんです。広島県内だけでもうさぎと毒ガスで有名な大久野島、レモンの産地として知られる生口島、レトロな街並みが残る「御手洗」有する大崎下島……ポルノグラフィティの出身地である因島も忘れちゃいけません。

大久野島の廃墟を駆け回るうさぎたち(2019年の取材記事から)
大久野島の日常的な光景(2019年の取材記事から)
尾道市瀬戸田町耕三寺博物館の大理石庭園「未来心の丘(みらいしんのおか)」(2019年の取材記事から)
対岸の日本的な風景とあわさり思議な眺望をかたちづくる(2019年の取材記事から)
今もレトロな街並みが残る御手洗 オランジーナのCMでも有名だ
大衆劇場の雰囲気漂う御手洗の劇場「乙女座」

そうした島々への観光に便利なのが、JR西日本が用意した観光型高速クルーザー「SEA SPICA」です。西日本を天体に見立て、既に就航している「シーパセオ」と対になるよう命名されました。本船で広島~三原間を一往復する「瀬戸内しまたびライン」は、本州と四国を結ぶのではなく、瀬戸内海を東西に横切る航路となります。広島港・プリンスホテル・呉港・瀬戸田港・三原港での乗船・下船も可。

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本年9月から団体旅行向けの旅行商品として運航していましたが、10月2日(金)より個人旅行者も乗せる観光船として再出発。12月14日まで金・土・日・月に定期運航しており、乗船予約はJR西日本の「e5489」などで受け付けています。本来の定員は90名ですが、現在は新型コロナウイルス対策として定員を70人ほどに絞っているため、予約は若干取りづらいかもしれません。

今夏就航したばかりの真新しい双胴船ということもあり、見た目はほれぼれするほど綺麗です。前回の記事でも触れましたが、デザインはあの「WEST EXPRESS 銀河」や「えちごトキめきリゾート雪月花」を手掛けた川西康之さん。船内を見ていただければ分かるのですが、やはり同じデザイナーさんではありますから「WE銀河っぽい」とワクワクするような小ネタがたくさん散りばめられています。

ソファ型の座席はJR西日本経由で住江工業にお願いした 背中が波打つのは川西さんデザイン
身体が自然と窓を向くように座席は3度ほど傾いている かつての優等列車でも見られた工夫
テーブルにふちがないのは揺れる船内で気遣いを意識しやすいように テーブルを開くとロゴが見えるのはいかにも川西さんらしいデザイン
ユニバーサルデザインを意識し、車いすも合計三台載せられる
トイレは広々としており、おむつ替えのスペースもある
二階スピカテラスから眺める瀬戸内の景色と航跡が最高
瀬戸内の島々をイメージした形のソファーにカウンターテーブルを配置
ネームプレートはどこかで見たような……鉄は心当たりがあるかも
銀河は銀河でもこのランチボックスはレストラン船「銀河」のシェフが監修したもの

「SEA SPICA」の航路は往路・復路で異なり。午前便は広島から三原へ向かう途中に下浦刈島・大久野島で下船観光、逆に午後の三原港→広島港では、大久野島・御手洗で下船観光の時間が取られています。島を降りると地元の方々が歓迎してくれますよ。

立ち寄り先の島々ではSEA SPICAに合わせたおもてなしも用意されている
なんとコロナだけではなくPayPay払いにも対応

ちなみに記者の個人的な注目は「呉」――海上自衛隊に許可を取り、呉基地の中まで入っていくため、間近で護衛艦などが見られるんです。呉は観光地として名が知られているわけではありませんが、戦艦大和の造船ドックや大和ミュージアムは戦史に興味のある方には特に人気が高く、「せっかくなら船で行きたい」という方も多いのではないでしょうか。

呉は戦艦大和のふるさと
「あぶくま」「おおすみ」などがこんな間近で……
大和ミュージアムとゆめタウン

「SEA SPICA」の乗船時間は、途中で降りずに最後まで乗り通せば4時間半もの長丁場になります。それだけ船に乗ったら飽きが来てしまいそうなものですが、島々の美しさや立ち寄り先の美観に惚れて退屈を感じる暇もありませんでした。「etSETOra」の車窓からの眺めも良いものですが、せっかく瀬戸内に来たのであればこの「美」を体験しない手はありません。

臨時「ひかり」も増発、駅舎や周辺観光も良い

増発した新幹線で「SEA SPICA」や「etSETOra」に乗り継ごう 画像:JR西日本

さてここからは少しお得な旅の情報を。

前回ご紹介した観光列車「etSETOra」や今回の「SEA SPICA」に乗るには山陽新幹線が便利です。JR西日本は「せとうち広島DC」期間中の金土日を中心に、三原駅からスムーズに乗車・乗船できるよう臨時「ひかり」629号を運転します。この「ひかり」629号を利用した旅行商品も主な旅行会社で取り扱いますので、Go To トラベルキャンペーンなどを活用しながら巡るのが賢い回り方でしょうか。

もちろん「あわただしく旅をしたくない」という方もいらっしゃるでしょう。早めに着いて駅舎でぶらぶら時間をつぶすようなのんびりとした旅も良いものですからね。駅舎だって見どころがある。尾道駅はホテルも併設された立派な駅になっていますし、呉駅は全面的にではありませんがレンガ調の美しい駅にリニューアルしました。三原駅も駅改札口前に臨時の観光案内所や待合スペースを設置。その一角にはDC期間限定で八天堂が出店し、くりーむパンや地域限定の商品を販売して利用者に居心地の良さを提供します。

三原駅にはさりげなくこんなフォトスポットができていた

でも記者個人としては早めに到着するなら周辺観光をお勧めしたいところ。呉駅は先述の「大和ミュージアム」まで徒歩5分。三原駅には新幹線の行き交う様子を眺められる三原城跡という鉄スポットがありますし、竜王山の山頂から瀬戸内の多島美を眺めるのも良い。JR西日本のCMやポスターによく採用されている「竜王山からの眺め」を一度見てみたい――そんな撮り鉄向けのスポットです。まあ三原駅から山頂まで車で30分かかるのがネックといえばネックではありますが……。

駅と隣接する三原城跡から新幹線の行きかう様子を眺めることもできる
竜王山展望台から眺める瀬戸内の多島美

旅程も組めるスマートフォンアプリ「setowa」も活用!

Storeからダウンロードしておこう

さて、陸の「etSETOra」や海の「SEA SPICA」を中心に「せとうち広島DC」の観光チェックポイントを紹介してきましたが、まだどこを巡るべきか決めかねている方も多いかと思います。なにしろ見どころが多過ぎますし、旅行プランを立てるのは簡単なことではありません。

今はGo To トラベルキャンペーンを使えばかなりお安く周遊できますから、迷ったら旅行会社に相談するのが一番手っ取り早いでしょう。JR券と宿がセットになった旅行商品をお得な価格で発売していますし、「etSETOra」や「SEA SPICA」が組み込まれているプランならそうそうハズレを引くことはないはず。

でも「旅行会社に行くのは面倒」というケースもあるでしょう。記者もそういうタイプです。そんな人にはJR西日本が9月28日にリリースしたスマートフォン用アプリ「setowa」がおすすめ。旅のスケジュール作成や新幹線・ホテルの予約決済、旅先でのナビゲーションなど様々な機能が実装されており、アプリ限定の周遊パスなども購入できます。

実は昨年の実証実験時もちょっと触らせていただいたのですが、その時は率直に申し上げて「使いにくいな」という印象でした。確かにフェリーで特定の区間を往復するだけでほぼ元が取れるレベルの乗り放題チケットが買える、という価格面でのメリットはあったものの、操作性で相殺されていたようなイメージでした。でも一年かけてリニューアルされたアプリを見てみると、これが素晴らしい。動作もキビキビしていますし、モデルコースも充実してて使いやすそうです。setowaで旅行気分を高めてから旅行会社の窓口に行く、という使い方もアリでしょう。

最後に

おさらいになりますが、先日始まった「せとうち広島DC」のキャンペーン期間は2020年12月まで。JRグループと地元自治体が用意した様々な体験を、手軽に、お得に楽しめるまたとないチャンスです。

もちろん目に見えない感染症に対する不安はぬぐい切れるものではありませんが、取材した限りでは各観光スポットのコロナ対策もしっかりと講じられており、戦おうという意志と最大限楽しんでもらおうというおもてなしの心を感じる体制が整っていました。

せとうち広島はいいところ。一度は来てみんさいね。

文/写真:一橋正浩(2019年の取材写真:神森沙織)