新しい地下鉄は造りません!?

写真:鉄道チャンネル編集部

最近の鉄道チャンネルに、東京・須田町に「帝都高速度交通営団」と刻まれたマンホールの蓋があるというニュースが出ていました。そういえば少し前まで、銀座線や丸ノ内線は「営団地下鉄」なんて呼ばれていました。

帝都高速度交通営団の設立は、太平洋戦争開戦直前の1941年7月。営団は戦時体制に向け、東京地下鉄道、東京高速鉄道、京浜地下鉄道、東京市の営業路線と免許線の譲渡を受けた〝オール東京地下鉄〟の鉄道事業者でした。戦時中は小田急や京王が大東急に統合されましたが、基本の考え方は一緒です。

時は流れて1987年の国鉄民営化で誕生したJRグループが成功したので、政府は「次は営団地下鉄」と考えました。しかし、折からのバブル経済、さらにはバブル崩壊で早期の売却を見合わせ。2002年にようやく「東京地下鉄株式会社法」が成立し、2004年に東京メトロが設立されました。

ADVERTISEMENT

この際の有価証券報告書には「東京メトロとしては、現在建設を進めている13号線(副都心線。当時の話で、2008年に開業済みです)を最後として、その後の新線建設を行わない方針」が明記されました。「メトロとして、新しい地下鉄は造りません」ということです。この点が、今回の議論に大きく関係してきます。

かいつまんでいえば、「巨額の費用を必要とする地下鉄の新線建設は、民間企業の東京メトロでは難しい。これからのメトロは、列車運行や既設路線の改良に専念します」ということ。なぜそうなるのかは、稿を改めたいと思います。

東京メトロは優良企業

東京メトロの収入構造。右のJR東日本と比較すると運輸業(鉄道事業)のウェイトが高いのが分かります。 画像:交通政策審議会

東京メトロのプロフィールは資本金581億円で、国が53.4%、東京都が46.6%を出資します。2019年度の営業収益4331億円、営業利益749億円。2020年度はコロナで変わりましたが、かなりの優良企業です。政府がメトロ株を売却すれば、証券市場で話題を呼ぶでしょう。

思い起こせば、10年ほど前にもメトロ株売却に加え、都営地下鉄との一元化が議論されたことがありました。メトロと都営を一本化すれば運賃は割安になりますが、政府は「経営成績はメトロの方が良く、都営と一緒にすると株式価値が下がってしまう」と難色を示したとされます。

その代わり、2つの地下鉄の接続向上が図られることになり、九段下駅ではメトロ半蔵門線と都営新宿線のホームを隔てていた壁を撤去して、改札を通らないで乗り換えられるようにしました。さらにメトロ、都営を乗り継ぐ場合の割引額が、70円に引き上げられました。

メトロ半蔵門線(左)と都営新宿線が並ぶ地下鉄九段下駅ホーム。2013年3月に両線のホーム壁が撤去され、2020年3月には駅改良で上層階を通るメトロ東西線との改札外乗り換えが解消されました。 写真:筆者撮影

メトロ株の売却益は復興財源に

話を先に進めましょう。メトロ株売却で国保有分は、使い道が決まっています。「復興財源確保法(略称)」という特別措置法で、東日本大震災復興債の償還費用に充てられることになっています。

細かい説明は省きますが、復興庁の設置期限は当初は2022年度までとされ、それまでにメトロ株を売却することになっていたのですが、法改正で2027年度末まで5年間延長。いずれにしても、政府分はいずれ売却されるので、売却益の使い道をもう一度考え直してほしいというのが、東京都の国交省への緊急要請の趣旨なのです。